--.--.----:--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2009.07.1901:34

キミニヨバレテ


<プロローグ>

どこかの誰かの右腕。

知らない誰かの左腕。

記憶にない人の心臓。

話したこともない人の左足。

逢ったこともない人の右足。




――――全部繋げてデキタノハ、イッタイダレナノ?




<第1話 ざ・こーす・おぶ・らいふ>

目に悪そうなほどの白い部屋。
ベッドが一つあり、そこに男が眠っている。

彼の体からは、様々なチューブやコードが延びていた。
口には呼吸器が付いていて、彼が危険な状況であることが一目で解る。

ベッドの横には豪華なソファーが一つ。
そこに座る男は無言で、眠る男を見続けている。

表情には期待や不安などが浮かんでいた。
彼の顔を一滴の汗が流れ、床に落ちて小さくはじける。

すると、一つの変化が見られた。



「……ん」

寝ている男の表情が歪み、声が漏れる。
座っていた男は驚いて立ち上がると、寝ている男の顔をのぞき込む。

( ^ω^)「……お」

今度ははっきりと声を出し、起きあがる。
男は自分の状況がまるで解っていないようで、戸惑っていた。

( <●><●>)「あなたが戸惑うのはわかっています」

男はくりくりとした大きな目で、起きた男に言う。

( ^ω^)「こ……こ…は、な」

起きたばかりでうまく声が出せないようで、しどろもどろになっている。
それでも男は何が聞かれたのかを理解し、白衣を揺らしながら口を開く。



( <●><●>)「ここは、ちょっとした病院です。あなたは、長い間眠っていました」

男が聞き取りやすいようにと思ってか、区切りながら喋る。
そしてまた、同じようにゆっくりと話す。

( <●><●>)「もうお気づきかもしれませんが、あなたの四肢は、あなたのモノではありません」

目の大きな男は、それを言うと俯く。
それを訊いた男は、自分の手を何度も見る。
指の長さも、手のひらの大きさも、よく見ると肌の色も違う。

( ^ω^)「ぼく、は、だ、れ」

ねちゃ、と音を出しながら男は訪ねる。

( <●><●>)「記憶が無くなっていましたか……」

白衣の男はそう言って部屋を後にし、
手にいくつかの資料を持って再び部屋に入ってくる。





( <●><●>)「まずはこれを、喉が渇いたでしょう」

白衣の男はペットボトルの飲料水を渡す。
こくりと頷き、口の渇きを無くすように水を流し込む。

( <●><●>)「あなたの名前は、内藤ホライゾン。ブーンと呼ばれていました。
       ちなみに私の名前はワカッテマスといいます」

ワカッテマスは微笑みながら名前を教える。
するとブーンも口の両端を少し上げ、微笑む。

( <●><●>)「あなたはツンという女性を知っていますか?」

ブーンは少し悩んだ後、首を横に振った。
そのような人は知りません、と。

( <●><●>)「あなたを助けようと頑張っていたのは、ツンさんなのです。彼女は――――」

ワカッテマスはそこで口を噤む。
そして優しく言う。

「忘れていることを無理に言っても仕方がありませんね」




ブーンも今の状況がよく理解できていなかったため、
ツンという女性が誰なのか気にならなかった。

( <●><●>)「さて、少しずつあなたについて、
       お話ししていかなければなりませんね」

ワカッテマスはブーンに今までのことを説明する。
しかし、起きたばかりのブーンの頭は何も理解できないようで、
また今度改めて話すと言うことになった。





それからまた月日が流れる。
ブーンは最初、立つこともままならなかった。
しかし、時間はゆっくりと空白だった期間を埋めていき、
今ではしっかりと歩くことが出来る。

( ^ω^)「おっおっお」

少し形の違う両足。
手と同じように、やはり色もどこか違うように見える。

それでもブーンは気にしなかった。
記憶は相変わらず戻っていないが、きっと昔もこうしていたのだろうと。

ブーンが白い部屋の中で跳び回っていると、扉が開く。

( <●><●>)「調子は悪くないようですね」

ワカッテマスが大きな目でブーンを見て、笑う。

( ^ω^)「はいですお。ドクター」

ブーンは動くのを止めて答える。
そして、一つの質問をする。





( ^ω^)「僕は、誰なんですお?」

ブーンの質問にワカッテマスは額の皮を縮め、皺を寄せる。

( <●><●>)「あなたは内藤ホライゾンです」

ブーンはそれを肯定して、また喋る。
どこか悲しげな表情をしながら。

( ^ω^)「ドクターの話だと、僕の四肢と、心臓は他人のモノですお」

ワカッテマスは、「ああ、なるほど」と言って質問に答える。

( <●><●>)「あなたのベースはブーン、あなたなのです。
       誰の手足、心臓を持とうがあなたなのです。」

( ^ω^)「でも、僕には記憶がないですお」
 
そこでゆっくりっと呼吸をし、また言う。

( ^ω^)「だけどこの手足には、記憶がありますお」





( <●><●>)「……今、なんと?」

ブーンは同じ事をもう一度言う。

( <●><●>)「なぜ、そう思うのです?」

ブーンは手を眺めながら優しく答える。

( ^ω^)「最初は、ほんの違和感でしたお。
       右手が引っ張られるというか……」

ブーンは壁を見つめる。
何もない、真っ白な壁。
そこに引きつけられる、といったように。

( ^ω^)「それからは眠ると、何かが見えたんですお。
       そこに映っていたのは、僕の右手と全く同じ手。
       指も、色も、形も」





( <●><●>)「それが、右手の記憶だと?」

ブーンはコクリと頷く。
ワカッテマスは少し悩むと、ブーンに声を掛ける。

( <●><●>)「少し、待っていて下さい」

ブーンが頷いたのを確認すると、部屋を後にする。
一人部屋に取り残されたブーンは先程の壁を眺める。

生活に支障は無いほどの違和感。
無視などいくらでもできるほどの、小さな感覚。




ブーンは右手が羨ましかった。
体がある自分に記憶がない。
なのに、腕だけになっても、自分の記憶をしっかりと持っている。

もしかすると自分が気づいてないだけで、
他の誰かの部位も、何かしらの記憶を持っているのかもしれない。

ブーンは目を閉じる、眠っていたときよりも不鮮明に、記憶が見える。
髪を揺らす女性、水たまりに写る、映像の中の自分。

もっとこの映像を見たい、ブーンはぎゅっと目を閉じる。

――――ガチャリ。

閉まっていた扉が開く。

( <●><●>)「遅くなりました……。なぜ、泣いているのですか?」

( ;ω;)「お?」




ブーンは目の下に手を持っていく。
指でそっと肌に触れる。
しっとりと濡れていて、そこで初めて、自分が泣いていたことに気づく。

( ^ω^)「気にしないでくださいお」

ブーンは涙をぬぐい去ると、ワカッテマスに体を向ける。
ワカッテマスは少し不安そうな顔をしたものの、
何もないことを悟り、すぐに話を切り替える。

( <●><●>)「あなたに、もう一度説明をします。
       今度は、大丈夫ですね?」

( ^ω^)「はいですお」




( <●><●>)「あなたは、事故に遭い、四肢を失いました。
       ここでは、死んだがどこかが無事な人、
       どうしても治療が出来ず、死にそうな人を凍らせているのです。
       少しでも使える部分があれば使うために、そうしています。
       一つでも多くの命を救うために」

( ^ω^)「……」

( <●><●>)「あなたはすぐに凍らされ、一命をとりとめました。
       時が経つにつれて、少しずつ凍らされる人が増えていきます。
       そして、四肢を失っただけのあなたをベースに、他の人の部位を繋げました」

( ^ω^)「……そんなこと可能なんですかお?」

ブーンは疑問を口にする。
可能だからブーンがこうしているとはいえ、どうも現実離れしている。

( <●><●>)「ここはしっかりとした設備がありますから、大丈夫だったのです」




「あなたがすぐに信じられないのはわかっています」。
ワカッテマスはそう言うと、ブーンに書類を渡す。

( <●><●>)「そこには、あなたに繋がれた人たちの情報が載っています」

ブーンは、字が並ぶそれを時間をかけてゆっくりと見る。
この人達のおかげで、自分が存在できていると想うと、少し申し訳なくなる。

記憶の男の名前。
鬱田 ドクオ。

右腕は悲しそうにブーンを引っ張る。
やり残したことがあると言わんばかりに。

( <●><●>)「……あなたが、彼らの場所に行きたいと想うのはわかっています」

ワカッテマスは、寂しそうな顔をする。




( <●><●>)「……いつまでもこんな所にいるのも、なんでしょうし」

ワカッテマスはそっと微笑み、ブーンに言う。
ブーンの右手がトクトクと、確かな意思を見せる。

ワカッテマスは立ち上がると、壁を指差す。
そしてブーンに告げる。


「旅に出てみませんか?」




ブーンは白い歯を見せて笑う。

だが、気になる事があったのか、質問をする。

( ^ω^)「心臓の持ち主の資料、何でないんですお?」

その質問にワカッテマスは動揺した。
しかし彼はいっさい表情に出さずに答える。

( <●><●>)「すみません、見つけることが出来なかったのです。
       何せ資料は大量にありますから」

ブーンはそれを聞いて納得したようで、軽く頷く。
そして、右手を左手の親指でゆっくりとなぞる。

くすぐったく、なぜだか嬉しくて、ブーンはまた笑った。




( <●><●>)「さて……、旅に出るのならそれなりに準備が必要ですね」

ついてきて下さい。
その言葉に従い、ブーンはワカッテマスの後を追う。

ブーンは全く部屋からでないわけじゃない。
用を足すときはもちろん、気分転換に建物から出たりもする。

しかし、どこかに行ってしまおうと考えることはなく、
言われるがままに生活をしてきた。


廊下にあるいくつもの窓からは深い緑が見える。
雨が上がったばかりなのか、それらはキラキラと輝いていた。

ワカッテマスは歩くのを止め、
一つの扉の前で止まる。




( <●><●>)「その服装は旅をするのに相応しくありませんね」

ブーンの着ている服装は入院患者の着るような薄手のもの。
確かにこれでは旅は出来ないだろう。

( <●><●>)「これをどうぞ」

ワカッテマスは暗めのジーンズと、いくつかのシャツをブーンに渡す。
それに着替えるように促されたブーンは、着ていた物を床に脱ぎ捨て、
渡された物に体を通す。

( <●><●>)「似合うのはわかっています」

ブーン痩せているわけではない。
どちらかといえば太い方よりの標準。

ジーンズに、半袖のTシャツ。
Tシャツは薄い水色をしていて、涼しげに感じられる。




二人が部屋から出ると、ワカッテマスは、

( <●><●>) 「少し、入り口で待っていて下さい」

そう言って、またどこかに歩いていく。
ブーンは言われたとおりに、入り口でまつ。

小さなソファーに腰掛けて、手をじっと見つめる。
この手の持ち主の願いは何だろう、出来れば叶えてあげたい。
ブーンの思考はぐるぐると回る。

そんなことをしているうちに、
ワカッテマスが大きなリュックを持ってブーンの元にやってくる。

沢山の物が入っているようで軽そうには見えない。
それをドサリとブーンの足下に置く。

( <●><●>) 「さあ、準備が整いました」




(;^ω^)「これだけですかお?」

ブーンは少し焦ったように問う。
どう考えても一人分の荷物。
ワカッテマスはそれに申し訳なさそうに答える。

( <●><●>) 「この病院から離れるわけにはいかないのです」

それを聞いたブーンは少し不安になる。
記憶がない今、知ってる人は居ない。
知っている土地もない、そこに一人で飛び出すのは恐い。

( <●><●>) 「やめますか?」

ワカッテマスは冷たく言い放つ。
その言葉にブーンは首を横に振った。
そしてリュックを持ち立ち上がる。

( ^ω^)「行く、お」




( <●><●>) 「そう答えるのはわかっています」

ワカッテマスは微笑む。
ブーンが目覚めてからは、いつもこうやって笑っていてくれた。

( ^ω^)「……行きますお」

ブーンは荷物を背負う。
先程貰ったシャツも入っている。

( <●><●>) 「またいつか、逢いましょう」

ブーンは建物を出てからも、何度も振り返り手を振る。
その度に、ワカッテマスも手を振って返す。

( <●><●>) 「……行ってしまいましたよ、ツンさん」





「どうしても助けたいのよ!!」

「今からじゃ冷凍も間に合わないのは……解っているはずです」

「今すぐに、心臓が来ればいいんでしょ?」

「何を考えているのですか?」

「――――頼んだわよ」



( <●><●>) 「あなたに言われた通りにしましたよ」

ワカッテマスは、ソファーに腰を下ろした。
そして天井を見上げ、左手で目を隠す。

隙間から小さな水滴が頬をつたう。





――――。

ジワジワと陽が照りつける中、一人の男が旅に出た。
他人の手足、誰かの心臓を体に繋げて。

これは不思議なお話。

この世界は、未来よりも進歩しているかもしれないし、過去よりも退歩しているかもしれない。
時間を気にする人もいれば、時間という概念を持たない人もいるかもしれない。

どこかへ繋がる道が、誰かに繋がる道があります。
これはそんな道をたどる、一人の男のお話。

一つの体で複数の人生。
彼は、その一つ一つを歩きます。

持ってる地図はリュックの中。
彼は地図など見ずに、ただ道を行きます。





( ^ω^)「……お」

ブーンは空を見上げる。
着ているシャツと同じ色。

「おそろいだお」

腕を広げて道を走る。
右手が道を教えてくれる。

迷っても構わない。

いろんな所に行こう。
いろんな人に逢おう。

出来るならば望みを叶えよう。



蝉の鳴く声に混じって、一つの声が聞こえる。
それは空耳かもしれないし、
本当に聞こえたのかもしれない。

ブーンは振り返る。
今来た道を。
そしてまた走り出す。


「この旅があなたに繋がるのは、わかっています」




<第1話 ざ・こーす・おぶ・らいふ> END




-------------------------

<第2話 魔女の住む森>

幅3メートルほどの道。
地面はむき出しになっており、黄土色が続いている。

木々がその道を挟むようにして群生していた。

雲がほとんどない空の下、強い日差しは容赦なく降り続けた。
そんな陽気の中を一人の男が歩いている。

(;^ω^)

空色のシャツに暗い色をしたジーンズ。
シャツの襟は汗で深い青に染まっていた。

荷物を背負っているので傍からは見えないが、背中も相当なものだろう。

(;^ω^)「たまらんね」

太めよりの標準体型の男、ブーンは立ち止まり空を見上げる。
病院を張り切って出発したまでは良かったが、院内暮らしだったブーンにこの天気は辛かった。


いくら見上げれど雲ひとつない青空。
周りの風景も変わらないせいで、前に進んでいないのではないかという錯覚を受けていた。

それでも右腕、つまりはドクオはブーンを引っ張り続ける。

寝る時間がもったいない、立ち止まる時間ももったいない、食事なんて歩きながらすればいい。
何より、ドクオの目的の場所に何があるのかを知りたい。
そういった考えが、この日差しの中、ブーンをここまで歩かせた。

しかし、限界というものはくるのであって、
2日間ハイテンションで行動してきたブーンは完全に疲れ切っていた。

そんなブーンが突如、気が触れたかのように走り出した。
地面から少しでいいる小石に躓きそうになっても一心に走る。

(*^ω^)「ktkr」

道を挟んでいた木々がそこで途切れる。
ブーンの目の前には長さ10メートルにも満たない橋があった。

橋の向こうには今まで通りの道が続いていたがブーンは全く気にしていなかった。
ブーンの目に入っているのは流れる水、つまり川だけだった。

橋の脇にあるゆるい坂を下り、渓流に近づく。
大小様々な岩の上を疲れを感じさせないステップで通過する。

( ^ω^)「ん?」

そこでブーンは少し離れた所に人影があるのに気が付いた。

从 ゚∀从

肩より少し長いぐらいの赤い髪をした少女。
頭にはスエードの黒いキャスケットを乗せている。



少女は岩に腰掛け、川に足を入れながら涼んでいた。
傍らには投げ散らかした靴に、ギターケース、新緑の色によく似た色の自転車が置いてある。

ブーンは病院を出て2日、旅を始めてから一度も人に逢っていなかった。
人と話をするのが嫌いではない性格のため、少女の傍に駆け寄る。

从 ゚∀从 「!」

少女はブーンに気づいたようで岩から腰をあげ立ち上がり、ブーンに体を向ける。
ブーンは笑顔で近づき挨拶をしたのだが――――。

从;゚∀从

少女は顔をひきつらせて苦笑いをしている。
ブーンは訳がわからずまた一歩少女に近づく、その度に少女は髪を揺らし一歩後ずさる。

(;^ω^)「な、何で逃げるんだお!僕は怪しくないお!!」

正直、相当怪しいのだが避ける理由はそこではないらしい。



少女はそこで初めて口を開く。

从;゚∀从「・・・い」

(;^ω^)「へ?」

聞き取れていないブーンにもう一度言葉が投げられる。



从;゚∀从「スッッッッごく汗臭い!」



――――。

蝉の鳴く声と水が流れる音に包まれている中、
ブーンはジーンズの裾を膝のあたりまで上げ、川に入っていた。

(;^ω^)「申し訳なかったお」

ブーンはシャツを脱ぎ、それを川の水で念入りに洗っている。
ごしごしと力強く磨いては絞り、また水につけて磨くという同じ動作。

从;゚∀从「いやー。おどろいたよ」

少女は先程と同じように岩に腰掛け、川に足をつけながらブーンを見ていた。
足を前後に揺らし水をバシャバシャと鳴らす仕草はまだ幼さを感じさせる。



( ^ω^)「えーと・・・・」

ブーンは少女にここで何をしているのかを聞こうとして、言葉を詰まらせた。
名前を呼ぼうとしたが出てこなかったのだ。

まだ自己紹介もしていないのだから無理はない。

それに気づいたのかどうなのか。
少女は口を開き自分の名前を教える。

从 ゚∀从「私はハインリッヒ高岡、ハインでいいよ。よろしく」

微笑みながらの紹介に、ブーンは少し見とれてしまっていた。
背の高い木々が川に当たる陽を遮る中、ハインのいる位置は木漏れ日で白く光っている。
それにハインが背にする壮大な緑が合わさり、一つの美術品のように見えていた。



从 ゚∀从「どうかした?」

( ^ω^)「あ、いや、その」

見惚れていたなどと本人に言えるはずもなく、答えになっていない言葉を返す。
ハインは頭に疑問符を浮かべた後、違う質問をした。

从 ゚∀从「そっちは?」

ブーンは何を聞かれているのかが分かったようで、今度はしっかりと返答をする。

( ^ω^)「内藤ホライゾン。ブーンと呼ばれていたらしいですお」
  _,
从 ゚∀从「・・・らしい?」

訝しげな表情をしたハインをみてブーンは口を噤んだ。
自分に記憶が無いことを知っているわけではないのだから、軽はずみな発言は控えるべきだった、と。



ハインからの視線に耐えられなくなったブーンは、記憶がないことだけを簡潔に説明した。
よくよく考えたら、ブーン自体、どのような経緯でこうなったかを知らされていないのだ。

从 ゚∀从「そっか、大変だな」

大変と思っているようには聞こえないリズムで言われる。

从 ゚∀从「パッと見、旅してるみたいだけど?」

( ^ω^)「・・・世界を見て歩きたくなって」

咄嗟についた嘘。
それにハインは適当に相槌をうった。

( ^ω^)「ハイン・・・さんは、ここで何を?」

从 ゚∀从「呼び捨てで良い。私は・・・魔女に会いにきた」



( ^ω^)「魔女?」

从 ゚∀从「ああ。この森の何処かに居るらしいんだがな・・・」

ハインの様子からすると、どうやら会うことができなかったようだ。
ブーンがなぜ会いに来たかを訊くとハインは、「変わったやつに会いたかった」とだけ言って空を見上げる。

ブーンも同じように空を見上げる。
相変わらずだ、雲も無く、日が突き刺す。

水に波を立てながらブーンは陸に向かう。
陸に上がるとシャツを何度か絞り、パン、といい音を鳴らして皺をとった。


それから二人が他愛もない話に花を咲かせているうちに、ゆっくりと日が沈み始めた。
ブーンはこの河原で一晩を越すことをハインに伝えると、ハインも同じくここで睡眠をとるということだった。

