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2009.06.0221:45

とんでもない彼女は強盗

2年前・・・会社の同僚と酒を飲んだ帰り道。
夜10時ごろだったと思う。
俺は暗がりの路地を駅に向かって歩いていた。
当時29歳の俺はごく普通のリーマンだった。
明日は土曜で会社は休みだ。
1日ゴロゴロしてゲームでもして過ごすか・・・。
なんて考えていたら・・・。

「ゴチンッ!」と今までに聞いた事のない音がした。


それと同時に後頭部に鋭い痛みが走る!

「なんや・・・これ??」と思いながらも

あまりの激痛に膝を突いた。

「ヤバイ・・・殴られた!」


頭で色々考える・・・。
「なに?なんで?リーマン狩り??」

とっさに後頭部を手でなでる・・・。

なんか濡れてる・・・。

暗くてよく分からないが出血をしているみたいだ。

膝ざまづく俺に人影が忍びよる気配がした。


「ヤバイ・・・とどめを刺される!!」

そう思った俺は

「ゴルァ~~~!!寄って来たらブチ殺されんどぉ!!」と喚きながら腕を振り回した。

高校時代、授業で柔道(ウチの学校は授業といえど結構本気)

趣味でボクシングをしていた。

この状態でも弱いヤツなら追い払うことができる。

というか・・・この時の感情は「殺したるっ!!」であった・・・。


「やったんどコラァ~」「かかってこいや~」等と喚き散らす俺。

痛みと暗がりで相手はよく認識できできない・・・が、どうやら犯人は1人のようだ。

その時・・・相手がいきなり走りだした。

「逃げるつもりか!?逃がすかぁ」などと考え相手を追いかけた。

後頭部の痛みは激しい怒りのせいか忘れてた。

走る俺。相手は意外と足はが遅い!段々と相手との距離が縮まる。
相手はかなり小さい。ってか小さいどころではない。

もしかして子供??

いきなり前方から鉄パイプが飛んで来た。

しかし走りながら投げた鉄パイプが命中するワケもなく俺の横で「カコーン」と音を立てる。

これで殴られたのか!!??

一瞬ゾっとした・・・。

相手との距離が手を伸ばせば届く距離になった。

この時ハッキリと認識した。

相手は女だ!しかも小さい・・・子供かも??

これがのちに俺の彼女となる華との出会いだった。

どこの世界に初対面で、後頭部を鉄パイプにより殴打された彼氏がいるだろうか・・・。



相手が女といっても興奮状態の俺は止まらない。

「待てやぁ~!こんボケがぁ~!!」と喚きながら髪の毛を掴んで振り回す。

走る相手の髪の毛・・・一瞬全部抜けてしまうか!?

と思ったが相手は痛みのためか足を止めた。

「離せやぁ~!コラ~」などと抵抗する声はまさに女。

そして子供の声だった。

しかし怒り狂う俺はその声を無視して大外刈りを決めた。

軽い!相手は簡単に倒れる。背中を強打したようだ。

「ぅぐ・・・」と声が漏れる・・・。

俺は構わずマウントの体勢で胸倉を絞り上げる。

「お前・・・殺したるどぉ~」こんなことを言いながら俺は薄ら笑いを浮かべてたと思う・・・。

怒りのあまり理性は吹っ飛んでた。

この時相手の顔を初めて正面から見た。

一言で言えばかわいく綺麗な顔立ちだった・・・。

目は大きく少しキツイ感じ。髪は長めで色白。

その他のパーツも整っていた。しかし顔は幼い。

小学生だろうか!?

その童顔の顔で精一杯俺を睨みつける。

痛さと怖さで目から涙をこぼしそう・・・。

しかしそれを堪えて必死に俺を睨みつけてくる。

「敵に襲われ絶命寸前の小動物みたいやな・・・」などと思っていた。

必死にバタバタと抵抗する女。

しかし俺に胸倉を締め上げられているので上手く声が出ない

「はな・・・せ・・や」と喋る度に締め上げる。

すると息ができなく苦しかったのだろう。

目からポロッと涙が落ちた。

一瞬にして俺は「なにしてんだ?」と思い、この子供のような女が可哀想になった。

手を緩める。しかしマウントの体勢は崩さない。逃げられるからだ。

女は素早く涙を手で拭った。俺に見られたくないのだろう・・・。

しかしバレバレだ。

なんかそんな仕草が少し可愛かった。

「子供のくせにツッパリやがって」っといった感じだろう。


「立てや。警察いくど」そう言って女を起こしてあげた。

女は急に大人しくなる。

「警察いきたなぃ・・・」ボソッとそう呟いく。

俺は「仕方ないやん。悪いことしたらおまわりさんに捕まる。これ社会のルールやぞ」

といいながら腕を引っ張る。

イヤイヤと抵抗して足を動かさない女・・・。

少しマズイ。

ここは人通りは少ないが通行人が見たら「強引に子供をナンパするロリコン男」だろう。

俺は「ちょっとそこの公園行こう」と言って女を公園のベンチに座らせた。

後頭部が痛い・・・痛みが復活していた。

俺は女に聞いく「なんであんな事したんや?見ず知らずの人間襲うなんて?」

女は意外と素直に話出す「お金が欲しかったねん・・・」

絶句。この年で強盗傷害かよ・・・。

「なんで金欲しいねん?」

「・・・・」

女は黙り込む。

この時俺は考えていた。

この女を警察に突き出すかどうか?

「ぅぅ・・・」急に女が背中に手を回してか細い声を上げた。

俺の大外刈りで強打した背中だ。

「大丈夫か?痛いんか?」

女は唇をかみ締めながら「痛なぃ・・・」と言った。

どこまで気が強い子供なのだろう。

「なんで警察行きたくないんや?」

「親に連絡される・・・し」

俺はこの時に思った。いくらとんでないガキだろうが所詮親が怖い年頃だ。

許してもいいかな・・・。

なぜかそんな思いがよぎってきた。

「お前名前はなんていうんや?」俺は聞いてみた。

「・・・・華」

嘘かもな?おそらく嘘やろな・・・。

そう思ったが確かめる術がない。

この年だと免許も持ってないことは確実だ。

「何歳や?」
「・・・14」

最悪小学生かと思っていた華は中学生だった。

さすがに小学生が鉄パイプでリーマンの後頭部を殴ることはないか・・・。

いやいや中学生でもない話だ。


「お前学校行ってんか?」そんな質問をした瞬間。

「ぅ・・ぅっ・・ぅぅ・・・」突然華が涙をポロポロ流しだした。

なに?今の質問のなにが涙腺を刺激したのだ?

意味は分からないが泣き顔は子供のそれだった。

俺はもうこの時、完全に警察に突き出す意志は消えていた。

「泣くなよ」そんな言葉まで掛けていたのだ。


「分かった。警察はやめとこう。その変わりお前の自宅の番号教えてくれ!親御さんにこの後頭部の傷の慰謝料は請求させてもらうかもしれん。その代わり警察はなしや。それでええか?」

少し考える華。目は泣きすぎたためか真っ赤だ。

「それも・・・ぃや・・・やねん」

「・・・・・・・」

本当は慰謝料を請求するつもりはあまり無かった。

しかし社会的責任を負わす意味で脅しを掛けたのだ。

それでも嫌というのなら仕方ない。

もうあとの判断は華に委ねよう。

14歳といえば子供かもしれないが、自己責任くらいは考えられる年だろう。

「んじゃお前は、俺の後頭部をいきなり殴って傷を負わせた責任をどう考える?」

「・・・・・・」考え込む華。

そして出した答えは

「うちが自分で慰謝