从 ゚∀从「変なことするなよ」

ハインは、冗談交じりに笑うと持参の小型テントに入っていく。
すっかり日が沈み闇に包囲された空間では、パチパチと音を立てて火が燃えていた。

( ^ω^)「しないお」

ブーンはぼそりと呟くと、あっという間に眠りについた。



ブーンは夜中に一度も目を覚ますことなく朝を迎えた。
陽が山の間から顔を出し、少しずつ辺りを照らしてゆく。

从 ゚∀从「朝だ、一応起こしておく」

ブーンはハインに体を揺すられ、ゆっくりと体を起こす。

( うω`)「おー」

相当の疲れがたまっていたせいか、体が重い。
ずるずると寝袋から這い出るとハインが焚いている火の横へと向かう。

从 ゚∀从「ブーンは今日どうするんだ?」

ハインの言葉にブーンはゆっくりと口を開く。

( ^ω^)「あっちに行くお」

ブーンは自分が来た道とは反対の道、つまりは橋の向こう側を指さした。


从 ゚∀从「そうか。私とは反対だな」

ハインは軽い口調でそう言うと、ブーンに焼いた魚を差し出す。
この魚はどこから?、ブーンがそう訊くとハインは川を見て、「ここ」と、さも当たり前のように言った。

ハインは旅に慣れている、自分一人じゃきっと何もできない、ブーンは頭の中で答えを出した。
しかしそれをどうするというわけでもなく、ただ貰った魚に齧りつくだけだった。


川の流れる音と蝉の鳴く声。
意識した途端に入ってくるそれは、人の関係と似ていた。

出逢って一日も経っていないのに、ブーンにはハインとの別れがとても大きなものに感じた。
さっきまでは何てことは無かったのに、方向がバラバラになる、たったそれだけで食事中の会話すら無くす。

二人は食事を終えると荷物をまとめ始める。
陽は次第に高く昇り、白い輝きを放つ。



从 ゚∀从「よし・・・お別れだな」

橋の上、ハインは自転車の荷台に荷物を載せ、背中にはギターを背負っている。
緑色の自転車を脇に支え、ブーンに向き合いながら言う。

( ^ω^)「朝ごはん、ありがとうだお」

もっと言いたい事があるはずなのに、出てきた言葉はそれだけだった。
目の前にいる少女は小柄だ。
なのに、中身はブーンよりも何倍も大きい。

从 ゚∀从「今度会うときは歌でも聞かせてやるよ」

ハインは頬にえくぼをつくりながら微笑む。
旅はこんなにも辛いモノなのか。


少し歩いただけでクタクタに疲れて、朝も自分じゃ起きられない。
起きた所で朝食をとる余裕なんてない。
今持っている食糧が底をついたら――――。

まだ病院からそう離れてはいない。
幸い、ハインの行く方向と病院は一緒、このままついて行って、もう一度準備をし直そうか。

様々な思考がブーンの頭を巡る。
そしてまた一つのフレーズが浮かび上がる。






『やめますか?』




(  ω )「・・・・」

从 ゚∀从「どうした?」

地面を見つめるブーンの頬を汗が滑り落ちる。
その汗が足元で小さくはじけた。

それと同時に、蝉の鳴く声が耳に押し寄せてくる。

ゆっくりと顔を上げたブーンは、どこか弱そうに見える。
それでも確かにその顔は笑っていて・・・。

从 ゚∀从「いい笑顔だ」

(*^ω^)「そ、そうかお?」

ハインの言葉にブーンは頬を染める。
そしてお互いに、ふぅ、と息をつき、背筋を伸ばす。



( ^ω^)「歌、楽しみにしてるお」

从 ゚∀从「ああ」

「「いい旅を」」

ハインとブーンは互いに背を向けあい、高い陽の中を歩きだした。
今度は一度も振り返らない。

また今度会えたなら、変わった人の話をしよう。
知らない人の手足をつけた、記憶のない男の話を。

周りから聞こえる夏の音は相変わらず耳に響いてる。
しかそれは嫌なものではなかった。



ハインと別れて数時間が経った。
続く道は相も変わらず樹海道。

むき出しになった土を踏みしめ、右腕の言う通りに進む。
すると、右腕の違和感の方向が向きを変えた。

(;^ω^)「・・・え?」

ブーンは思わず引き攣った表情をする。
右腕が引っ張るのは木々が生い茂った森の中。

目を細めてみるが道というものは見えない。
しかし右腕はより一層力を強めて、ブーンに進むよう促す。

( ^ω^)「・・・わかったお」

他に当てがあるわけでもないので、ブーンは右腕に従い、森の中へ足を進める。
木々が陽を遮っているものの、気温は高い。

ブーンは険しい道を汗を垂らし、息を切らしながらも少しずつ進んでいく。
時折、木々の隙間から零れ出る木漏れ日に目を細めては立ち止まり、少し休んではまた歩くを繰り返していた。



右腕が少しずつ熱を帯び始める。
ドッドッ、といった鼓動もはっきりと伝わってくる。

大丈夫、ちゃんと行くから。
ブーンは何度も心の中で右腕に言い聞かせた。

シャツの襟をつかみパタパタと仰ぎ、中に風を送る。
中からは、もわっ、とした気持ちの悪い空気が上がってくる。

( ^ω^)「お!」

少し陽が沈み始めてきたか、というところで、緑の地面の上に変化を見つけた。
茶色い2本の線、何か・・・車輪の跡のようなものが地面を露にさせて続いている。



( ^ω^)「こっちかお」

どうやら右腕はこの道を進ませたいようだった。
ブーンは先程よりも力強く前へと進む。

そこで、些細な異変に気がついた。

( ^ω^)「風が全くないお・・・」

木々が体を揺らす音が聞こえない。
微量ではあったけれど、ブーンの体に触っていた風も感じない。

ふと上を見上げると、雲は少しずつ動いているようだった。
きっと何かの勘違いだ、たまたま吹いていないだけだ。
ブーンはその考えだけを頭の中に残し、また道を進む。



そこから少し歩くと、一つの家が見えた。
恐らく木で造られているであろう、白い家。

手前には自家栽培の小規模な畑が広がっている。
トウモロコシやトマト、キュウリに茄子といった夏の野菜が実っていた。

( ^ω^)「ここかお」

右手はしっかりと自分の意思を示している。
ブーンは右手に急かされるままに、家に一歩ずつ近寄る。

畑に近づいたところで、ぬっと人影が現れた。
背の高いトウモロコシに隠れていて気がつかなっかったのだ。

('、`*川「あら、こんにちは。お客さんなんて久し振り」

歳は二十代半ばだろうか。
すらりと伸びた手足は色が白く、細い体をより細く見せているようにすら感じた。



(;^ω^)「え、あのー」

何か言わなくては、しかし何を言えばいいのだろうか。
ブーンが焦っていると、女性はやさしく微笑み、かぶっていた麦藁帽を外しながら言う。

('、`*川「立ち話もなんでしょうし、中へ入りましょう」

ほんの少しあるそばかすが印象的で、ゆっくりと発せられる言葉はブーンの気持ちを落ち着かせた。
白いジーンズに茶色いTシャツ、彼女は扉を開け、「どうぞ中へ」とブーンを呼ぶ。

ブーンは少し遠慮がちになりながらも家の中に入ってゆく。

('、`*川「くつろいでてねー」

彼女はそう言い残し、何所かに消えていった。
ブーンはテーブルの椅子に腰掛け、窓の外を眺めていた。

緑が輝きを放っているが、それらが揺れている様子はない。



少しすると、女性がお茶を持って戻ってきた。
カップの中にはうすい黄緑が湯気を立てて淹れられている。
上には一つまみのハーブの葉。

ブーンは、すっと鼻にくるそれをゆっくりと口にする。
心からの「おいしい」という気持ちを女性に伝えると、女性はまた微笑む。

そして、女性から出る言葉にブーンは息を呑んだ。

('、`*川「てっきり、ドクオだと思ったんだけど。
     懐かしい感じがしたし・・・。こんなところに入ってくるんだもの」

(; ω )「!!」

ドクオ。
今そのドクオは右腕だけになってここに来ている。

(  ω )「今から言うことを、信じてほしいんですお」

('、`*川「・・・・」

女性は無言。
ブーンはそれを肯定と受け取り、話を進めていく。



記憶が無いこと。
四肢を失ったこと。
四肢、心臓が自分のものではないこと。

その中の一つ、右腕がドクオのものだということ。
そして、彼の意思によってここまで来たということ――――。

話を終えると、あたりはうす暗くなってきていた。
気がつくと右腕の違和感はほとんど感じない。

一通り聞いた女性はブーンに、もう一度確認を取る。

('、`*川「つまり、ドクオは死んだ。ふぁいなるあんさー?」

( ^ω^)「・・はい、ですお」

ブーンは肩を落とし、俯いている。

('、`*川「ぷっ・・・あはははははははは」

(;^ω^)「おっ!!?」

突然の笑い声にブーンはびくりと肩を揺らし女性に顔を向ける。



(;^ω^)「なんですお急に?」

('ー`*川「おかしくってしょうがないのよ。腕だけにもなって会いに来るなんて」

('、`*川「そいつの夢知ってる?飛行機とやらで空を飛ぶことよ。
     魂が飛んでちゃ、ざまぁないわ」

先程までのおしとやかなイメージは無い。
なぜこんな女性に会いたがったのか、ブーンにはそれが少しも分らなかった。

( ^ω^)「・・・れお」

('、`*川「・・・?」

(#^ω^)「ドクオに!謝れお!!」

怒鳴り声が女性にあたる。
女性は表情を変えない、それどころか憐れむような眼でブーンを見る。

('、`*川「あなた、この家の周りで何かに気づかなかった?」

(#^ω^)「・・・・」

ブーンの頭には一つの答えが浮かぶ。
そしてそれを口にする。



( ^ω^)「風、かお」

('、`*川「その通り」

道中にブーンが感じていたのは勘違いなどではなかった。

('、`*川「ここら辺は私の森。私が雨を降らせたいと想えば降らせられる。
     風が嫌いなら、風を吹かなくさせる」

そこまでを聞いて何かを思い出す。
本当に最近の会話だ。

『魔女に会いに――――』

( ^ω^)「あなたが魔女?」

女性はゆっくりと微笑みどうかしらねと、はぐらかす。
ブーンの怒りはいつの間にかどこかに消えていたし、気づいたら外は真っ暗になっていた。

「今日は泊って行きなさいよ」、彼女の一言にブーンは逆らえなかった。



空いた部屋に布団を敷いた後、オヤスミ、と一言つけて女性は自室に向かった。
先程、簡潔な自己紹介もすました。

彼女の名前は「ペニサス伊藤」。
この家、というよりこの森に一人で住んでいるのだそうだ。

ブーンは怒鳴ってしまったことを謝ったのだが、気にしないでと軽くあしらわれた。

( ^ω^)「ドクオ、これでよかったのかお?」

暗い部屋で横になり、ドクオに問いかける。
右腕は何も答えずに静かに鼓動するだけ。


いつの間にかブーンは深い眠りへと落ちていった。



晴れ渡る空の下。
目の前にはペニサス。

彼女は麦藁帽をかぶり、野菜に水をあげている。
こちらがペニサスを呼ぶと彼女は、「なによ」と言わんばかりの表情で振り返る。

「今日さ・・・飛ぶんだ」

「あっそ」

ペニサスはまるで興味が無いと言ったように視線を野菜に向ける。
そしてもう一度男に向きなおり言う。

「せいぜい頑張んなさいよ」

自分でも口元が緩むのがわかる。
こちらのにやついた顔を見て「締りがない」と、彼女は一瞥くれる。

「行ってきます」

「・・・ん」

ペニサスの返事を聞いたところで、夢が覚める。



('、`*川「あら、もう起きたの?」

二階にある部屋から降りてリビングに向かうと、ペニサスが朝食を作っている最中だった。
少しずつテーブルに料理が運ばれてくる中、ブーンは椅子に座り、窓の外を眺めていた。

木々は揺れようとしない。
この森に風が無いということを改めて実感する。

右手は今朝からズシリと沈み、ただの重荷のようにすら思えた。

('、`*川「はい、どうぞ」

トマトとレタスを挟んだサンドイッチに、目玉焼き、コーンポタージュ、それに紅茶。
旅をする上では十分すぎるほどの朝食で一日を迎えた。


昨日見た夢。
ブーンはドクオのやり残したことを完全に理解した。
それだと訴えかけるようにドクオは夢を見せる。

たった一言、この一言のためだけに、腕だけになっても意志を持ち、ここに連れてきた。



( ^ω^)「ペニサスさん」

ブーンの一言にペニサスは食事を中断させる。

('、`*川「何?」

( ^ω^)「泊めていただいて有難うございましたお。
       僕はここにあまり長居出来ないんですお。まだ、終わってないから・・・」

ブーンはゆっくりと左足をさする。
ドクオの意識が少しずつ薄れてきたのだろう。

今度は違う部位が感情を露にする。

('、`*川「あらあら。忙しないわね」

少し寂しそうに笑うペニサスに、もう一度ブーンは言う。


( ^ω^)「ドクオさんからの伝言ですお」

                           
                       「ペニサス、――――――――」



ペニサスは人に無い力を持っていた。
自分たちとは違う存在、人々はやがてペニサスと関わることを避けるようになった。

魔女、ペニサスはそう呼ばれ恐れられた。

ペニサス自信、人と触れ合うのがあまり好きではなかった。
そのためペニサスは人里から少し離れた森に住むようになる。

そこでの暮らしはとても素晴らしいものだったし、不自由なく暮らせていた。
そんな生活を続けていると、ある男がペニサスを訪ねてやってくる。

('A`)「魔女って・・・あんた?」


それが、鬱田 ドクオ。




('A`)「こんにちは」

('、`;川「うわっ・・・また来た」

あの日、つまりドクオが訪れた日を境にドクオはペニサスの元へ来るようになっていた。
ペニサスも最初は嫌がっていたが、何度も来る男に飽きれ、仕舞には一緒にお茶の時間を過ごしていた。

('、`*川「私魔女よ?怖くないの?」

('A`)「怖かったら会いに来ない」

他愛もない会話。
それでも二人にとってはそれが幸せだった。

彼女はドクオが飛行機の話をすると、決まって穏やかな風を吹かせた。
ペニサスの長い髪がゆっくりと揺れ、その度にドクオは「いい風だ」と微笑んでいた。

しかしブーンの見た夢、その日からドクオはペニサスの元を訪れることは一度もなかった。



最初の何日かはゆっくりとお茶をして待っていた。
緩やかに風を吹かし、いつの間にか自分にとって掛け替えのない人へと変わっていた彼を。

数週間が経っても来ない。
次第に彼女は不安になる、もしかして・・・。
その時の彼女には一つの考えだけが浮かんでいた。
しかしそれを必死に否定する。

一ヶ月が経つ頃、彼女は一つの考えを否定するのをやめた。
所詮彼も、私とは違う人間だった。

彼もまた他の者と同じように、私を恐れ消えたのだ、と。

彼女は彼を忘れようとした、しかしそれはとても難しいこと。


いつの間にか、彼女の住む森には風が吹かなくなっていた・・・。


( ^ω^)「わざわざすみませんお」

ブーンは玄関でペニサスにお礼を言う。
彼女が育てた野菜をいくらか貰ったのだ。

('、`*川「いえいえ、馬鹿が迷惑かけてごめんね」

ブーンはそれを聞いて右手を見る。
ペニサスに伝言を伝えたとき、すぅ、と、何かが抜けて軽くなった。
その瞬間ブーンは泣き出してしまった。

困り果てるペニサスを余所に、恥じらいも無くわんわんと。
そんなブーンの頭を、ペニサスは優しく撫でてくれた。

( ^ω^)「それじゃあ・・・」

ブーンは何度も頭を下げながら、少しずつ影を小さくして行く。
それを完全に見送ったペニサスは、辺りを見渡す。


どこを見ても思い浮かぶのは馬鹿のことばかり。
そのことにペニサスはうんざりする。

嫌いになったつもりでいたのに。
忘れてやると思っていたのに。

('、`*川「腕だけになっても会いに来るとは思ってなかったわ」

ペニサスは立ったまま俯く。
足元にはポツポツと水の粒がはじけていた。

( 、 *川「なんなのよ。一人で怒って、一人で泣いて・・・」

これじゃ私が馬鹿みたいじゃない。
そこまで言うとペニサスは扉に身を任せ、ずるずると座り込む。

(;、;*川「ああああああああああああああ」

悲痛の叫びが森を走る。
それと同時に、森に変化が起きた。



緩やかな風が彼女の髪を揺らした。

('、`*川「!!」

彼女は驚いた様子で立ち上がり、辺りを見渡す。
もちろん誰もいない。

森はざわざわと揺れ、またしても風が吹く。
今度はペニサスの頬を撫でるように優しく、ゆっくりと。

ペニサスが空を見上げると一匹の鳥が空を飛んでいた。
ゆっくりと旋回をして、まるで、誰かを見守るように。

('、`*川「・・・きれいに飛べるじゃないの」

泣きやんだペニサスは鼻をすすり家の中へとはいって行く。
テーブルの上には二杯のハーブティー。

「おかえりなさい」

淹れられたばかりのそれは、白い湯気を外からの風で揺らしていた。



( ^ω^)「お?」

今確かに風が吹いた。
そのことに気がつくと、ブーンは一度振り返る。

背の高い木々が陽を遮るようにしながら群生している。
ペニサスの家は見えない。

違和感の無くなった右腕が、その瞬間だけ力強く跳ねたように感じた。
ブーンはペニサスからもらったトマトに齧りつき、森を抜ける。

左足の違和感、今度はそれに従い道を進む。
すると、使われていない、錆びた線路が見つかる。

それの上を歩き、トンネルを通過すると、現れたのは海。
線路は海の上を続いている。

ブーンはその上を一歩ずつ、自分のペースで歩いて往く。
蝉の鳴く声はいつの間にか聞こえなくなっていた。



ある所に、空を飛ぶことに憧れた男がいた。
彼は何度も失敗したが、それでも飛ぶことを諦めなかった。

その結果、彼は空を飛ぶことに成功する。
彼は町の人々や、家族からの祝いの言葉を聞かず、懸命にひとつの場所を目指した。

その途中、不幸にも命を落としてしまうことになる。

しかし彼には、死んでも彼女に伝えたかった一言があった。
「行ってきます」と伝えた彼女にたった一言――――。

「ただいま」と。




<第2話 魔女の住む森>END




-------------------------

薄暗い部屋――――。

外は陽が高く昇っているが、窓から入る日差しはカーテンによって遮断されていた。
天井にはぼんやりと光るランプが一つ。

それなりに広く、壁には本棚がびっしりと並んでいる。
その中に本がぎっしりと詰まっていた。

部屋にあるテーブルにも本は積まれている。
その本に隠れるようにして読書をたしなむ者が一人。



どれくらいの時間が経ったのだろうか。
男はふぅ、と息をつくと本を丁寧に閉じ、机に立つ塔をまた一つ高くする。

その後しばらくは椅子に凭れ掛かるようにしていた。

何を思ったか不意に立ち上がり、窓からカーテンをずらす。
それと同時に入ってきたのは海に沈む赤い夕日。

男は目を細め、沈んでゆくそれをただじっと眺めていた。
男にしては長い髪、前髪は目にかかる長さだが、少し流すようにしてそれを避けている。
黒い髪は陽の光によって茶色く光る。

今度はカーテンを開けたままにしてテーブルのもとに行き、また本を手に取る。

太陽が見えなくなっても、少しの間、部屋はオレンジに染まっていた。



-------------------------

<第3話 波の上、紅い街と結ばれる靴紐> 
 
左足の意識に従って道を進んで3日が経とうとしていた。
ブーンは今も波の上を歩いている。

波の上と言っても、もちろん直接歩いているわけではない。
石で造られた道が、波から1メートルほどの高さで姿を見せている。

幅は中々広く、真ん中には一本の錆びついたレールが通っている。
行き交う人も少なくはなく、それぞれが自分の意志をもって行動していた。

もちろんブーンもその中の一人だ。
波は穏やかに揺れ、広がる海は果てが見えない。

( ^ω^)「なかなか長いお」

あとどれくらいか、左足は答えない。
答える術もないのだが。



そこでブーンは一つの考えに至る。
こんなにも人がいるのだから誰かに聞けばいいじゃないか。

( ^ω^)「流石、頭良いお!」

本当に頭がいいのなら3日も歩くだけなんてことはしない。
少しずつ紅に染まってゆく風景。

太陽が沈み少し経つと、視界から赤やオレンジといった色が消えた。

夜と言っても、まったく何も見えないというわけではない。
大きく光る月は海を照らし、キラキラと揺れる。

しかし、今日は休んで明日歩きながら誰かに聞こう。

ブーンは人と少し離れた場所に荷物を置くとゆっくりと腰を下ろす。
ザァ、とゆっくり聞こえる波の音が心を落ち着かせる。



ブーンの服装はジーンズに、Tシャツ。
そしてその上から黒い上着を羽織るといった簡単なものだった。

昼間はそれで丁度良いが、夜は少し肌寒く感じる。

( ^ω^)「まあ、なんてことないお」

独り言は海に呑み込まれていく。
と、そこに、一歩一歩ブーンに近づく足音があった。

( ^ω^)「お?」

ブーンは眺めていた海から目を離し、ゆっくりと振り返る。

(´・ω・`)「やあ。隣、良いかな?」

眉の下がった男。
ブーンはそれに微笑みながら、こくりと頷いた。



(´・ω・`)「ありがとう」

笑顔でお礼を言いながら、ゆっくりと腰を下ろす。
そしてがさごそと鞄を漁り、一つの紙袋を取り出した。

ブーンがそれを眺めていると、男はその中からパンを取りだす。

(´・ω・`)「僕はショボン、君は?」

パンを差し出しながら男は尋ねる。
ブーンはお礼を言ってパンを受け取り名前を言う。

(´・ω・`)「ブーン君、よろしくね」

二人は自己紹介を終えると、それぞれのパンに齧りついた。



( ^ω^)「そうだお、訊きたい事があるんだお!」

ブーンはパンを食べ終わると、何かを思い出したかのように手を叩く。
ショボンは突然の声に、少し驚きを見せるも、すぐにブーンの質問に耳を向けた。

( ^ω^)「向こうの陸地まであとどれくらいか分かるかお?」

(´・ω・`)「明日、日が昇り切る前に出れば夕方には着くと思うよ」

その言葉を聞いた途端、ブーンは顔を輝かせた。
ショボンの手を掴み、上下にブンブンと振る。

(;´・ω・`)「あ、あはは。良かったね」

ショボンの苦笑いに気づいたのかどうなのか。
ブーンはぴたりと手を止め、囚われていた手を開放する。

( ^ω^)「ショボンも向こう行きかお?」

自分の行く先と同じ方を指し尋ねた。
ショボンは「そうだよ」と、ゆっくりと頷き、また微笑んでみせる。


地面に置かれたランプの光がぼんやりと揺れる。
二人はただじっと、中で燃える火を眺めていた。

(´・ω・`)「ブーン君は、旅人?」

( ^ω^)「そうだお」

ショボンが独り言のように言った質問にブーンは返す。
同じことをショボンに聞くと、ブーンと同じように答える。

(´・ω・`)「目的も何もないんだけどね」

照れくさそうに笑うショボンはどこか大人びていた。

自分の旅、正しくは自分に繋がれた人たちの旅が終わったら自分はどうなるのだろうか。
ショボンのようにこの広い世界に飛び出せるんだろうか。

考え、硬直するブーン。
ショボンはそんなブーンを気遣ってか、「オヤスミ」と一声かけて横になった。

ブーンはそれから少しして考えるのをやめ、ショボンと同じように眠りについた。


起きると、ちょうど陽が出始めたようだった。
ブーンが体を起こすと、ショボンも起きたようで同じように体を起こした。

人に出逢う度に何かしら悪い方向に考えているな。
ブーンはまだ完全に覚醒していない状態でそんなことを考えていた。

(´・ω・`)「僕はもう少ししたら出発するけど、ブーン君はどうする?」

方向は同じなのだから合わせよう。
ブーンは慣れた手つきで寝袋を片付ける。

(´・ω・`)「ちょっと寄りたい所があるんだ。もちろんこの通路上なんだけどね」

( ^ω^)「かまわないお」

二人は支度を整え、一息ついてから立ち上がる。
この通路が終わるのもあと少しだ。



陽が昇り切るよりもだいぶ早くに出発したため、陸に着くのは昼過ぎだろう。
少しずつ高揚していく気持ち。

この通路は長いため、露店を出している者もいる。
途中、そこで食料を調達したり、場合によっては服も買うなんてこともある。

二人は店を見つけるたびに商品を見ては、あーだこーだと話をしていた。
それを見て「冷やかしならお断り」という商人もいれば、会話に混ざったりする商人もいた。

大したことのない会話で、すっと心が洗われる。
ただ綺麗な物ほど壊れやすいとはよく言ったもので、
会話をした後に来る別れはどれも楽なものではなかった。



そうこうしているうちに、一つの建物が見えた。
ただそれはおかしなことになっていた。

通路は海に挟まれている、透けていて綺麗なのだが、恐らくかなり深い。
だがあの家は明らかに通路の脇に建てられていた。

(;^ω^)「あの家どうなってんだお・・・」

遠目からみると赤茶色をした家。

(´・ω・`)「近づけばわかるよ」

ショボンはニヤニヤしながらブーンを見る。
それにブーンは「むぅ」と唸り、心なしか足を速めたようだった。

( ^ω^) 「おお~」

ブーンがタネを理解して出した最初の言葉がこれだった。



その家の周りももちろん海なのだが、かなり浅くなっていた。
海面から底までは10センチあるかないかだろう。

見ると通路のふちが家の周りだけ無く、通路は家を乗せるように凸状に広がっていた。

(´・ω・`)「寄りたい所ってのはここなんだ」

ショボンは家の扉を二度ほどノックする。
レンガ造りの丈夫そうな家。

/ ,' 3 「はいはい・・・、おお」

出てきたのは老人男性。
髪は白く、手も皺だらけだ。

(´・ω・`)「荒巻さん、お久しぶりです」

/ ,' 3 「ショボンよく来たのう」

二人の挨拶にブーンは置いてけぼりを食らっていた。
ぽつりと残される孤独感、これは厳しい。




/ ,' 3 「そちらは?」

優しい目つきでブーンを見る。
濁りのない綺麗な眼、目を合わせたら嘘もつけないような。
ブーンは、ぺこりと頭を下げる。

(´・ω・`)「こちらは、ブーン君。ブーン君、この人は荒巻スカルチノフさん」

荒巻と呼ばれた男性は家に二人を呼び入れた。
玄関では靴を脱いで上がる仕様になっていて、二人は靴を脱ぎきれいにそろえる。

玄関のすぐ脇はガレージのように空間ができていた。
扉も何もないため外からは丸見えになっている。
一階の多くはそこに場所を取っているようだった。

ぽっかりと空いた空間、それに気づいたショボンはきょとんとした表情をしている。

( ^ω^)「どうかしたのかお?」

(;´・ω・`)「え?あ・・、何もないよ」



玄関をあがり、少し奥に行った部屋に入る。
畳が敷かれており、外装とはまるで合っていない。

3人は腰を下ろし、少しの沈黙が走る。

(´・ω・`)「あの」

最初に声を出したのはショボンだった。
何やら訊きたげなことがあるという声で荒巻に尋ねる。

(´・ω・`)「お店は?」

/ ,' 3 「やめたよ」

(;´・ω・`)「なっ・・・」

質問に即答する荒巻にショボンは言葉を詰まらせた。
荒巻はそれが当り前であるかのように答えたのだ。

(;´・ω・`)「何故ですか!?」

ショボンは今にも掴みかかりそうな勢いで再び尋ねる。
荒巻は顎に手をやり低く唸った。



/ ,' 3 「もう年なんじゃよ」

荒巻は寂しそうに答える。
ショボンは顔を落とす。

( ^ω^)「もしよければ話を聞かせてもらえませんかお?」

ブーンはここに長居をするつもりはなかった。
だけど多少なり事情を知りたいという気持ちはある。
荒巻は「ああ、構わないよ」と笑顔をつくり昔話を始める。

波の上の商店、それがここだった。
物を売ることだけではなく、人との関わりを大切にしようとする。
そのために荒巻が創った店。

(´・ω・`)「僕は、この店が大好きだった。いつも笑顔で迎えてくれて」

ショボンがいつの間にか落ち着きを取り戻し、会話に混ざる。
会話、と言ってもブーンは相槌を打つだけだったのだが。


それでもショボンは諦められないといった様子で荒巻に言う。

(´・ω・`)「僕も手伝いますから、この店に――――」

ショボンがそこまで言うと荒巻が大きな怒鳴り声をあげた。
「ならぬ」、その一言はその場を沈黙させるには十分なものだった。

ブーンとショボンは目を見開き荒巻の方を見る。
怒鳴った本人は先程までの穏やかな表情でそっと、囁くように語りかける。

/ ,' 3 「こんな老いぼれの為に時間を使う必要は無い。
     まだまだ若いんだ、こんな所で決断を早まる必要はないよ」

ショボンはゆっくりと声を殺しながら泣き始める。
ブーンは何もできず、おろおろとするだけ。
荒巻はそんなショボンの頭をそっとなでる。

/ ,' 3 「ありがとう」

その言葉は波に消えてしまうような小さな声だった。
だけども、それはしっかりとショボンの耳に届いていた。




( ^ω^)「ご馳走様でしたお」

ショボンが泣き止み、少しお茶を飲んだところで出発することにした。
もちろんショボンも一緒に。

(´・ω・`)「・・・・」

無言でブーンの後ろに立っているショボン。
余程この店が気に入ったいたのだろう、落ち込みようが激しい。

/ ,' 3 「ショボン」

名前を呼ばれ、ショボンは荒巻の顔をじっと見つめる。

/ ,' 3 「もしこんな老いぼれと店がやりたいのなら、またいつか来なさい。
     それまでは、世界を知るべきじゃ。わしと違ってまだ先は長いんじゃ」

(*´・ω・`)「は、はい」

ショボンの顔は、ぱぁっと晴れ、子供のような笑顔を作る。
ブーンもそれを見て笑う。
嬉しさは連鎖する、結局はみんなが笑ってのお別れとなった。




(´・ω・`)「なんかみっともないとこ見せちゃったな」

ショボンがポリポリと頬を掻き、照れくさそうに言う。

( ^ω^)「・・・そんなことないお」

ブーンは人と別れることの辛さを知っていた。
回数こそ少ないものの、それは決して小さいものではない。

(´・ω・`)「僕、本当に小さい頃家出したんだ。その時にこの道を走ってたんだ。
      でも一度転んでさ、冷静になってみたら知らないところだし、足は痛いし」

ブーンはそれがどれだけ不安なことか分かっている。

(´・ω・`)「そんな時に荒巻さんと逢ったんだ」

あそこは僕にとってただの店なんかじゃないんだ。
ショボンは懐かしそうに呟く。



それからしばらくすると陸地が見えてくる。
ブーンは思わず走り出し、ショボンもそれに続く。

( *^ω^)「ふおおおおおおおお」

とうとう波に挟まれる通路が終わった。
気がつけば日は沈み始めようとしていた。

少し離れた所に街が見える。
あたりの木々は緑ではなく、赤や黄色といった色になっている。

石でできた道に沿って歩くと、右に枝分かれする道が現れた。
町はすぐ目の前、違和感も街に入るよう促す。
いつの間にか線路は無くなっていた。

そこで後ろを歩いていたショボンは足を止める。
ブーンは振り返る、それと同時に悟る。

( ^ω^)「お別れ・・・かお」

(´・ω・`)「うん・・一度家に帰るよ」



ショボンはそっと右手を差し出す。
ブーンはそれを右手で握り返す。

(´・ω・`)「この旅に、ようやく目的ができたよ」

ショボンは振り返る、波の上の店を。

( ^ω^)「いつか店に行くお」

微笑みながらブーンは言う。
二人はそれ以上何も言わなかった。

お互いに振り返ることなく己の道を進んだ。
わかっている、先はまだ長い。

まだ止まるわけにはいかない。

目の前の街、ゆっくりとそこに足を踏み入れた。




地面は石を埋められてできた通路。
建物はレンガなどを使って造られていてとても丈夫そうだ。

街、ということだけあって人はかなり多い。
市場や商店といったものも多くあり、祭りでもやっているのかとすら思えた。

( ^ω^)「すっげぇお」

キョロキョロとあたりを見回しながらゆっくりと歩く。
紅葉で紅い街、もう少ししたらその街がさらに紅くなる。

左足はブーンに通路を歩かせる。
ブーンは逆らうこともなくそれに従っていた。

というよりも逆らう必要はない。
それがこの旅の意味なのだから。



しばらく歩くと、街のはずれに出た。
そこで石の通路は途切れている。

そこからは緩やかな傾斜が続いており、土がむき出しになった蛇行した道がある。
その先にはほかの家よりもだいぶ大きな家。

豪邸、とまではいかないが、それなりに裕福なのだろう。

左足は明らかにその家の方向を指していた。
ブーンは蛇行した道に従い歩いて行く。

( ^ω^)「ここが・・・」

ここが、左足「流石 弟者」の目的のある場所。
ブーンは玄関の扉をゆっくりとノックする。

するとすぐに、ガチャリと扉が開き、人が姿を見せた。

@#_、_@
 (  ノ`)「はいよ・・・ん?」

中から出てきたのは女性、なのだが・・・。
何と形容してよいのだろう、ブーンの思考は停止する。


@#_、_@
 (  ノ`)「この街の人間じゃないね?どうしたんだい?」

見かけはかなり恐ろしいのだが、穏やかな口調での質問。
ブーンの肩に入った力はすっと抜け、女性の質問に答える。

( ^ω^)「・・・弟者さんのことでお話が」

@#_、_@
 (  ノ`)「!!・・・立ち話もなんだし、入りな」

女性はそう言って扉を完全にあける。
中からは暖かな空気と、香ばしい匂いが漂ってくる。

ブーンは弟者の名前を出した瞬間、母者の顔つきが変わったのを見逃さなかった。
本当に一瞬、眉がぴくりと動いた。

暖かな家の中に入ると、かなり広めの空間が広がっていた。
大きめのテーブルに複数の椅子、並べられた料理を見る限り、これから夕食なのだろう。


@#_、_@
 (  ノ`)「あんた、夕食は食べたのかい?」

ブーンが首を横に振ると、女性は「丁度良いね」と言って、ブーンを椅子に座らせる。
一人だけ座っているので、落ち着かない。

きっと、ここは弟者の家なのだろう。
だとしたらあの女性は母親なのだろうか?

目の前の料理の上では湯気がユラユラと踊っていた。
そこで、扉の開く音が聞こえる。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ただいまー。・・・っと、お客さんかい?」

ところどころ白い髪が見える男性。
ブーンを見るなり、こんにちは、と挨拶をしてくる。

( ^ω^)「こんにちは」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「行儀がいいな」

男性は荷物を置くと笑顔でテーブルの周りの椅子に座る。



@#_、_@
 (  ノ`)「ほらお前たち、夕食の時間だよ!」

母者が階段に向かって声を張り上げるとドタバタと足音が近づいてくる。
現れたのは小柄な女の子。

l从・∀・ノ!リ人「ご・は・ん、なのじゃー!・・・って誰なのじゃ?」

キョトンとする少女にブーンは微笑みながら挨拶をする。
少女はブーンのすぐ脇に座ると、ブーンの顔を覗き込む。

l从・∀・ノ!リ人「誰なのじゃ?」

少女がそう聞くと、母親と思われる女性から言葉が発せられる。

@#_、_@
 (  ノ`)「妹者、お兄さんには後で自己紹介をしてもらうから待ちな」



正直そこまでブーンに興味はないのだろう。
妹者と呼ばれた少女は、返事をするとすぐに料理に視線を向けた。

@# _、_@
 (  ノ`)「兄者!さっさと降りてきな!!」

女性はもう一度声を張り上げる。
少しすると、新たに人が現れた。

( ´_ゝ`)「お客?」

本当に静かに声を出す。
それは臆している声でもなんでもない。
ブーンが初めて会った彼に対する印象は「大人っぽい」だった。

@# _、_@
 (  ノ`)「説明は後だよ、さあ、食べようか」



食事はこれといった会話も無く進んでいった。
カチャカチャと食器のなる音と暖炉の火が燃える音が食卓を包む。

l从・∀・ノ!リ人「ごちそうさまなのじゃー」

妹者と呼ばれていた少女が合掌をする。
それを機に、皆がそれぞれに同じことをして食器を流し台へと運ぶ。

それも終わるとみんなが再び席に着く。
いよいよ本題だ。

ブーンは唾をのみ、喉を鳴らす。
これを説明するのには覚悟がいる。

殴られたっておかしくはない。
追い出されたって文句は言えない。

それでも説明しなければならない――――。



( ^ω^)「あの」

@#_、_@ 
 (  ノ`)「まずは自己紹介をしようか。私は母者。この流石一家の母親さ」

ブーンがいざ説明を試みようとすると出鼻をくじかれる。
母者はこりゃすまないね、と豪快に笑い、自己紹介を続けさせた。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「こっちの禿げ始めてるのが父者。一応この家の大黒柱さ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「どうもー(突っ込んだら殺される、突っ込んだらry)」

l从・∀・ノ!リ人「妹者は妹者なのじゃー。10歳なのじゃ」

父者は何かうずうずした様子、妹者は元気よくこたえる。
ブーンは彼ら一人一人によろしくと伝えながら自分の番を待っていた。



@#_、_@ 
 (  ノ`)「そんでこれが、兄者。この家の長男で、弟者の双子の兄さ」

( ´_ゝ`)「よろしく」

うっすらと微笑みながらブーンに声をかける。
やはりどこか覇気がなく、静かな物言い。
家族が誰も触れないところをみるとこれがデフォなのだろう。

そこで会話は止まる。
今度は自分の番か、ブーンは出されていた水で喉を潤す。

( ^ω^)「僕は、内藤 ホライゾン。訳有りで旅をしていますお」

母者は既に弟者のことだと感づいている様子で、ブーンをじっと見据える。
父者と妹者は興味深そうに、兄者はあまり関心を示さず、同じようにブーンに視線をやる。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「その訳ってのは聞いてもいいのかい?」



( ^ω^)「かまわないです・・・・お」

ブーンは最初から話をするつもりでいた。
だが、正直、妹者には聞かせたくないという気持ちがあった。

まだ10歳の少女が、兄の死を知ったらどうなるのだろうか・・・。
ブーンは気まずそうにチラリと妹者を見る。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「妹者、明日早いんだろう?風呂に入って、今日は寝ときな」

最初こそ嫌そうな顔をしていたが、すぐに明日のことが浮かんだのだろう。
「それもそうなのじゃ」と元気よく駆けて行った。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「これで話しやすくなったかい?」

( ^ω^)「お気づかい、ありがとうございますお」

ブーンはすっと息を吸い込む。
ゆっくりと呼吸を整え、説明を開始する。



( ^ω^)「先程も言ったように、僕は旅をしていますお。ただ少し変わってまして・・・」

( ´_ゝ`)「なあ、その話長くなるか?」

ブーンの言葉を遮るように兄者が口をはさむ。

( ^ω^)「なりますお・・・」

だったら俺も席を外させてもらうよ。
兄者はそう言って立ち上がる。

@#_、_@ 
 (  ノ`)「待ちな、弟者に関わることだよ」

母者がぴしゃりと言い放った。
父者は多少驚いた様子でブーンを見て、それにブーンは軽く返事をした。

兄者は表情を一つも変えず、ただ黙って椅子に座った。



( ^ω^)「僕は事故で四肢を失いましたお。覚えてはいないんですけど」

記憶喪失なんです、と付け足してまたゆっくりと説明に戻る。

( ^ω^)「僕がいた病院は、治療ができなくても、どこかが無事なら冷凍されるらしいですお。
       そのため、僕は冷凍されましたお」

視線はブーンの手足に集まる。
ブーンは右手で左手の甲を撫でるように触っていた。

( ^ω^)「つまり僕の手足は、本来僕のものではないんですお」

その場にいる四人は固まる。
話を聞いている間も、誰も動いていなかったのだが、確かに固まった。

薪がが燃える音がやたらと大きく聞こえる。
母者、父者もここでこの話をしたということで気づいたのだろう。

少しうつ向き気味になっていた。
兄者は頬杖をつきブーンをじっと見ている。




階段のほうから「おやすみなのじゃー」という可愛らしい声が聞こえる。
それにはっとしたように顔をあげ、父者と母者は返事を返す。

( ^ω^)「・・・続きを話しますお。ある日僕は違和感を感じたんですお。
       繋がれた右手が、意志を持っていて・・・。そして僕は旅に出ることにしたんですお――――」


――――彼らの望みをかなえるために。



( ^ω^)「右手の違和感が消えて、次に違和感を感じたのが左足ですお」

そこでまた呼吸を整え、水を流し込む。
中に水がなくなると、それを静かにテーブルにおく。

( ^ω^)「左足は僕をここに連れてきた。この左足の本来の持ち主の名前は、流石 弟者」

ブーンは頭を深く下げて謝罪の言葉を入れた。
別に誰が悪いというわけではないのに、さも自分が悪いといったように。

@#_、_@   
 (  ノ`)「顔をあげな、あんたが悪いんじゃないよ」

ゆっくりと顔をあげて母者の顔を見る。
笑ってはいるものの、どこか寂しそうだ。

父者は今にも泣きそうな顔をして何度も頷いている。



( ´_ゝ`)「話は終わったようだし、俺は自室に戻らせてもらうよ」

立ち上がり、複数腰をひねり歩いて行く。
双子なのになぜこうも冷めているのだ、ブーンは少し動揺する。

( ^ω^)「それだけ・・・ですかお?」

( ´_ゝ`)「それだけ?何が?」

兄者は振り返り、ブーンに問う。
ブーンが何も答えずにいると、また向き直り奥へと歩いて行く。

@#_、_@   
 (  ノ`)「弟者は、死んだんだね」

もう一度確認するように尋ねる母者に、ブーンは申し訳なさそうに頷き返した。
それを聞いて「ふう」と息をつき、背もたれに寄りかかるようにして天井を見上げた。

父者は力なく立ち上がると、風呂に入ってくると言って歩いて行った。
この場に残るのはブーンと母者のみ。


( ^ω^)「あの、兄者さんっていつもあんな感じなんですかお?」

@#_、_@   
 (  ノ`)「昔は違ったよ。やんちゃで、そこらを兄弟そろって走り回ってた」

母者は懐かしそうに話す。
今はいない弟者を思い出すかのように、さみしそうに。

@#_、_@   
 (  ノ`)「いつだったか、何を思ったのか急に冷めた子になってね。
      弟者はそんな兄者を見てどう思ってたのかね・・・」

母者の言葉から察するに、弟者がいなくなる前からそうなったのだろう。
そこで一つブーンは気になることが出てくる。

なぜ弟者はこうなったのだろうか。
そこら辺で致命傷を負ったのなら、近所の病院に行くだろう。
それに、もしあの病院に行ったことを知っているのなら、ある程度を理解してるはずだった。

しかし、ブーンはそれをどう聞いたら良いのか分からずにいた。
どんな言葉を言っても相手を傷つけてしまいそうで、それがとてつもなく怖かった。


そうこうしているうちに、父者が戻ってくる。
ブーンは風呂に入って来いと言われ、遠慮をしたものの押し切られ、結局はいることになった。

風呂に入ってしまえば、後はお決まりのようなものだ。

今日はここに泊って行けと言われ、部屋を渡された。
弟者が使っていた部屋だそうだ。

多少の本と、ベッド。
机には色あせたノートが並んでいた。

壁には靴紐がほどけた靴がかかっていた。
なぜこんな所にあるのだろうか。

一人で考えていると後ろから声が掛かる。
母者だ。

@#_、_@   
 (  ノ`)「何かあったら言いなよ」

それだけを言うと部屋の扉を閉め歩いて行く。



ブーンはこの旅をして思うことがあった。
何故、どうして、これを何度も口にする。

ベッドに横になり天井を見上げる。
そのまま右手を目に当て視界を遮る。

「みんなは、どう思ってるんだお」

瞼が重い。
右手をどけても視界は暗い。

ああ、目を閉じていたのか。
ものを考えることは少しずつできなくなっていった。
ブーンは弟者が使っていたベッドで眠りについた。



「・・・う」

声が聞こえる。
夢の中だろうか。

「・・とう」

少しずつ明確に聞こえてくるそれは、やたらリアルだ。
まるで自分が体感しているような――――。

不意に体に衝撃が走る。
ブーンは体を起こそうとするが、途中でピタリと止まる。

l从・∀・ノ!リ人「やっと起きたのじゃ~」

妹者がブーンに乗っかっていた。
先程の声は、夢などではなく、彼女がブーンを起こす声だったのだ。

( うω`)「お・・・、妹者ちゃんかお」

寝ぼけ眼をごしごしとこすりながら、ブーンは朝の挨拶を交わす。
妹者は「ご飯を食べに行くのじゃ」とブーンの服の袖をつかむ。



( ^ω^)「おっおっお」

ブーンは急かされるようにしてリビングへと足を運ぶ。
テーブルを見ると、父者、母者がすでに食べる支度をしているところだった。

( ^ω^)「おはようございますお」

ブーンの挨拶に父者と母者は優しく返す。
妹者の前ではくよくよしていられないのだろう。

昨日初めて会った時のような穏やかな雰囲気で食事を頂く。

@#_、_@   
 (  ノ`)「起こすかどうか迷ったんだけどね」

その結果がこれさ、母者は笑いながら言う。
なぜ兄者がいないのか尋ねると、彼はいつも朝食を食べないと聞かされた。

起きてはいる、とのことだった。
後で少し話がしたいと考えながら食べ物を口に運ぶ。




@#_、_@   
 (  ノ`)「内藤君、悪いけどあんたの荷物見させてもらったよ」

(;^ω^)「へ?」

思わず声が裏返る。
見られちゃいけないものなんて何も入ってはいない。
それでも何と言うか後ろめたいものが・・・。

ブーンが鞄の中を覗くと旅の道具が入っている、これはいい。
衣類系は汚れていないシャツが一枚。
そのほかの服は全くない。

@#_、_@   
 (  ノ`)「汚れてる服は全部洗っといたよ。勝手なことして済まなかったね」

そういうことか。
だったらむしろ感謝しなくてはなるまい。
それを伝えると母者は笑って食事を再開する。

( ^ω^)「一回部屋に戻りますお」

食事を終えていたブーンはそう言うと部屋に向かう。


部屋に戻ったはいいが、正直何もすることがなかった。
兄者のところに行くにしても、もう少し時間を置いてからの方がいいだろう。

ドクオの時は夢を見れたからほんの少しとはいえ、情報を得ることができた。
しかし、今回は夢を全く見ていない。
どうしたものだろうか、ブーンはため息をつく。

ベッドに腰をかけると、左足が意思をみせはじめた。
ブーンは即座に立ち上がり、部屋を飛び出す。

急げ、弟者の望みの手がかりだ。
ここに来ることがほとんどの望みだったのだろうか。
違和感は魔女の森にいたときほど大きくなかった。

血相を変えているブーンを見て、母者は驚いた様子をしている。
妹者と父者は出かけたか、その準備をしているのだろう、テーブルに姿は見えない。



@#_、_@   
 (  ノ`)「どうかしたのかい?」

母者に「少し野暮用を思い出しまして」と告げて家を飛び出す。

太陽はまだ寝ぼけているのだろうか?
やる気がなさそうに光を放っている。

昨日来た道とは少しずれた道、つまりは家の横側を進んで行く。
道は無く、ちっぽけな草の絨毯の上を駆ける。

ブーンは律義に踏んだ草たちに謝罪の言葉を入れながら進む。

消える前に、消える前に、消える前に。
いつの間にかブーンは涙を流していた。

どれだけ涙腺が緩いのか、自分でも驚くぐらいだった。
そもそもなぜ泣いているのかすら分からない。

もしかしたら、この涙は弟者の――――。

その考えが浮かんだ時、違和感が指示していた場所に着いた。
高台になっていて、そこから海を見渡せた。


違和感は一本の木の元へと歩かせる。
そこに辿り着き、辺りを見回してみるが、特に変わったものはない。

( ^ω^)(どういうことだお?)

呼吸を整えるために、木に凭れ掛かり海を眺める。
少しずつ弱くなっていく左足の違和感。

それは、まだ何かを求めている。
だがブーンにはそれが何なのかを全く理解できず、ただ途方に暮れるだけだった。

海からの風が気持ちいい。
ざわざわとなる木を見上げると、葉っぱの隙間から陽を窺うことができた。

( ^ω^)「どういうことだお?」

さっき頭に浮かべた台詞を、今度は口に出す。
違和感はここまで連れてきて、どうするかまでは教えてはくれなかった。



――――。

いつの間にか眠っていたのだろう。
陽は最も高い位置を通り過ぎていた。

一度家に帰って手がかりを探そうか。
そう思い立ちあがると、尻に着いた草や土を払う。

走ってきた道を帰るにしてはやたら早く感じられた。
家の前に立ち、扉に手をかける。

ああ、そういえば飛び出したんだっけな。
何か言われるかもしれない、その時は何て言おうか。

何の情報も得ていない今、弟者のことを会話に出すのは控えたい。
知人の所に行ってきた、なんて言っても信じてもらえるわけが無かった。

(;^ω^)「ええい、男は度胸」

勢いよく扉を開けて、中に入る。
扉から手を離すと、それは力なく閉まっていく。



@#_、_@     
 (  ノ`)「お帰り、野暮用は終わったのかい?」

(;^ω^)「え、ええ」

意外にも何のお咎めも無くすんだ。
というより何をそこまで恐れていたんだろうか。

みんなは昼食を食べ終えたようだった。
にも関わらず、母者はブーンにそれらを用意してくれた。

感謝しながらそれらに貪りつくと、母者は微笑む。
ブーンが不思議そうにしていると、彼女も椅子に腰をかけた。

@#_、_@     
 (  ノ`)「そっくりだよ、あんたは」

きっと弟者とのことを言っているのだろう。
どう反応していいのか困り果てていると母者は付け足すように話をする。

@#_、_@     
 (  ノ`)「これだけは覚えておいてほしいんだ。子供は子供でいるのが一番大人だよ」

ブーンが首を傾げていると、母者は「意味なんか分からなくてもいいさ」と笑い食器を片づける。
兄者さんは今どこに?、そう聞くと母者は、書斎にいるよ、と短く告げた。



書斎に入ると外の光だけが入っていて、独特の雰囲気を作り出していた。
たくさんの本棚、それらには本が大量に並んでいた。

( ´_ゝ`)「どうした?」

扉から入って正面にある机、そこには本が積み上げられていて、小さな砦のようになっていた。
そこからひょっこりと顔を現したのは兄者。

彼はその場から動こうとはせず、用があるのなら自分から来いと言わんばかりだった。
ブーンは最初からそのつもりだったため、兄者に近づく。

兄者の隣まで行くと、机の上にある一枚の写真に目がいった。
2人の男の子が肩を組んで笑っている。

( ´_ゝ`)「どっちが俺か分かるか?」

兄者の問いに、ブーンは困惑する。
正直、どちらも兄者じゃないように思えた。

仕方なく右を差すと、兄者は「ハズレ」と言ってみせる。
少し写真を見つめたあと、兄者はブーンに書斎に来た訳を尋ねた。

( ^ω^)「弟者さんはどんな人だったんですか?」

ブーンの質問に兄者は一言で返した。
「子供だよ」と。



( ^ω^)「子供?」

ブーンが兄者の言葉を繰り返すと、兄者は軽くうなずいた。

( ´_ゝ`)「小さい頃はいつも一緒に遊んでたよ。騒いでは大人に怒られ、悪戯してはまた怒られ。
       弟者と俺は、いつかこの街を飛び出そうとしていたんだ、もっと色んなものが見たくてさ」

そこで兄者は一息つく。
無口、というわけでは無い様だが、相変わらず静かな口調。

( ´_ゝ`)「だけどさ、人ってのはいつか大人になるものじゃないか。
       それでも弟者は相変わらず飛び出すつもりでいたよ。子供のころから何も変わっちゃいない。
       俺は馬鹿らしくなってな・・・、本を読んで知識をつけようとしたんだ。
       いつまでも子供じゃいられないだろう?本は何でも教えてくれるからな」

兄者は鼻で笑うようにして再び写真を見る。

( ^ω^)「それで・・・弟者さんは?」

「飛び出して、それっきりさ」と、兄者は言う。
ブーンは何かモヤモヤしたものを胸につっかえながらも、お礼を言いその場を去る。

向かう先は自室、その中のベッドに腰掛け、左足を眺めた。



( ^ω^)「弟者さん・・・」

ブーンは少し不安になってきていた。
まだ弟者は望んでいることがある。

だけど、かなり力が薄れてきている。
というより、今度は違う部位がゆっくりと違和感を露にしてきたのだ。

新たな違和感は、急いでくれ、と言わんばかりにブーンを急かす。
それでも今は弟者のことを、そう途方に暮れていると、あっという間に時間は流れていた。

いつの間にか日は沈み始め、街をオレンジ色に染めてゆく。
それを眺めていると今度は、あたりが暗くなる。

そうこうしているうちに、夕食だということを告げられ、申し訳ないと思いながらも、食をともにした。
明るい夕食の時間が終わり少し経つと風呂を借りて入る。

こんな事をしている場合じゃないと思いながらも、他にどうしたら良いのかわからなかった。

( ^ω^)「先に寝かしてもらいますお」

母者、妹者、父者に軽く頭を下げ、弟者の部屋に行く。
兄者はまた書斎にこもっているようだった。



明日早く起きて、手がかりを掴もう。
寝る時間が多ければ、長く夢を見れる。

そう考えたブーンは横になる。
ゆっくりと目を閉じて、心の中で弟者に問いかける。

望みを言ってくれ、できるなら叶えるから。
まどろむ意識の中、ブーンは写真の中の二人を思い出していた。




『宝物を埋めよう。ここが俺たちの旅の、宝のありかだ』

聞いたことの無い子供の声で目が覚める。
ブーンは目をこすりながら宝物、宝物と繰り返す。
寝ぼけているだけなのだろうが。

この街に来てから三日目。
ほとんどと言っていいほど進歩していない。

朝食をとり終えると、兄者とブーンを残してそれぞれが出かけて行った。
また何か聞こうか、ブーンは書斎へと足を運ぶ。

兄者は相変わらず本を読んでいた。
いったいどれくらいの時間本を読んでいるのだろうかと疑問に思う。

( ´_ゝ`)「内藤か。どうした?」

お話をしに来ましたと言って昨日と同じように歩み寄る。
やはり置かれているのは写真、それを見て今朝聞いた言葉を口にする。

無意識の行為だった。

しかし、兄者は目を見開いてブーンを見ると、すぐに部屋から飛び出した。



(;^ω^)「兄者さん!?」

ブーンは走って行く兄者の後を追いかける。
あまり体力がないのか、足が遅いのか、すぐに追いつくことができた。

(;´_ゝ`)「宝物、弟者・・・」

さっき言った言葉は弟者が生前に言った言葉なのだろうか。

周りなど見えていない、ただ一心不乱に駆けて行く。
そこは昨日ブーンが同じようにして通った道。

(;^ω^)「ど、どうしたんですお?」

(;´_ゝ`)「うまく説明できない!見て悟れ」

懸命に走り、ついた場所、やはり昨日と同じ場所。
兄者は昨日ブーンが体を預けていた木の根元を掘り起こす。

素手で何度も何度も。
爪の間に土が入り、指先は切れ、それでも何度も掘る。

ブーンはそれを見ていることしかできなかった。
いや、弟者が手を貸すなと言っているように思えていた。



少ししたら、古錆びた、お菓子を入れるような箱が出てきた。
兄者はボロボロになった手など目もくれず、箱を開ける。

中に入っていたのは色褪せた紙に書かれた絵と、手紙のようなもの。
兄者は絵と手紙を見て、力なく笑う。
ブーンが立ちつくしていると、兄者が立ち上がり、家の方へと歩いて行く。

ブーンは兄者の後に続くように家に向かう。
その間は会話などなく、何か寂しさだけを感じられた。

兄者が扉を開けると、帰ってきていた母者と妹者が出迎える。
その二人は兄者を見て驚いた様子だったが、彼の手を見てさらに驚きを大きくした。

そして一つ、ブーンの体に変化があった。
二つあった違和感が、今、完璧に一つになった。

左足から完全に弟者の意識がなくなる。
ブーンは俯き肩を震わせた。

だけどここで泣くわけにはいかない。
ブーンは思いっきり天井を見上げ、目を拭う。

@#_、_@
 (  ノ`)「洗濯した服は鞄に戻しておいたよ」

母者からの言葉聞いて、決心する。
行かなくてはならない、と。



もう次の目的地に向かわなきゃ。

そのことを流石家に伝える。
母者は「そうか」と笑っていた、その瞳は少し潤んでいた。

妹者は、えー、とがっかりしていた。
好かれていたのだろうか、と少し嬉しくなる。

兄者はブーンを見て――――。
いや、ブーンの左足を見ながら言い放つ。

( ´_ゝ`)「その足、置いて行ってくれないか?」

静かに、冷たく、当たり前のように。



ブーンは黙りこくる。
母者は兄者に怒鳴り声を浴びせていた。

兄者は、冗談だから気にするな、と言う。
だけどブーンは首を振り、答える。

地面を見つめたまま、震えた声で。

(; ω )「悪いのは僕なんですお・・・。自分だけ生きてて。
       本当ならこの足だって、返さなければならないのに」

どうして誰も責めなかった。
なぜ快く迎え入れてくれた。
なんで――――。

そこでブーンの頬に衝撃が走った。
ブーンは尻もちをつき、見上げる。

兄者が右手で拳を作り、ブーンを殴ったのだ。

( ´_ゝ`)「ふざけるな」


兄者は続ける。

( ´_ゝ`)「お前はきっと誰かに責めてもらいたかったんだろうな」

ブーンは咄嗟に首を横に振るが、その通りだった。
兄者はブーンに怒鳴り声を浴びせる。

(#´_ゝ`)「ふざけるな!それはもうお前の足なんだ、手だってそうだ!!
       責められて楽になりたいか?だったらいくらでも責めてやるよ。だけどそうじゃないだろう?」

(#´_ゝ`)「お前がいつまでもそうしてるとな、そいつらが迷惑なんだよ!
       死んだら終わりなのに、もう一度チャンスをン貰えたんだぞ。むしろ感謝するぐらいだ」

(#´_ゝ`)「どんな本を・・・」

(#;_ゝ;)「どんなに本を読んでも、人に再会する方法は載っていなかった」

( ;_ゝ;)「それどころか、死に対しての絶望感が積もっていくばかりだった。
なのにこうしてもう一度会わせてくれた。誰も・・・責めるわけないだろう」

兄者はブーンの胸倉を掴み何度も叫ぶ。
母者も泣いていた、妹者は状況を理解していないようで、困った様子だ。

ブーンもいつの間にか涙を流していた。


2人は母者になだめられ、テーブルの椅子に座らされる。

( ´_ゝ`)「殴って悪かったな」

目を赤く腫らした兄者が謝る。
それに対してブーンも同じように謝り、お互いに気まずそうに微笑んだ。

ちょうど昼時ということもあり、昼食を食べてから出発することにした。
普通の旅人だったらここまで急いだりはしないだろう、だがブーンは変わっている。

そうしている間も違和感はブーンを引っ張る。
食べたら行くよ、だからもう少し待って。

母者はブーンの鞄の脇に小袋を置く。
食べ物入ってるから持って行きな、と豪快に笑う。

( ^ω^) 「ありがとうございますお!」

ブーンは食事を終え、一息つくと、椅子から立ち上がる。
まだ陽は高い、少しでも前に――――。



ブーンが荷物を背負うと、妹者が玄関の扉を開ける。

l从・∀・ノ!リ人「内藤!ちっちゃい兄者にあったらよろしくなのじゃ。
        おっきい兄者にそっくりなのじゃ!!」

妹者は弟者が死んだことを知らない。
今もどこかにいると思って――――いや、いるんだ。

そうだよ、弟者はまた歩き続けるんだ。

( ´_ゝ`)「ちなみに弟者は俺とそっくりじゃないぞ」

( ^ω^) 「お?」

( ´_ゝ`)「そっくりなら、俺はもっと自分を好きになれていたはずだからな」

ブーンはそれを聞いて笑うと、兄者に言う。

( ^ω^)「今からでも遅くないお」

それを聞いた兄者は「そうか、そうなのかもな」と呟く。
母者は妹者の頭に手を乗せブーンに声をかける。

@#_、_@
 (  ノ`)「いつ帰ってきたっていいんだよ」

その言葉は、ブーンと弟者、両方に向けられていた。


( ^ω^)「お世話になりましたお。父者さんにもよろしくお伝えください」

ブーンは深くお辞儀をした後、振り返る。
ゆるい斜面は下り坂、そこから街を見て、海を見る。

道に一歩踏み出して、後は次の目的に向かって歩き出す。
弟者は今も歩いている。

後ろからは流石家の人たちの見送りの声が聞こえていた。

ブーンは一度だけ振り返り、大きく手を振った。



@#_、_@
 (  ノ`)「行っちまったね」

母者が何気なくつぶやいた一言に兄者は「ああ」と返す。
兄者はブーンではなく、どこか遠くを見ている。
見送り終えた妹者は部屋に行ったようだった。

@#_、_@
 (  ノ`)「にしてもあんたが外に出るなんて珍しいね。手まで怪我して・・・ん?」

母者は兄者が傷だらけの手に握っている物に気づく。
それはなんだいと言う質問の声に、兄者はそれを母者に軽く投げる。

@#_、_@
 (  ノ`)「・・・はは」

母者は目を細めてそれを見て、口元を緩める。
クレヨンで描かれた、兄者と弟者が小さい頃描いた不器用な絵。
背景には海や山、きっと彼らが本で読んだであろう世界が描かれている。

( ´_ゝ`)「こんな手紙もあるぞ」

母者はそれを受け取り読む。
絵と比べたらだいぶ新しい紙に書かれている。

本当に一言だけ。




               「靴はくれてやる、さっさと靴紐を結べ」





@#_、_@
 (  ノ`)「あの子らしいね。で、あんたはいつまで大人の真似事をしているつもりだい?」

母者の一言に兄者は苦笑いで返す。
そうだ、旅をするにはまだ遅くない。

( ´_ゝ`)「知識ってさ、いくら溜めても使わなきゃ意味がないんだよ」

@#_、_@
 (  ノ`)「だったら使いなさい。履いて行く靴はあるんだろう?」

母者が言う、笑いながらも凛とした表情で。

( ´_ゝ`)「そうするよ。もう休憩は終わりだ。宝物を探しに行くんだ」

弟者が見た景色を探そう。
弟者がいけなかった場所に行って、あいつに言うんだ「ざまぁみろ」って。
そして、宝物の埋まる場所に帰ってくるんだ。

――――弟者と一緒に。

兄者は駆け足で自室へと上がっていく。
きっと書斎の利用可数も極端に減るだろう。





母者はやれやれといった様子で椅子に凭れる。
やっぱり似てるよあんたら兄弟は。

自分のやりたい事をしなきゃ駄目だ。
周りの目なんて気にする必要はないのさ。
転んでも起きて、地面踏みしめな。

わがまま言っても構わないさ。

「子供は子供でいるのが一番大人だよ」


母者は一人きりの空間でひっそりと呟いた。




<第3話 波の上、紅い街と結ばれる靴紐> END







昼間だというのに辺りは薄暗い。
グレーの空にはそれよりも少し黒に近い雲が広がっている。

( ^ω^)

空とは違う真っ白な世界に足跡を付けて歩く男が一人。
首にはマフラーを巻いて口元を隠している。

複数重ねた服の上から長めのコートを羽織って、寒さをしのいでいるようだ。
空から降る白くふわふわとした雪は、体につくと色を失う。

( ^ω^)「もう少し、待つお」

男は、しんしんと積もる雪を踏み固めながら、目的地を目指していた。



-------------------------

<第4話 冬の天道>



弟者の望みを満たしてから幾らかの月日が流れた。
だんだんと寒くなる空気は、肌に刺さるようにブーンを襲う。

( ^ω^)「・・・ふぅ」

時々マフラーを口元からずらしては冷たい空気を吸い込む。
吐き出す息は白い。

空を見上げると、灰色の紙にぽたぽたと白い絵の具を垂らしたようだった。
違和感は感慨にふけるブーンを急かす。

( ^ω^)「そんなに急ぐのかお?」

歩きながら、違和感に語りかけるように独り言をつぶやく。


今回の違和感の持ち主は「杉浦 ロマネスク」。
ブーンは彼の右足と繋がれていた。

弟者の街にいたときから、彼は何かに遅れないようにしているようだった。
もちろんそれがなんなのかはブーンには分からない。

どうせ着いてしまえば分かるのだろうが。

ブーンはただ彼の望みに遅れないように歩くだけだった。



いつの間にか雪が降ってきた。
いつの間にか雪に囲まれていた。
いつの間にか雪の上を歩いていた。

途中見つけた街に立ち寄っては、最小限の準備を整えて出発。
何とも忙しないのだが、これがこの旅らしいな、とブーンは割り切っていた。

どうしてもまた来たいのなら、全部が終わった後にすればいい。
その全部がいくつあるのか分からない以上、ブーンは急ぐしかない。

( ^ω^)「冷たいおー」

ブーンは頭にかかった雪を手で払う。
残念ながらフード付きの服や、帽子などは手に入れることが出来なかったのだ。

雪は触れた途端に溶けてしまうため、正しくは水滴を払うのだろう。
ブーンは何度もそれをしながら、転ばぬよう気をつけていた。


それからまた少しの日が過ぎた。

空は最近には珍しく、蒼い顔を見せている。
陽の光に照らされた雪がキラキラと光る。

積もった雪の表面は少し溶けているようで、柔らかかった雪は砕けた氷のようになっていた。
手に取ってみると、ジャリジャリとしていて、じんわりと溶けるのが分かる。

( ^ω^)「ほっ」

小さな玉を作っては遠くに投げる。
何もせずに風景が同じ道を行くのに飽きたのだろう。

( ^ω^)「おりゃ」

何度もそれを投げる。

( ^ω^)「ふんっ」

またしても。


しばらくするとそれにすら飽きたようで、肩を落とす。

今までの違和感は速めのテンポで達成できたが、今回は違う。
右足はなおも訴え続けていた。

するとブーンは急に何かを考え始めた。
そう、右足が見せる夢についてだ。

いや、見るというよりも聞いたという表現の方が正しいだろうか。
会話が聞こえてくるのだ。
目を覚ましても忘れない、大切な記憶。

いつも聞こえるのは、ロマネスクと可愛らしい声――――。



『マスター、これはなんです?』

『マスターではない。ロマネスクだ』

『ロマネスクとマスターは違う人物なのですか?』

『いや、同じだけど・・・』

『ならマスター、これは何です?』

『・・・これは天道虫だ』

『テントウムシ?あ、止まりましたよ!!』

『死んだふりだろう』

『死んだふり?』

『危機を感じるとそうやるのだ』

『いまいちわかりません・・・』

『少しずつ覚えればよい』

『私、テントウムシ好きです。テントウムシは何が好きなんですか?』

『花・・・であろう、自信は無い』

『なら、たくさん花を植えましょう。きっと素敵です』

『うむ。それも悪くないな』

『マスター、テントウムシが死んだふりをしています』

『・・・これは死んだふりではない』

『だって、動きませんよ?』

『ふりではないのだ、死んだのだ』

『どうしたら動きますか?』

『土に埋めてやろう、きっと空で動けるようになる』

『私もいつか止まりますか?そしたらまた空で動けますか?』

『ああ、お前も、吾輩も止まるだろうな。そしてきっと動ける』

『でも、マスター私ここが好きです』

『ああ、吾輩もだ』



これを聞いた時は何とも思わなかったが、何か引っかかる。
少女とロマネスクの会話、うまく表現できないが、違和感を感じてしまうのだ。

それも着けば分かるというのなら、行くしかあるまい。

そして、視界に変化が現れた。
遠くの方で灰色の煙が上がっているのだ。

何かを燃やしているのだろうか。
走りたいという衝動に駆られるが、流石にそれはできなかった。

誰が作ったか知らない通路があるとはいえ、下は雪だ。
表面が溶けて、テカテカと光るそこを走るのは難しい。
間違いなく転ぶ。



ゆっくりと、気をつけて。
自分に言い聞かせながら前に進む。

やっとのことで辿り着いた場所は、一つの街だった。
流石家のいた街よりは小さいが、大きな工場がいくつも並んでいた。

まず思ったのが、異色であるということ。
人も多いのだが、それ以前に違うものが歩いている。

人の形を模して作ったようなモノが歩いているのだ。
とても重そうな荷物を運んでいるモノもいる。

(;^ω^)「なんぞこれ・・・」

初めてみる異様な光景にブーンは目を丸くする。
機械の街、と言い表すのが一番良いのだろう。

ただ立っていてもしょうがないため、足を進める。
右足の違和感はこの街を指していると思ったが違うらしい。


食料を調達してすぐに出よう。
そう思った矢先だった。

右足はその時間すらも許さないと言わんばかりに引っ張るのだ。
ブーンはそれに驚き、違和感に従い街を突っ切る。

入ってきた入り口とは正反対の入り口。
ブーンにとっては出口となるのだが、そこから目を凝らすと一つの家が見えた。

どれぐらい離れているだろうか。
歩いてみなければ分からないのだが、違和感は恐らくあそこを指している。

( ^ω^)「・・・よし」

荷物なんて後でそろえればいい。
今、やるべきことはロマネスクの望みをかなえること。

再び歩くことになった雪の通路を慎重に進み家を目指す。


家の前まで来て何を躊躇うことがあるのか。
右足がそう言っているような気がして、遠慮勝ちながらも扉をノックする。

返事は無い。

( ^ω^) 「あのー」

もう一度ノックするが返事は無い。
まさか誰も住んでいない?
この寒い中、右足が汗をかいている気がする。

(;^ω^)(ちょ・・・どうするのこれ)

慌てふためきながら辺りを見回す。

雪。

街。

雪。





( ^ω^)「お?」

もう一度見る。

雪。
街。

ここで、街の方から人が歩いてくるのが確認できた。
よく見ると隣には小さな犬もいる。

( ^ω^)「あの子かお」

右足はしっかりと意思を表す。
きっとあの子がこの家の持ち主。

手には大きな荷物を抱えている。
その子が覚束無い足取りで歩いて――――。

( ^ω^)「あ」

転んだ。





(;^ω^)「大丈夫かお!?」

荷物を家の前に置き、転んだ子に駆け寄ろうとするブーン。
しかし下は雪道である。

(;^ω^)「あ」

転んだ。

(;^ω^)「いてーお」

尻もちをついたブーンは、ゆっくりと立ち上がる。
転ばないように、気をつけながら。

「大丈夫ですか?」

顔をあげると、先程転んだ子が目の前まで来ていた。
右手を出して、「立てますか?」と。

( ^ω^)「どうもですお」

ブーンはその手を取り、立ちあがる。
彼女の手は恐ろしく冷たく、思わず離してしまいそうになった。




(*゚ー゚)「気を付けてくださいね」

彼女はそう言うと、軽くお辞儀をしてブーンの横を通り過ぎていく。
あまりにもあっさりとしていてブーンは惚けてしまった。

2人の距離が少し離れると、ブーンもようやく我に返る。

(;^ω^)「ちょっと君、ロマネスクって知ってるかお?」

思わず駆け足になってしまう。
しかし今度は転ぶことなく彼女の元へと行くことができた。

(*゚ー゚)「ええ、私を造ってくださった方です」

(;^ω^)「へ?」

造った?生んだじゃなくて?
ブーンは必死に言葉の真意を知ろうとするが失敗に終わる。

(*゚ー゚)「マスターのことを御存じなのですか?」

彼女は柔らかく笑い、ブーンに尋ねる。




( ^ω^)「・・・ええ」

(*゚ー゚)「そうですか」

ブーンが重々しく放った言葉を余所に、彼女はそれだけを言って家に入っていく。
彼女は相変わらず笑っているようだった。

( ^ω^)「え、あれ?」

▼・ェ・▼「わん」

犬はブーンに一瞥をくれ、彼女と同じように家に入っていく。
雪と静寂の中にブーンは取り残されていた。

彼女はロマネスクに馴染み深いのではないのか?
あの声は夢で聞いた声と同じものだった。

ならばなぜ反応を示さない。
兄者と同じタイプなのだろうか。



ロマネスクはというと、家に入れと指示をしているようだった。
ブーンは少し拗ねながら荷物を拾い、扉を2、3度ノックする。

(*゚ー゚)「はい」

扉をあけて出てきたのは先程の少女。
当たり前なのだが。

彼女の足には小型の犬が身を寄せている。
相当懐いているのだろう。

( ^ω^)「ロマネスクさんのことでお話しすることがありますお」

今度はどんな反応をするのだろうか。
ブーンの脈は少しずつ早くなる。

(*゚ー゚)「そうでしたか。お入りください」

やはり表情を崩さない。
ブーンは言われるがまま家の中に入ってゆく。




ブーンは説明をする前に、目の前の少女に訊きたい事があった。
それはロマネスクとの関係。

夢の中の会話や、実際に接してみて、引っかかる点が多すぎる。
まずはそれを聞いてから話をしよう。

窓際にあるテーブル、そこの椅子に座り少女と向かい合う。
少女は変わらない表情でブーンをじっと見つめていた。

( ^ω^)「僕の話の前に、一つ聞きたい事があるんだお」

(*゚ー゚)「なんでしょうか」

( ^ω^)「君とロマネスクの関係は?」

単刀直入に訊くブーンに少女は首をかしげていた。
「先ほども言いましたが?」と言われブーンはますます頭を抱える。



(*゚ー゚)「私はマスターに造られました」

それはさっきも聞いた。
ロマネスク、君は一体どんな教え方を――――。

そこで少女は何を聞きたいのか分かった様子で手を叩く。
ブーンもそれと時を同じくして何かに気づく。

( ^ω^)「君、人間じゃないのかお?」

(*゚ー゚)「やはりそれが訊きたかったのですね」

彼女はブーンの考えが解ったことがよほど嬉しかったらしい。
声のトーンが淡白なものから明るめのものになっていた。

(*゚ー゚)「私は機械です。造ってくれたのがマスターです」

機械というものがこれほどまでに人間に似るのかと考える。
さっき通ってきた街に居たのは、無機質な人型だったから。

(*゚ー゚)「ご用件をお聞かせください」

少女の声はまたしても淡白なものに戻っていた。
犬は暖炉の火で温まるように寝そべっている。

これで話すのも3回目。
部位だけでいえばもう半分だ。

( ^ω^)「それじゃお話しますお――――」

彼女はブーンの話を身動き一つすることなく聞いていた。
ロマネスクが死んだということを聞いた時も「そうですか」の一言だった。


( ^ω^)「――――以上ですお」

ブーンが話を終える。
それを聞き終えた彼女の反応は、

(*゚ー゚)「お疲れ様です。今コーヒーをお持ちします」

これだけだった。

( ^ω^)(どう見たって人なのに・・・)

感情が無いのか、というとそうではないのだろう。
ブーンの考えを当てた時、確かに彼女は喜んでいた。

( ^ω^)(ロマネスク、望みは何だお)

ロマネスクの意思というのは今までで一番大きかった。
まるで時間が限られているかのような。

そこまで考えると、彼女がテーブルに二つのコーヒーを置く。

(*゚ー゚)「冷めないうちにどうぞ」

ブーンはカップを手に取り、湯気を無くすように息を吹きかける。
二度ほど湯気を消すと、ゆっくりとそれを口に運ぶ。



外は暗くなり始めていた。
そういえば彼女の名前をまだ聞いていない。
ブーンはコーヒーを啜りながらぼんやりと考えた。

(*゚ー゚)「しぃ、です」

彼女はコーヒーを飲み終えたブーンの質問に答える。
熱いのが苦手なのか、何度も吹いてはちびちびと飲んでいる。

(*゚ー゚)「マスターは空に居るんですね」

唐突に彼女は呟く。
やはりさみしいのだろうか。

( ^ω^)「・・悲しいかお?」

(*゚ー゚)「いいえ」

やっぱりか、と、ブーンはため息をつきそうになる。
しかし彼女の口から出た言葉は意外なものだった。

「私も、もうすぐ行きますから」



( ^ω^)「それ、どういうことだお?」

その言葉を聞いた時、予想は簡単にできた。
何故ロマネスクが急いでいたのもわかった。

しかしそれを信じたくなかった。
だから訊いた、「もしかしたら」、こんな期待をしていた。

(*゚ー゚)「停まるんです。明後日、私は活動を終了します」

外はいつの間にか表情を変えていた。
あれほどまで穏やかだった空は鉛色になり、見境の無くなった風が雪を運んでいた。

ロマネスクの望み。
それは彼女を看取ることなのだろう。

推測にしか過ぎない。
だけどもそれがあっているような気がしてならなかった。



「マスターの部屋で寝てください」、彼女が言った言葉だ。
しかし、彼の部屋の散らかり方はあまりにもひどいものだった。

結局ブーンは暖炉の近くのソファーで一夜を過ごした。



こんなにも気が重い朝は久しぶりだ。
ブーンは黙って窓の外を眺める。

昨日の夜から変わることのない天気。
窓に張り付く雪は、時間が経つごとに少しずつ形を変えてゆく。

(*゚ー゚)「朝食できましたよ」

彼女の一言でブーンは辛気臭い顔を取り払う。
彼女が笑っているのに自分がこんなのじゃ駄目だろう、と。

( *^ω^)「おいしそうだお」

(*゚ー゚)「どうぞ、召し上がってください」

その一言をきっかけにブーンは朝食を口にする。
彼がそれをすべて平らげるのに時間はかからなかった。

(*゚ー゚)「お聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」

( ^ω^)「なんだお?」

(*゚ー゚)「私は出来損ないですか?」

( ^ω^)「そんなことないお!」

彼女から他の機械は命令のみを実行すると聞いた。
しかし、しぃは自分の意志を持ち行動している。

感情だってある。
出来損ないどころかほぼ完ぺきだろう。

(*゚ー゚)「ありがとうございます」

彼女はそう言うと席を立ち、洗い物をしに行く。
ブーンは暖炉の近くのソファーで犬を撫でていた。

▼・ェ・▼「わん」

犬は悩みごとなど無いかのように吠える。
それを見てはブーンはどこか寂しげに笑う。

暖かい部屋の中でブーンはゆっくりと目を閉じた。


( ´ω`)「・・・お?」

足元では犬が丸くなり寝ている。
こちらも眠ってしまっていたようだ。

外は暗いがまだ夜にはなっていない。
そこで足に何かを感じる。

しぃが右足を枕にする形で寝ていた。
気持ち良さそうに寝ている彼女を見ていると、機械であることを忘れてしまう。

晴れていたらこの位置にも陽の光が当たる。
そしたらもっと気持ちよく眠れるのではないか。

だが天気はこちらの言い分を聞いてくれない。

ブーンは彼女の髪をそっとなでる。
白い髪のショートヘア。

しばらくはこうしていよう。
彼女が起きるまで、こうしておいてあげよう。

ロマネスクもそれを望んでいる。
彼女の親なのだから。


彼女は目覚めるとすぐに、「すみません」と謝り夕食の支度をしに行った。
ブーンは手伝おうとするが、お客様ですからと言われ、ただ待つのみ。

( ^ω^)「お前はどうするお?」

▼・ェ・▼「?」

犬に話しかけても何も返ってこない。
苦笑いをしながら頭を撫でてやる。

気持ちを良さそうに尻尾を振る姿はとても可愛らしい。

この犬は、ロマネスクがこの家を出た後に、しぃが拾ったらしい。
名前は特に無いとのこと。

(*゚ー゚)「さあ、食べましょうか」

しばらくすると彼女が料理を運んでくる。
手の込んだ夕食を迎え、自然と笑顔に変わる。

「最後なんですね」

彼女が消えるように呟いた一言は、ギュッと胸を締め付ける。
それは誰に言ったわけでもないのだろう。

(*゚ー゚)「どうしました?」

ブーンは彼女の問いかけに答えることが出来なかった。


夜は一層暗さを増す。
ブーンは昼間に多く睡眠をとったため、眠くなかった。

ソファーから暖炉の火を眺めていると、彼女がそばに寄ってくる。
トン、とブーンの右側に腰をかけ同じように火を見つめる。

(*゚ー゚)「もう一度お話聞かせてもらえませんか?」

( ^ω^)「旅のかお?」

(*゚ー゚)「はい」

ブーンは前に話したことをもう一度聴かせる。
あの時と同じ内容、しかし少し明るめに。

目の前にある彼女の顔はあの時と違っていた。
話によっては眉を曇らしてみたり、くすくすと笑ったり。

やっぱりそんな表情ができるんじゃないか。
なんでもっと早く見せてくれなかったんだ。

ブーンは泣きそうになるのを堪えながら話を続ける。
何もしてやれないのだろうか。


彼女はいつの間にかブーンの方に身を寄せて眠っていた。
近くにあった毛布を取ってそっとかけてやる。

僕も少し寝よう。
彼女が起きた時、眠かったなんて言ってたら話にならない。

眠くないが、目を閉じ無理矢理に眠ろうとする。
すると次第に意識は朦朧としていき、最後には眠りにつくことができた。


( ^ω^)「・・・」

朝が来ていた。
吹雪は止み、温かな陽が差していた。

彼女はブーンが起きた時に一緒に起きたようだ。
暖炉をぼんやりと眺めながら、弱くなった火に薪を燃べる。

それをやった直後、彼女は「あ」と小さい声を上げる。

(*゚ー゚)「もうこんな事しなくても良かったんですね」

もう停まる時間は近いですし。
その一言にブーンははっとして、立ち上がる。

(;^ω^)「あの街の人!あの街の人たちならなんとか出来るんじゃないかお?」

(*゚ー゚)「ええ」

ブーンの考えをあっさりと肯定する。
ならばなぜ黙っていた、何故それを言わなかった?
ブーンは尋ねた。

彼女は優しく笑うと問いかけに答える。


(*゚ー゚)「テントウムシ」

(;^ω^)「え?」

こんな時に何を。
ブーンは戸惑うがしぃはすぐに口を開く。

(*゚ー゚)「死んだふりは、テントウムシの特権ですよ」

彼女はそう言ってほほ笑む。
それに、きっと今からじゃ間に合いませんよ、と付け足して。

ブーンには理解できなかった。

(*゚ー゚)「だから少しでも傍にいてください。マスターと一緒に居させてください」

それが彼女の本心だったのだろう。
彼女のことを想う人はもうこの世にはいない。

だったら――――と。



ブーンはソファーに座りなおす。
「膝をお借りしてもよろしいですか」と訊かれ、頷いて返すと彼女は嬉しそうに横になる。

(*゚ー゚)「私、この世界が好きなんです」

( ^ω^)「・・・うん」

(*゚ー゚)「春は暖かくて、夏は騒がしくて、秋は寂しくて、冬は綺麗で」

ブーンは黙って頷いて彼女の髪をなでる。
くすぐったいですよ、という彼女は嫌そうではなかった。

(*゚ー゚)「でも、マスターがいた時は、もっと好きでした」

( ;ω;)「そうか、お・・・」

堪えられなくなった涙がいくつも落ちる。
最後は笑顔を見せるはずだった、なのに――――。

(*゚ー゚)「嬉しいのですか?」

( ;ω;)「え?」


(*゚ー゚)「マスターは嬉しいことがあると、それをたくさん流していましたよ」

しぃはそう言って涙を指す。
ブーンは違うと言って首を横に振る。

( ;ω;)「これ、は、涙って、言って、悲し、い、時にも、でるん、だお」

途切れ途切れになりながらもブーンは声を出す。
「悲しいのですか?」この一言に今度は縦に首を振る。

すると彼女はブーンの涙を指で掬い、自分の目に持っていく。
なかなかうまくいかないようで、それは流れることはなく、目元を濡らすだけとなった。

(*゚ー゚)「ほら、出来ました!涙です」

ようやく流れた涙は、彼女の頬を伝ってゆく。

(*゚ー゚)「これは、悲しくてうれしい涙です」

( ;ω;)「・・・・」


(*゚ー゚)「あなたが泣いているのが悲しいです。空に行けるのは嬉しいです」

「マスターがいますから」

彼女はそれを言って目を閉じる。
時間はすぐそこまでやってきていた。

「春になると、ここにはたくさんの花が咲くんです」

「マスターを驚かせたくて、毎年植えていました」

「空にも、きっと花があります、テントウムシも飛んでいます」

「マスター、そちらはどんな所ですか?」

「また、私をそばに置いてくれますか?」

「その時は、涙の流し方を教えてください」

「あなたの横で、笑いたい。泣いてみたい。したいことはたくさんあります」

( ;ω;)「しぃ・・・」

もう彼女は動こうとしない。
ブーンは声を押し殺せずに泣いていた。

最後に彼女はゆっくりと声を出した。





    「ロマネスク、造ってくれてありがとう」





( ;ω;)「しぃ?」

ブーンは彼女の体を起こしゆっくりと抱きしめる。
彼女は眼を閉じ微笑んでいた。
もう完璧に停止した彼女の目元、

――――それは先程よりも多く濡れていた。




( ・∀・)おう、どうしたんだい?」

ブーンは街に来ていた。
彼女の墓を作ろうと思ったが一人ではどうしようもなかったのだ。

( ・∀・)「そうか、ロマネスクは死んだのか・・・」

続いて彼女が停まってしまったことも伝える。

( ・∀・)「出来損ないが停まった?」

言葉だけを見れば殴ってやりたくなる。
だが男の口調は寂しそうなもので、そんな気にはなれなかった。

( ・∀・)「機械なんて、命令だけ聞いて動けばいいんだよ」

( ・∀・)「あいつは機械としたら出来損ないだ」

「でも、人間としてみたら俺は好きだったよ」

彼の声は震えていた。
墓を作りたいということを言うと快く了解してくれた。



( ・∀・)「・・・よし。一号、二号帰って作業を続けてくれ」

|1━◎┥|2━◎┥「了解シマシタ」

機械の協力を得て、二つの墓を作った。
片方はロマネスクの、片方はしぃの。

しぃは、この下に眠っている。

男は墓を拝むと、すぐに背を向けて街に戻ろうとする。
ブーンはそれに声をかける。

( ^ω^)「あの」

( ・∀・)「どうした?」

( ^ω^)「ありがとうございました。・・・ここに花は咲きますか?」

( ・∀・)「・・・ああ。とても綺麗だ」

いつまで見ていたくなるような、彼はそう言って歩いて行ってしまった。
ブーンは足もとに居る犬をそっとなでる。



( ^ω^)「一緒に来るかお?」

犬に尋ねると、すぐにその場に座る。
動こうとはしない。

( ^ω^)「・・・お墓頼んだお」

▼・ェ・▼「わう!!」

ブーンは家の中に荷物を取りに行く。
それをすべて準備して、扉の下に何かを見つけた。

半球体の1センチにも満たない虫だ。
紅い背中に黒い点。
ブーンはそれを優しくつまみ手に乗せる。



晴れ渡る空の下、雪は少しずつ溶けてゆく。
春になればたくさんの花が咲く。

きっとここしばらくはこんな天気が続くのだろう。
そうしたら春は目の前だ。

生き物たちが少しずつ目を覚ます季節。
彼女は眠ってしまった。

( ^ω^)「おっ」

天道虫は指先まで行くと、閉まっていた羽を出す。
小さな体でどこまでも行こうとする。

まだ雪の残る寒い中、彼らは高い場所へ飛び立っていった。



<第4話 冬の天道> END





-------------------------

(;^ω^)「――――ッ!」

ギャギャアと薄気味悪く動物たちが鳴く森の中を、必死で駆けていた。
薄暗く、遠くまで見えない通路が、より一層恐怖心を煽っていた。

「あはははは!!」

少し離れた位置からは笑い声がつけてくる。
振り返る暇はなく、正確な位置を分かるすべもない。

(;^ω^)「なんだってんだお!」

「あはははは!!」

笑い声は少しずつ寄ってくる。

その「人ではない何か」に捕まってはならないと、ブーンは理解していた。
四肢の望みを叶えるという目的は、頭から完全に抜け落ちていた。



-------------------------

<第5話 垂れ桜と鬼の姫>


――――話は少し遡る。

時は流れ、季節は春。
雪は溶け、新たな命が芽生え始めていた。

今度は左腕の望みをかなえるべく旅をしていた。

( ^ω^)「ポカポカおー」

春の陽気に当てられたのか、歌いながらに道を行く。

今回は特に急ぐこともないようで、自分のテンポを維持しながら歩いていた。
たまに見かける木には、ぽつぽつとつぼみが見えていた。

直に花を咲かすのだろう。


ロマネスクの時とは違い、焦る様子はまるでない。

次に違和感を見せた部位、「左腕」はだいぶのんびりとしたものだった。
まるで、この季節のこの風景を楽しむといったように。

時折吹く暖かな風が頬をくすぐる。
それがたまらなく気持ち良かった。

それこそ、夢の中に入り込んでしまったのではないかと言うぐらいに。


しかし、これは間違いなく現実。
だからこそ、ここまで気持ち良く感じられるのだろうとブーンは一人納得する。


今歩いている所を一言で言うのなら「山」だ。
道は山なりの場所が多く、周りには木々。

たまに見える石垣や、岩が積み重なったモノに生える苔。
それらは自然の在り方をそのまま表しているかのようで、見る度に見惚れてしまう。

雲のない、からっぽの空は、この旅で見た中で一番近い。
それでも、それに手が届くなんてことは無かった。

( ^ω^)「んん?」

見るもの見るものに気を取られながら歩いていくと、何かが見えた。
石で造られた、小さな、人を象ったかのような物。

それがいくつか並んでいた。
ブーンにはそれが何なのか分かっていなかったが、それらは「地蔵」と呼ばれるものだった。

笠を被っている者もあれば、前掛けをしている者もある。


それらにも所々に苔が生えていた。
ブーンは興味深そうに、それらを一つずつ眺めていた。

(;^ω^)「うわっ!」

地蔵の列が切れた所、そこは死角になっていた。
その場所には本当に「ちょこん」と、女の子が座っていた。

ミセ*゚ー゚)リ

幼い女の子。
その子は何を言うわけでもなく、ただ地蔵と共に並んでいた。

着ている物は和服で、袖からちらちらと見える肌は白い。
それと合わさってか、ブーンには彼女が人形のように見えていた。

(;^ω^)「君は、こんな所で何をしているんだお?」



ブーンは少女の目線に合わせるように屈み、話しかける。
それでも少女はニコニコと微笑むだけで何も答えてはくれない。

( ^ω^)「隣に座ってもいいかお?」

ミセ*゚ー゚)リ コク

( ^ω^)「じゃあ失礼するお」

風が吹けば柔らかに揺れる木々。
どこからか聞こえる鳥の囀り。

すでに咲いている花は甘い香りを漂わせる。

少女はブーンをじっと見つめる。
ブーンも最初こそ目を合わせていたが、途中から照れくさくなってそっと視線をずらした。

( ^ω^)「いい風だおー」

またふわりと風が吹く。
少女の髪の毛はそれに揺れる。


苔の生えた地蔵と、少女に旅人。
これらが並ぶ姿はとても異様だ。

後ろには大きな木が一本。
それこそ周りから浮くほどの。

それが陽の光を優しく拒み、静かな木洩れ日を零す。
ブーンが前に見た、芸術品のような風景。

それに負けない美しさを作りだしていた。
静かな時間がゆっくりと過ぎる。

すると、少女が立ち上がった。

(;^ω^)「ど、どうしたお?」

突然の動きに焦るも、同じように立ち上がる。
少女はどこからか「毬」を取り出し、弾ませながら進んで行く。

少しすると振り返り、ブーンを見る。
ブーンが近づけば、にっこりとほほ笑み、また背を向け進む。


( ^ω^)(付いて行けばいいのかお?)

幸いにも、違和感が指す方向と一緒だったため、少女について行くことにした。
楽しそうに毬をついて進む少女。

ふわりふわりと踊るように髪が揺れている。
そんな少女の姿が、どこか不思議に思えた。

ミセ*゚ー゚)リ

少女が立ち止まり、少し向こうを指していた。
ブーンはその指さされた方向をじっと見つめる。

小屋のようなものに、旗が立てられている。
近づきながら眺めていると、また新たなものを確認できた。


木でできた椅子。
そこにさす日差しを防ぐように立てられた、大きく、真っ赤な色をした傘。

木々に隣接する大きな岩の傍にも、同じようにして傘が立てられていた。

ミセ*゚ー゚)リ

少女は「早く早く」と言わんばかりに指をさす。
ブーンも好奇心の為か足を早めた。

すぐ傍までくれば、旗に書かれている文字が見えた。
「茶屋」と書かれたそれは、ひらひらと風に煽られている。

( ^ω^)「誰かいるのかお?」

開きっぱなしの扉にかかる暖簾。
それを手で撫でるようにしながら、すっ、とくぐる。
  _
( ゚∀゚)「いらっしゃい」

声をかけてきたのは、頭に手拭を巻いた男。
真っ黒な甚平を着ている。


少女はじっとお品書きを眺めている。
人差し指を唇につけ、ただじっと。
  _
( ゚∀゚)「お客さん一人かい?姿を見るに旅人さんみたいだけど」

( ^ω^)「え?」

普段は、一人で旅をしている。
これは、まあ間違いではないだろう。

傍から見たらそうにしか見えない。

だけど今は少なくともそうでは無い筈だ。
少女と一緒に入ってきたのだから。

( ^ω^)「その子・・・」

もしかしたら娘さんだろうか。
そう思って少女の方を見る。

  _
( ゚∀゚)「・・・その子?」

男は店を見回したあと、顔を顰めながらブーンを見る。
ブーンは困りながらも再び口にする。

(;^ω^)「え、だってそこに女の子が・・・」

少女はニコニコと笑いながらお品書きを指さしている。
書かれているのは「蕨餅」。

その笑顔は確かに目の前にある。
  _
( ゚∀゚)「話を聞こうか。とりあえず、なんか食います?」

( ^ω^)「あ、蕨餅を二つ」
  _
( ゚∀゚)「どうも!食べたい所で待っててください」

ああ、何か色んな意味で成長したなあ、などと思いながら少女について行く。
外の大きな岩に腰をかけるようにして、お茶が運ばれてくるのを待った。

  _
( ゚∀゚)「はい、お待たせしましたー」

少しすると注文した物が運ばれてきた。
蕨餅とお茶が三つずつ。

( ^ω^)「・・・三つ?」
  _
( *゚∀゚)「・・・俺の分。腹減っちゃって」

照れくさそうに笑う店員をみて、自然と気が楽になる。
少女は目をキラキラと輝かせ、餅を見つめている。
  _
(;゚∀゚)「えっと、これはどちらに置けばいいのでしょう」

ブーンは男から餅を受け取ると少女の傍に、それをそっと置いた。
  _
( ゚∀゚)「本当にいるんですね」

ブーンはこくりと頷く。
隣に男が腰掛け、ブーンは挟まれる形になった。


( ^ω^)「驚かないんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「まあ、何かするような子じゃないんだろう?」

そう言って男はブーンの隣を眺める。
そこには少女がいるのだが、おそらく男の眼に映っては無いのだろう。

( ^ω^)「はい。寧ろ居て欲しくなるような子ですお」
  _
( ゚∀゚)「なら問題ないさ」

( ^ω^)「なんだか慣れてますね」
  _
( ゚∀゚)「・・・そうかもな。この地域ではよく聞くし」

実際に出会ったのは今日が初めてだけど、と付け足しからからと笑う。
少女はブーンにしか見えていない。

しかし、ブーンは特に驚こうともしなかった。
様々な生き方を見てきた今、この少女が何かは関係なかった。

  _
( ゚∀゚)「旅人だよな?あんた」

ブーンそれを肯定すると、男は話を始めた。
  _
( ゚∀゚)「ここら辺にはな、古道があったんだ」

あった、ということはつまり。
  _
( ゚∀゚)「いつの間にか無くなってたんだ。でもたーまに現れるらしい。
     それ以来ここら辺では神様たちが自分達専用の道にしたって言い伝えが出来たんだ」

その話を聞いた時だった。
ブーンは冷や汗をかいた。
顔を思いっきり引き攣らせて。

(;^ω^)「あの・・・その道って」
  _
( ゚∀゚)「神々の通り道とか、神隠しの道とかいろいろ呼ばれてるよ。
     神、とか言えば聞こえはいいけど、実際はどうなんだか。」

(;^ω^)「あー」

様々な生き方を見てきた、この考えをすぐに取り払ってしまいたかった。
左腕ははしゃいでいる。



ブーンはそれから暫く放心していた。
少しずつ心を取り戻し、立ちあがる。

少女は少し開いた空間で毬をついて遊んでいた。
彼女に渡した皿の餅は無くなっていた。
  _
( ゚∀゚)「行くのかい?」

(;^ω^)「ええ」

少女はブーンに付いて行くようにして店の前に足を運ぶ。

( ^ω^)「君は、どうするんだお?」

とは言っても付いてこられても困る。
少女は男の顔を見上げる。
  _
( ゚∀゚)「なあ、その子どこに居る?」

ブーンは男の質問に答える。
すると、しゃがみ込んで、そっと話しかけた。

  _
( ゚∀゚)「今度から、毎日餅食わせてやるからさ、ここに居ねえか?」

せっかく知り合ったんだし。
そう言うと少女は嬉しそうに頷いた。

( ^ω^)「とっても喜んでますお」
  _
( *゚∀゚)「よっしゃ!今日からうちの看板娘だ。見えないけど」

二人は一頻り笑うと、軽く別れを告げた。
少女はその間ずっと微笑んでいた。

森に佇む一軒の茶屋。
そこは接客下手な店主が、趣味で始めた店。

それから暫くして、その店はかなり有名な店となる。
人からも、そうでないモノからも愛される。
しかしそれはまた別のお話。


――――穏やかな風が吹く。

それとは反対に、ブーンは気が気でなかった。
悟ってしまったのだ、左腕の反応からどこに行きたいのかを。

最早、「行く」という表現より「逝く」の方が正しいかもしれない。
少し泣きたくなるようなブーンを無視して、左腕は子供のようにはしゃぐ。

昔馴染みに会うかのように、じっとしていない。

(;^ω^)「とんでもないお・・・」

古道に入りたがる左腕。
無くなったはずの入り口を知っているかのようにブーンを進ませる。

( ;ω;)「やめよう?ね?」

――――おろおろと目を潤ませるブーン。

今さら何を、そう言うようにして山道を進ませる。
先程まで歩いていた、地面がむき出しになった正規の道では無い。


(;^ω^)「雰囲気ありすぎだお・・・」

山道を進んで見つけたのは鳥居。
左右二本の柱の上に笠木を渡し、その下に柱を繋げるようにして貫が入っている。

木々に殆どの陽が遮られているため、どんよりとしている。
その暗がりに立つ、真っ赤なそれは、まるで黄泉平坂のようだった。

(;^ω^)「諦めろ、行くしかないお」

自分に言い聞かせ、唾を呑む。
ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る一歩を踏み出す。

鳥居をくぐった瞬間、全身に鳥肌が立つのが分かった。
「何もかもが変わった」。

先程までの穏やかな空気は一転した。
何かから、と言うよりも自分以外のモノすべてから視られている。

それは木々であったり、石であったり、それこそ「人でない何か」だったり。

そんな感覚に陥った。


その道を、恐る恐る歩いて行く。
古道だったこともあり、道は造られていた。

( ^ω^)「意外と・・・安心?」

きょろきょろとあたりを見回しながら道を進む。
時折聞こえる動物たちの不気味な鳴き声に、少し怖じけた。

( ^ω^)「歌・・でも歌えばいいのかお」

気分を変えるようにして、歌を口ずさむ。
そう、これがいけなかった。

少しすると、擦れた音を立てながら後方の茂みが揺れた。
出てきたのはブーンの腰辺りの背をした、人のようなもの。

( ><)「人なんて久しぶりなんです」

一目で人じゃないと理解する。
鼠色をした肌に、頭から出た二本の小さな突起。

鬼、という単語が頭に浮かんだ。
その瞬間にはブーンは駆けていた。


――――そして今に至る。

(;^ω^)「ああ!!もう」

恐怖で足が竦むなんてことが無かったのが不幸中の幸いだろう。
鬼の姿をしたそれから、ある程度は距離を取っていたのだから。

「鬼ごっこなんです」

げらげらと下品な笑いが近づいてくる。
そしてこの状況下でもっともベタな展開が一つある。

(;^ω^)「!!」

転倒だ。

地面からはみ出した木の根が行く手を遮った。
そして後ろを向くと、笑い声。

( *><)「焼くのも煮るのも悪くない。でも生が一番!」

(;^ω^)「ぼ、僕は美味しくないお!」

( *><)「食べてみなくちゃあ、わかんないです」

ああ、もっともな発言だと考える。


(;^ω^)

( *><)

焦る人間、笑う鬼。
血の気のない手がゆっくりとブーンにのびる。

その時だった、左腕が逃げるように唆す。
ブーンもそれはしたいと思っているようだが、ここにきて足に力が入らなかった。

そして、自分のことを守るように手をかざした。
目を強く閉じ、再び開ける。

その動作が何秒だったかは分からなかった。
それこそ瞬く間だったかもしれないし、数分かもしれない。
しかし、目が映し出した光景は閉じる前とは変っていた。

腕が無くなっている。


(;^ω^)「え?」

ごろりと転がる腕は、鼠色をしている。
ブーンは痛みを感じていない。

(;><)「誰です!?」

鬼はきっと顔を上げるようにして睨む。
ブーンもすかさずその方向に目をやる。

「友人に手を出されるのは趣味じゃない」

(;><)「童子?」

どうじ、という言葉が耳に響く。
鬼は少し距離をとる。

「ほら、殴られたくなければさっさと去れ」

(;><)「は、はい!」

「忘れものだ」

そう言って切り落とされた腕を投げつけた。
鬼はそれを受け取ると、振りむかずに走って行った。

助けてくれたであろう人物を見る。

こちらは地に座っていて、向こうは立っているため、身長は分からない。
薄暗いため定かではないが、おそらく白の着物。

その上から、黒く、長い羽織を重ねていた。
羽織の下の方には、桜の花びらの模様がちらちらと窺える。

片手には瓢箪。
動くたびに、中からはちゃぷちゃぷと液体の揺れる音がした。

そして最も目を見張るべきが顔である。
般若のような鬼の面。
口元が欠けていて、そこからは口が見えていた。

その口は笑っていない。

ここで、ブーンは目の前の人物が言っていた言葉を口にする。

(;^ω^)「友人?」

驚いて言った言葉に、目の前の者は
「む」と音をたてた。


「お前、何者だ?」

疑問を含む静かな声は、嘘をつくことを許さないようだった。
たとえついても見透かされているかのような、そんな声。

「ギコと・・・何人かが混じっているな」

(;^ω^)「・・・」

ゆっくりと立ち上がって、向かい合うようになる。
風が吹くと、目の前に立つ人物の長い髪が揺れた。

そして、理解する。
目の前に立つのも、また、人でない何かなのだと。

「ギコをどうした?」

般若の面に隠されている顔。
声は静かだが、純粋な恐怖心がこみ上げてくる。


( ^ω^)「そのことでお話が・・・」

「・・・ここでは何だ、付いて来い」

声、口元、それに髪から察するに女性なのだろう。
ふわりと羽織を翻して、通路を歩きはじめた。

ブーンは半ば焦りながらもそれについて行く。

( ^ω^)「あの、さっきのは鬼ですか?」

小さな角の生えた者。
ブーンが知っている「鬼」というものにそっくりだった。

すると女性は初めて笑いをこぼす。
その声にブーンは少し驚くと同時に、なぜか懐かしさを感じた。

「鬼という字を使うが、鬼では無いな」

人から見たら同じだろうが、と付け足す。
あれは「餓鬼」と呼ばれるそうだ。

( ^ω^)「あの――――」

ブーンが女性に質問をしようとすると、それは遮られた。


「ここで話を聞こう」

和風の一階建て。
縁側もあり、そこから広い庭を見れる造りだった。

そして庭には目を見張るほど大きな木。
枝は細く垂れ下がっており、周りの木々と比べ緑が無い。

しかし、ポツポツと他の色がある。

女性は家、と言うより屋敷へ入って行く。
ブーンもそれについて行き、中から縁側へと回った。

「さあ、話を聞こうか」

女性は漆塗りの盃に瓢箪から酒を注ぐ。
紅いそれに注がれた酒からは、得体のしれない魅力を感じられた。

( ^ω^)「では、話ますお――――」

女性は般若の面をつけたままこちらを向く。
それでも下にある眼はしっかりとブーンを捉えているようだった。


「・・・」

話を聞き終えた女性はしばらく沈黙を続けていた。
それからぼそりと呟いた、「夭折だな」と。

( ^ω^)「ギコさんは僕をここに連れてきました」

先程話した内容の要点を再び言う。
肝心のギコは何も反応を示さない。

だが、まだ居なくなっていないことだけは分かっていた。

「私を退治でもしに来たのか」

そう言って鼻で笑うと酒を喉に通した。
その姿は何とも艶やかで、思わず見とれてしまっていた。

「ん?この面が気になるか?」

(;^ω^)「え?いや、まあ・・・はい」

今見惚れていたのはそういう訳ではなかった。
しかし、面が気になっていたと言うのも事実なので、肯定してしまった。


「見せてやるよ。そして教えてやる。私と、ギコのこと」

女性はそう言って面を外した。
月に照らされてそっと顔が見える。

そしてブーンは改めて思う。
やはり、人ではなかった、と。

川 - )「驚いたか?」

女性は微笑みながらブーンの方を見る。
しかし、その表現が正しいのかははっきりとしない。

眼には包帯のようなものが巻かれていた。
そして、その少し上。

そこには二つの小さな突起。
般若の面と同じように――――。

(;^ω^)「・・・鬼?」

川 - )「そう、本当の鬼だ。酒呑童子と呼ばれている」

凛とした声は、高貴なものを感じさせた。
そして何よりも鬼と言う言葉が頭から離れなかった。

昔、人里に一人の女の子が生まれた。
何の変哲もない、可愛らしい赤ん坊。

彼女は大切に育てられ、すくすくと成長した。

しかし、15歳になった時、彼女は一口の酒を飲んだ。
決して飲んではいけないと言われていて、祀られていた酒だった。

そして変化が起こる。
正しくは「起こらなかった」なのかもしれない。

彼女の成長は20歳の姿で止まった。
大人たちはその事を不思議に思い彼女に訊いた。

「あの酒を飲んだのではなかろうな」

それに頷いてみせると、大人たちは何ともいえぬ表情をした。
怒りを露にするものもいれば、悲しそうな顔をしている者もいる。

それは鬼の角を煎じて造った酒だった。
一口飲めば、永久の命を手に入れるとともに鬼になる。

つまり、その時点で人ではなくなってしまう、とのことだった。
酒を捨てるわけにもいかず、里で祀ってきたのがこの結果となった。

それからは彼女は何年も、何十年もずっと生き続けた。
周りからは神と崇められ、人でなくなってしまっても仲良くやっていた。

桜の咲く季節には、桜を囲み祭りを催した。
唄い、踊り、騒ぐ。

しかし、それらはいとも簡単に崩れ落ちた。
桜の祭りの際、人々は彼女の食べ物に毒を仕込んだのだ。

死なずとも、動けなくなるだろう。
そこで仕留めよう、とのことだった。

人々はいつしか彼女に恐怖を感じていたのだろう。
老いず、永く生きるその姿に。


彼女は泣いた。
死ねないことも悲しい。

毒をもってしても動けなくなることも無い。

それよりも裏切られたという感情が黒く渦巻いた。
仲良くやっているつもりだった。

力を人のために使ってきた。

なのに。

そこからは少し感情を出しただけだった。
本当に少し、感情に身を任せただけ。


川 - )「正気に戻ったら里は無くなっていた」

ブーンはもう一度彼女の顔を見る。
この姿が、何百、下手をしたら千以上の年を経てきたのだ。

川 - )「それからは、色んな処を転々とした。いつしか酒呑童子と呼ばれるようにもなった」

彼女はふっと空を見上げる。
月が見える方向を教えてくれと言われ、素直に答える。

彼女は軽くお礼を言い、そちらに顔を向ける。
風には艶やかな髪が靡いていた。

川 - )「そして私はここに着いた。この屋敷は使われてなかったものでな、ちょうど良かったよ」

角はいつの間にか生えていたらしい。
最初には生えていなかったと言っていた。

川 - )「また永い時間が経ってな、一つの噂を耳にしたんだ」

妖怪を殴りまわっている人間がいる――――。



その男は彼女の元にも現れた。
武器も何も持たず、堂々とした態度で。

『お前が呑んだくれの御姫様か』

川 - )「私は一応穏やかな方でな、争いは好まないのだ」

その言葉は恐らく真実だろう。

川 - )「しかし、その時は少し腹が立ったものだ」

(;^ω^)「え?」

川 - )「使い古した雑巾のようにしてやったよ」

(;^ω^)「あー・・・」

川 - )「馬鹿につける薬は無い、とはよく言ったものだ。あちこちに包帯を巻いて再びやって来た」

『この前は気を抜いていた、今度こそ勝つ』

川 - )「大したことは無かったな」

( ^ω^)「ですよね」


川 - )「だがあの男はまたやって来たんだ」

呆れたように話す彼女は心なしか楽しそうだった。

川 - )「声を聞くのも面倒くさくてな、一発殴ろうとしたら」

『まてまて!友人を殴るなよ。桜も咲いているんだし花見でもしよう』

川 - )「私はいつの間にか友人になっていたらしいぞ」

彼女は笑っていた。
楽しそうに、はははと声を出して。

川 - )「桜が咲いているのに気づいたのもその時だった」

彼女は言う。
ずっと見てきた景色に色は無い、と。
そこにあるものが当り前のように思えてしまうらしい。

「人にとっての一生など、私にしてみれば一瞬と感じることもできる」
その言葉に、どこか寂しさを感じた。

そして、彼女の言う友人がギコ。
彼は何度も通って来たらしい。

ここらに住む人ではないモノからも一目置かれていたようだ。

川 - )「あいつを待つ時間なんて、私の生きてきた時間に比べれば、塵のようなものだ」

「しかし、その時間が、永遠にも長く感じられたのはなぜだろうな」と続ける。
そして彼女は自身の目に巻かれている包帯を指でなぞった。

それについて話そうと、ゆっくりと声を出し始めた。

川 - )「あいつは私がとめても来るのを止めなかった。
     ここに来ていると知れたら村八分にされてもおかしくはないのに」

彼女は、それでも来てくれるのは内心嬉しく思っていた。
鬼と恐れられている自分の元に、そんな事を思いもせず訪れているのだから。

川 - )「ある時訊いてみたんだ。鬼は怖くないのか、と」

( ^ω^)「・・・答えは?」


『どうなったら鬼なんだ?』

『角が生えていて・・・強かったらじゃないか?』

『じゃあこれを見ろよ』

ギコは般若の面を取り出しそれを顔に充てた。
「これで俺も鬼だ」と。

川 - )「馬鹿馬鹿しいだろ。でもその時は、本当に嬉しかった」

彼女は口もとの掛けた面を手に取り、膝に乗せる。
その形を確かめるようにして、手で撫でていた。

川 - )「あいつは言った、旅に出る、と」

川 - )「私は久々に悲しみと言うものを味わった」

( ^ω^)「まさか、そのまま・・・」

川 - )「ああ、手だけになって帰ってきたな」



そして彼女は嫌になった。
再び景色に色が無くなることを。

人が自分から離れる事を。

人を嫌いになれない自分のことを――――。

そして彼女はギコに言った。
「これで私から色を奪ってくれ」と。

川 - )「それがこの目隠しだ。これは自分では外せない。
     あいつは、ギコは桜が咲くまでに必ず戻ってくると言った。
     一緒に花見をするのだと言った。だから少しの間我慢してくれと、そう言った」

(  ω )「・・・」

二人だけで桜を見ることは、もうできない。
彼女は待っていたのだ。

蝉が鳴く時期も、袖波草が揺れる時期も、木々が枯れる時期も。

ギコと約束をした時期も。



その時、ブーンの左手が彼女の眼に近づいた。
ギコの意識に、ブーンが従ったのだ。

恐らくギコは彼女から景色を奪ったことを後悔していた。
だから、せめてそれを外そうとここまで来たのだろう。

しかし、ブーンの手は憚られた。
他の誰でもない、彼女の手によって。

( ^ω^)「・・・なんでですお」

ブーンは申し訳なさそうに訪ねる。
童子はゆっくりと首を振る。

友人と見れぬ桜など見た所で何もない。

そう言われ、ブーンは肩を落とす。
まず、ブーンは友人と思われていない。
そして何より、ギコの望みをかなえられない、ということ。

川 - )「すまないな」

もう寝よと言う声を聞いてブーンは部屋に通された。
気が沈んだままの睡眠は決していいものではなかった。


次の日の朝彼女は聞いた。

「桜は咲いているか?」

ブーンは咲いていないことを伝えると、彼女の隣に座る。
古道とは違い、ここは外と同じだった。

青い空がしっかりと見える。

重く垂れ下がる木には、やはり淡い色が見えるがまだ小さい。
咲くのはもうすぐなのだろう。


その次の日も彼女は聞いた。

ブーンはまた咲いていないことを告げて隣に座る。
こうしている間にも左手の違和感は弱くなっていた。


そして次の日、四肢の最後の違和感は完璧に無くなった。
ギコの望みは知っていた。

それを叶えられなくて、悔しくて、こらえていた涙が流れていた。
彼女は申し訳なさそうにするが、やはり、ほどかせてはくれない。

(  ω )「なんで・・・」

ブーンがつぶやいた言葉に反応して振り返る。
彼女の眼には見えていないが、ブーンの頬には涙が伝っている。

( ;ω;)「なんでだお!なんで・・・ギコの望みを聞いてくれなかったお!!」

その瞬間、彼女は唇をかんだ。
そこから、珍しく大きな声が飛んできた。

川 - )「お前に分かるか?自分より小さな者が自分よりも老いて死んでいくさまが。
     小さな子供が次第に私を恐怖の対象としか思えなくなる過程が」

「千年以上生きて、やっと見つかった生きる楽しみが無くなる辛さが・・・」

( ;ω;)「お・・・」

そうだ。そうなのだ。
ギコの望みが、何も相手の望みとは限らない。

時にそれは相手を大きく傷つけると言う事を完全に見失っていた。


(  ω )「ごめん・・・お」

彼女は「いいんだ」と短く告げて桜に眼をやった。
そして再び優しく聞いてきた、今日は咲いているのか、と。

( ^ω^)「咲いてないお」

川 - )「そうか・・・」

彼女とギコ。
2人が良かったと思えることは無いのだろうか。

風が吹けば垂れた枝が力なく揺れる。
そこで、一つの考えが浮かぶ。

彼女は友人と桜が見たいのだ。

――――友達になってください。

ブーンは彼女に言った。
なんでもする、だから、僕と一緒に桜を見てくださいと。

それを聞いて、彼女は呆れたように笑う。
まるで、ギコの話をしている時のように。


川 - )「人はいつからこんなに愚かになった。鬼と友人になりたがるなど・・・」

( ^ω^)「鬼と友達だったら悪いことでもあるのかお?」

川 - )「それだけで人から避けられるだろう」

( ^ω^)「そんなことないお、絶対とは言えないけど・・・きっと」

観念したように笑う彼女を見て思わずブーンはガッツポーズをとる。
しかし、彼女は簡単には受け入れなかった。

なんでもする、この発言を繰り返した。

(;^ω^)「え、まあ出来る限りなら」

川 - )「そうかそうか」

にたりと笑いをみせ、ブーンに言う。

川 - )「約束を守る者がいいのでな――――」



次の日はすっきりとした目覚めだった。
鳥の鳴き声も、風が木々を揺らす音も、何もかも気持ちがいい。

川 - )「ここでお別れだ、楽しかったよ」

入ってきた場所とは違う鳥居に案内された。
ここはうす暗くなく、綺麗な緑が輝いている。

( ^ω^)「ありがとうですお。助かりました」

一人だったら襲われていたかもしれない。
そう考えると感謝してもしきれないぐらいだった。

川 - )「まあ、死なれては気分が良くないのでな」

長い羽織をはためかせながら彼女は言う。
眼にはまだ、包帯のようなものが巻かれている。



( ^ω^)「ああ、それと」

ブーンが鳥居をくぐろうとすると振り返りながら言った。
帰ったら桜を見てください。

その一言に彼女は微笑み、ブーンの後ろ姿を見送った。

川 - )「・・・桜」

ぼそぼそと呟きながら帰路につく。
そして、縁側に座り、盃に酒を注ぐ。

川 - )「なあ、ギコ。一年なんてすぐなのになあ・・・」

『――――次に桜が咲く季節、再びここに来てくれ。そして、三人で桜を見よう』

川 - )「こんなにも長く感じるのはどうしてなんだろうな」

人間を好きな鬼がいた。
人からも、そうでないモノからも恐れられた。

そんな鬼の元に一人の男が春を連れてやって来た。
その男は死んでも、鬼の元までやってきた。

再び春を連れて。

大きく咲いた垂れ桜は、風に揺られて花を散らす。
その姿は、何よりも堂々としていて切ないものだった。

まるでどこかの鬼と自信を重ね合わせるように。

「きっと綺麗なのだろうな」

鬼が手にする盃。
そこに、一枚の桜の花びらが、音もたてず静かに飛び込んだ。


<第5話 垂れ桜と鬼の姫> END





『見て!このお花。似合うでしょ?』

『お、すっごく綺麗だお!』

『でしょー』

『もっとたくさんあったら、もっと綺麗だお』

『も、もっと綺麗になったら・・結婚してくれる?』

『するお!!』

『約束だよ!』

『ブーン!見て!今日はこんなに見つけたよ!!』

『ツン、やっぱりやめるお』

『どうして?』

『だって、お花さんがかわいそうだお』

『・・・だって、結婚してくれるって』

『んー。じゃあなかったことにするお』

『・・・でも』

『どうしたお?』

『ううん、なんでもない』


-------------------------

<最終話 The course of life>

――――ガタン、ゴトン。

ブーンは馬の牽く荷台に寝そべりながら空を見ていた。
目的の場所に向かう途中、同じ方向へ向かう人と出逢ったのだ。

しばらくは一本道だから寝ててもいい。
その言葉に甘えていた。

そして見た夢。
恐らくそれが最後の部位、「心臓」の持ち主の記憶だと思うのだが何かがおかしかった。

それは人の記憶であってそうでないような。
そう、「自分も同じものを見たことがある」という感覚。

( -ω-)(それに、多分・・・会話をしていたのは僕だお)

日差しが強いので目を細める。
白く差す光は直視できない。



心臓――――。

足があっても、手があっても、これがなければ動かせない。
絶えず血を送り出してくれているからこうしていられる。

その持ち主だった人が自分に関係のある人。

そう考えると何とも云えない。
いくら感謝の気持ちを伝えたくても、面と向かっては言えないのだから。

気温は徐々に高くなり、夏の兆しが見えてきていた。
再び、旅が始まった季節になろうとしているのだ。

( ^ω^)「君は一体誰なんだお」

ぼそりと呟く。
独り言は誰にも聞こえていないだろう。


旅に出る前、ワカッテマスからメモを貰っていた。
各部位の持ち主が書かれた紙。

ただし、ロマネスクのだけは書かれていなかった。
なんでも、名前を知ることができなかったらしい。

そして、心臓の持ち主の名前を見る。

「心臓  ツン」

とだけ、短く書かれている。

( ^ω^)「ツン・・・たしかドクターも言ってたお」

だけどそれだけじゃない。
やはり夢と同じようにどこかで感じていた。

( ^ω^)「行けば分かるかお・・・」

上半身を起して、進んでいる方へ体を向ける。
荷台の前には人が座っており、その人が馬を操っている。


「ん?」

後方に違和感を感じたのか男が振り返る。

ミ,,゚Д゚彡「おお。起きたか」

癖っ毛の為か髪はぼさぼさとしている。
しかしながら、それがよく似合っていた。

彼の名前はフサギコ。
街から街へと渡り、物品の取引をしている行商人。

途中で立ち寄った街で仲良くなり、目的の方向も一緒と言うことで乗せてもらったのだ。

( ^ω^)「お疲れ様ですお」

ミ,,゚Д゚彡「どってことないさ。まだ寝てても平気だぜ?分かれ道が来たら教えるからよ」

( ^ω^)「いえ、起きてますお」

それを聞くとフサギコは笑いながら前に向きなおす。
ブーンもは横を向いて流れる景色を茫然と眺めていた。


そして思う。
今まで来た道を。

( ^ω^)(大変だったけど、嫌じゃなかったお)

楽しいことばかりじゃなかった。
怖かったこともあった。

それだけ濃く、たくさんの体験をしてきたのに。

( -ω-)「記憶が元に戻らないお」

凭れ掛かるようにしていた体をずるずると倒し、寝そべる。
再び仰向けにはなったが寝る気はない。

しかし、ブーンは考える。
今記憶が戻ったとして、どうなるのだろうか。

( ^ω^)(意外とこのままでもいいかもしれないお)

ぼんやりと眺める空はやはり晴れている。
鳥が太陽と重なり、黒く影が出来た。


そのまま道なりに進んでいくと、分かれ道に辿り着いた。

ミ,,゚Д゚彡「俺は右だけど、お前はどっちだ?」

( ^ω^)「左に行きますお。・・・本当にお世話になりました」

ミ,,゚Д゚彡「気にするな、またいつか会おう」

フサギコは白い歯を見せて笑い、大きく手を振りながら進んでいった。
見る見るうちに小さくなる影を見送り、ブーンも道を歩きはじめる。

( ^ω^)「ツン・・・。ツン」

顎に手を当て、物思いに耽る。
それが何時間が続くと、一つの建物が見えた。

緑の中に佇む、大きな建物。
白くどっしりと構えられたそれを、ブーンは見たことがあった。

( *^ω^)「お・・・。おお!

この旅のスタート地点。
その建物に近づき、扉を前にする。

そして、それにゆっくりと手をかけ開ける。
中からは独特の匂いが漂っていて、それが懐かしさを感じさせた。

( ^ω^)(でも、何で今さらここに?)

とは言っても、違和感については何も解らない。
ただ、感じたから行くというだけだった。

その結果、最後に感じた場所がここだったのだろう。
入口近くのカウンターに座る女性に話しかけ、ある人物を呼んでもらった。


近くのソファーに座り、辺りを見回す。
ほとんどが何も変わらずそのままだった。

しばらく外を眺めていると、一人の人物が近付いてきた。

くりくりとした大きな目。
身に纏う長い白衣。

( *^ω^)「久しぶりですお!ドクター」

( <●><●>)「本当に、お久しぶりです」

表情からはなかなか読み取れないが、声は笑っていた。
互いに手を取り、再会の喜びをかみしめる。

本当は走ってきたかったのですが。
そう言って、ワカッテマスが肩をすくめる。

壁には「走るな」というポスターが貼られていた。
それを見て、またしても小さな笑いがこぼれた。


( <●><●>)「逞しくなりましたね」

ワカッテマスは、ブーンをじっと見て言う。
その言葉に照れくささを覚えながらもブーンは頷く。

ゆっくり話そうということで、テラスに行くことになった。
大きなテラスに白く、丸いテーブル。

ちょうど日陰になっており、心地の良いものだった。

( <●><●>)「旅は終わったのですか?」

( ^ω^)「それが・・・」

( <●><●>)「話していただけますか?」

ブーンは静かに頷く。


右手の望みを叶えた後も、次々と違和感を感じたこと。

たくさんの街を歩いたこと。
色んな人と話したこと。

そしてそれらが自分を成長させてくれたこと。

話出したら限がないといったように次から次へと話す。
それを聞いてワカッテマスは楽しそうにしている。

( ^ω^)「そして、最後の――――、心臓の違和感に連れられてここに来たんですお」

( <●><●>)「・・・心臓の?」

(;^ω^)「え?・・・はい」:

心臓という言葉を口にしたとたんワカッテマスは言葉を強くした。
それが迫力をもっていたため、ブーンは少し躊躇う。

( <●><●>)「記憶は?」

( ^ω^)「まだ戻ってないですお」


そうですか、と、ワカッテマスは背もたれに寄りかかる。
テーブルに置かれている二つのコップには水滴が纏わりついている。

( ^ω^)「でも、思うんですお。このまま記憶が戻らなくてもいいかも、と」

( <●><●>)「それは本当ですか?」

( ^ω^)「はい」

ワカッテマスはどこか悲しげな顔をして、コップを手に取る。
中に入っている氷をカラカラと揺らし、そっと口に運ぶ。

水滴は静かに流れおち、砕け散った。

( <●><●>)「さて、話は一先ずここまでにしましょう」

時間も時間ですし、と付け足して中に入るよう促す。
いつの間にか外は赤くなっていた。

ブーンは返事をして、ワカッテマスの後を追った。



前に使っていた部屋とは違う部屋を使うことになった。
宿としても機能しているらしく、そちらを利用してくれとのこと。

懐かしかった。
旅を始めて最初の再会を経験した。

( ^ω^)「にしても・・・」

記憶が戻らなくてもいいかも、と言ったとき彼が見せた表情が気になった。
悲しそうで、寂しそうな、簡単に崩れてしまいそうな表情。

( ^ω^)「後は心臓だお」

ワカッテマスがその表情を見せたとき、心臓の違和感がふっと消えた。
存在はしている、それは確かだった。

だが、どこかに行こうという意思が無くなった。
まるで、記憶が戻らなくてもいいという言葉に反応したように。


『ツン、最近どこに行ってるんだお?』

『どこって?』

『僕に内緒にしてどこかに行くことがあるお』

『ブーンには、内緒です』

『なんでだおー』

『今度教えてあげるよ』

『絶対だお!』

『うん』



( ^ω^)「おー」

上半身を起こし窓から外を見る。
相変わらずの緑。

鳥の囀をしばらく聞いたあと、ベットからのそのそと降りる。

( ^ω^)「朝食、食べに行くかお」

建物内にある食堂に足を運ぶとワカッテマスを見つけた。
ブーンは彼に近づき、挨拶を交わす。

( <●><●>)「お早うございます。良く眠れましたか?」

( ^ω^)「はい、とっても」

( <●><●>)「それは何よりです」

ワカッテマスは微笑み、コーヒーを啜る。
そして、口を開きブーンに尋ねる。

( <●><●>)「ツンさんのことも思い出せないのですか?」


何度も夢に出てくる名前。
それを聞いても、今一ピンとこない。

( ^ω^)「何度も夢には出てくるんですお。だけど何と言いますか・・・」

しどろもどろになるブーンに、ワカッテマスは思わず苦笑いをする。
そして、完璧に記憶から消えているわけではないと安堵した。

( ^ω^)「あ、そうですお」

ブーンは軽く手を叩き、夢に出てきた花について聞く。
その花が何か手掛かりになれば、と思ったのだ。

(;<●><●>)「あの・・・もう一度説明してもらえますか」

(;^ω^)「だから・・・、車輪みたいで、紫色で、綺麗で、だけど一つじゃない花」

(;<●><●>)「さっぱりわかりません」

ワカッテマスは低く唸る。
それも無理はない。

この説明で分かる人はそうはいないだろう。



( <●><●>)「!!」

ワカッテマスは何かを思い出したかのように立ち上がる。
そして「待っていてください」と足早に進んでいった。

少しすると、何かを手にしながら戻ってきた。
紙と、様々な色をしたペンや鉛筆。

( <●><●>)「絵の具を使いたいのなら、場所を変えますが」

つまり「絵を描いて見せろ」ということなのだろう。
ブーンはこれで構いませんと言って、色鉛筆を手に取る。

( ^ω^)「夢の中だから、あまり自信ないですお」

( <●><●>)「構いません。どれだけ時間をかけてもいいので、出来るだけ丁寧にお願いします」

それからは実に静かなものだった。

ブーンは時折、何かを思い出すように目を閉じる。
ワカッテマスは、それをじっと見つめる。

そうやって時間が流た。


( ^ω^)「できましたお」

( <●><●>)「・・・!ここまででしたか」

ワカッテマスは絵を見て感嘆の声を漏らす。
とても綺麗な、紫色の花。

( *^ω^)「照れますお」

その時、ブーンの頭に声が響いた。
外側からではなく、内側から。

『あら、アンタそんなに上手だったの?』

(  ω )「・・お」

『今度、私を描いてみてよ』

(  ω )「・・・」

『今じゃなくて、今度。見せたい場所があるから、そこで描いて』

( ;ω;)「・・・お?」



( <●><●>)「どうしました?」

前にもこんな事があったな、なんて思いながら涙を拭う。
泣いていないつもりでも、それは流れ続けた。

( ;ω;)「何か、とっても大切なのに、なのに・・・」

( <●><●>)「ツンさんですか?」

ブーンは何度も頷く。
ワカッテマスはブーンを連れて昨日と同じようにテラスへ向かった。



( <●><●>)「泣きやんだようですね」

( ^ω^)「・・・はい」

鼻をすすりながら返事を返す。
ワカッテマスはゆっくりと、話を始める。



( <●><●>)「今は無くなってしまいましたが、近くに村があったのです。
       あなたとツンさんは、そこの出身です」

少しずつ、ゆっくりと話す。

( <●><●>)「私がここに来た時、すでにあなたは冷凍状態にありました。
      そして、いつもあなたを心配していたのもツンさんです」

( ^ω^)「・・・」

ブーンの心臓が痛む。
息苦しくてしょうがなかった。

心臓が、その話を聞きたがらないといったように。

( <●><●>)「彼女もまた、医者でした。私なんかよりずっと腕の良い。
       彼女はいつもあなたの話をしていました」

ブーンが絵を描くのが上手いと聞いたのもその時だったそうだ。

( <●><●>)「ある時です、あなたの手術が可能になりました」

( ^ω^)「四肢がそろったんですかお?」

ワカッテマスは「ええ」と短く切り、頷く。




( <●><●>)「しかし、手術を終えたとおもった所で、問題が発生しました」

「――――あなたの心臓が機能を停止したのです」

そして、ブーンはよく考える。
よく考えなくたって分かってしまうのだが、否定したかった。

話を聞く感じ、ツンは生きていた。
その心臓が自分に繋げられているということは。

(  ω )「なんで・・・、僕を助けたお」

( <●><●>)「・・・」

(  ω )「どうしてツンから心臓をとってまで僕に繋げたお!!!!」

ブーンは力いっぱいにテーブルを叩く。
ワカッテマスは拳を強く握り辛そうに呟く。

( <●><●>)「それが、彼女の望みだったからです」

(  ω )「なんで、ツンはそんなこと望んだお・・・」



それを聞いた途端ワカッテマスはブーンを睨みつけた。
目は心なしか潤んでいる。

そして一言、恐ろしいほど冷たく言い放つ。

「わからないのですか?」

ワカッテマスは答えを聞かないで白衣を揺らしながら歩いて行った。
ブーンは下を向いたまま、日差しに照らされる。

(  ω )「ツン・・・」

何度呟いても思い出せない。
自分のために命を投げた人。

何度も夢に出てくる人。

そして――――。

(  ω )「――――ッ」

頭に映像が走る。
ザラザラとした灰色の砂嵐がそれにかかるようになる。

それでもしっかりと景色は見える。



映像はまず、建物から出るところから始まった。
そのまま、まっすぐに進まず、建物の裏へと回る。

時折見える、陽を遮る細い腕。
ブーンは、「思い出せない大切な人」の視点だと理解する。

しばらく歩くと、突然茂みに足を運んだ。
そうして、道とは言えないところを進んでいく。

すると、突然ぽっかりと開いた空間が現れた。
その足元には――――。


( ^ω^)「!!」

すぐに立ち上がり、建物の中に入る。
そして、入口へと駆ける。

どこからか聞こえる「走らないで」という言葉はすべて無視した。
あの風景はとても大切なものなのだ。

そんなことでは止まっていられない。

『見て!このお花。似合うでしょ?』

頭の中に幼い声が響く。
金色の髪をふわりと揺らす彼女は笑っている。

院内から飛び出すと、映像と同じように裏口に回る。
そして、そのまままっすぐ走る。



『もっとたくさんあったら、もっと綺麗だお』

幼いころ彼女に言った、心からの声が蘇る。
二人はまだ子供だった。

( ;ω;)「・・・ッ」

涙を拭いながら走る。
拭き取り切れないそれは、頬を横に流れどこかに飛んでゆく。


『も、もっと綺麗になったら・・結婚してくれる?』

『するお!!』

2人の交わした口約束。
ブーンにとって何気ない一言。

だけど、彼女にはそれがとても大切なことだった。


茂みに飛び込み、草木をかき分けて進む。
そうしてる間にも記憶が流れる。

『今度、私を描いてみてよ』

そう言った彼女はもう居ない。

( ;ω;)「ごめんお」

再び記憶が流れてくる。
大人びた彼女が、子供らしく笑う。

振り返りながら、とても綺麗に。

『今じゃなくて、今度。見せたい場所があるから、そこで描いて』

見せたい場所――――。
ブーンはそこに向かっていた。

そして、そこに出た瞬間、ブーンは崩れ落ちる。

開ける視界。
綺麗な紫が風に揺れる。

彼女が育てた花畑。

ブーンは大きな声を出してしばらく泣き続けていた。


(;<●><●>)「ブーンを見ませんでしたか?」

ブーンが出て行ってから暫く経ち、ワカッテマスは焦っていた。
いくら探しても見つからないのだ。

「雨が降り始める前に、外に飛び出して行きましたが・・・」

(;<●><●>)「外に・・・?」

雨が降り始めたのはどれほど前だろうか。
夕暮れ時と重なっているせいで、外は暗い。

(;<●><●>)「どうして外に・・・」

ぼそぼそと呟いていると、扉の前に人影が現れた。
探していた人物だ。

(;<●><●>)「ブーン!」

(  ω )「・・・お?ドクター――――」

そのままワカッテマスに体重を預けるように倒れこむ。
ブーンは消えていく意識の中、ツンの残した景色を思い出していた。


目を開ける。
真っ白な天井に、独特のにおい。

( ´ω`)「お・・・」

「目が覚めましたか」

ブーンは声のする方に顔を向ける。
白衣を着た、眼のくりくりした男。

( <●><●>)「心配しましたよ」

( ^ω^)「すみませんお」

( <●><●>)「いえ、私が悪かったんです。それに、無事で何よりです」

( ^ω^)「ドクター、僕言いましたお。記憶が戻らなくてもいいと」

( <●><●>)「・・・」

(  ω )「全然よくなかったお・・・。記憶が無いのが、こんなにも辛いお」

ワカッテマスはブーンの頭にそっと手を乗せる。
「わかってますよ」という、優しい一言にブーンは再び涙を流した。



それから数日が経った。
ブーンの具合も良くなり、天気も至って良好だった。

( <●><●>)「行くのですね」

( ^ω^)「もっとたくさんの物を見たいんですお」

ブーンは再び旅をすることにした。
とはいっても、最初は部位に関係した人たちの元を訪る予定だ。

結局ブーンの記憶は元に戻らなかった。
それでも、確かなものを手に入れたことに変わりは無かった。

( <●><●>)「ツンさんはよく周りから、早く忘れた方がいいと言われていました」

忘れろというのはブーンのことである。
ブーンはそれを聞いて苦笑いをする。

( <●><●>)「彼女はそれを聞くたびに腹を立てていました。
       そんなに忘れなくちゃいけないことかしら、と」

( <●><●>)「あいつが起きたとき喝を入れるのは私だから、とも言ってました」

その度に殴られてたのは私ですけどね、と付け足す。
そして、また口を開き、懐かしそうに話す。



( <●><●>)「私はツンさんが大好きでした。
       だけど、彼女はたった1人を見ていたのですね」

( ^ω^)「ドクター・・・」

( <●><●>)「自分のことしか考えない私と、人のために動くあなたとじゃ――――」

そこでブーンが言葉を遮る。
力強く、凛とした声で。

( ^ω^)「違うお。ドクターは自分勝手じゃないお。
       僕がこうして居られるのは、皆と、ドクターのおかげだお」

( <●><●>)「だって、それは、ツンさんに――――」

( ^ω^)「・・・ドクター?」

ワカッテマスの頬に涙がつたう。

( <●><●>)「ツンさんに言われたから・・・。ツンさんに・・あれ、どうしてですかね」

はは、と力なく笑って何度も目をこする。
それでも涙は止まらない。




( <●><●>)「え?」

ブーンがワカッテマスをそっと抱き寄せる。
そしてすぐに、肩に手を置き答える。

( ^ω^)「ドクターは勝手なんかじゃないお。僕が保証するお」

満面の笑みでブーンは言う。
それにつられて、ワカッテマスも笑う。

( <●><●>)「時間をとらせてすみません」

( ^ω^)「なんてことないですお。あと、これ」

ブーンは一枚の絵を渡す。
ワカッテマスがそれを受け取るとブーンはゆっくりと歩き出した。



( <●><●>)「なんでしょうね・・・」

そっと紙を広げる。
それを見て、どさりとソファーに腰をかけた。

「はは・・・。やっぱり、あなたにはかないませんよ」

ワカッテマスは目を押さえて涙を流す。
それでも、どこか嬉しそうだった。

「私は、彼女のこんな顔見たことありませんから・・・」

静かに一人呟き、外を見る。
木々に残った雨粒は、光を反射する。

キラキラと輝く外は、再び歩きだすものを歓迎していた。





蝉の鳴く季節――――。

('、`*川「あら・・・」

右腕の望みを叶えるため。

('ー`*川「お茶でも飲んでいきなさい」

一人の魔女に出会った。

('ー`*川「いい風が吹くでしょう」

風の吹かなかった森に、気持ちのいい風が吹く。





街が色づく季節――――。

左足の意識に従い、海を越えた。

@#_、_@    
 (  ノ`)「おや・・・!よく来たね、さあ入りな」

それは素敵な家族との出会いをくれた。

l从*・∀・ノ!リ人「ひっさしぶりなのじゃ!!」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「兄者かい?あいつは、やっと大人になったよ」

そして、人の温かさというものをあらためて教えてくれた。




雪の降る季節――――。

雪の中をずっと歩いた。
右足は大切な者の最後を見届けるため、必死で急いでいた。

二つの墓の間に、小さな墓。
それらに雪は積もっていない。

周りには誰かの足跡がある。

春になったら綺麗な花が咲くのだろう。





新たな命が芽生える季節――――。

川  - )「よく来たな」

左腕は鬼に桜を見せようとした。

川  ー )「さあ、花見だ。そこらじゅうの者を呼ぶぞ」

誰よりも強く、弱いお姫様は喜んだ。

そして、友人が増えたと笑う。





全てが始まった季節――――。

( <●><●>) 「お久しぶりです」

彼は一枚の絵を見せる。

( <●><●>) 「少し休んだらまた行くのでしょう?」

絵に描かれているのは、紫色の絨毯。

( <●><●>) 「今度は違う道を行くのですか?新たな出逢いがありますね」

そして――――。







      誰よりも僕を想い、誰よりも僕が想った人――――。







<最終話 The course of life> END






-------------------------

<エピローグ>

高く昇った太陽がちりちりと地上を焼く。
そんな中、蝉の鳴く声に、子供たちの声が混じり合う。

「お姉ちゃん、今日はどんなお話聞かせてくれるの?」

少年が尋ねると、赤い髪をした女性はギターを脇に置く。

「んー、空を飛んだ男の話はどうだ?」

「それは昨日聞いたよー」

子供たちは拗ねたように言う。
それを見て女性は少し悩み、再び口を開く。

「じゃ、じゃあさ、妖怪が住んでる茶屋の話は?」

「それも昨日聞いたー」

「まったく・・・、わがままだなー」

すると女性は手を叩き、子供たちの注目を集めた。

「これはまだ誰にも聞かせてない」

「どんなお話?」

「聞きたいか?」

女性はいやらしく笑う。
子供はため息をついて、「聞きたい」と一言を吐き出す。

どちらが子供か分からない。





これはとても変わったお話。

どこかの誰かの右腕。
知らない誰かの左腕。
記憶にない人の心臓。
話したこともない人の左足。
逢ったこともない人の右足。

それらを繋げて旅に出た男がいた。

そしてこの話は今も続いている――――。

「そのお話のタイトルは?」

目を輝かせる子供の中の一人が尋ねた。
風が吹き、女性の髪が揺れる。

从 ゚∀从「タイトル?タイトルは、そう――――」







「キミニヨバレテ」







END




スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。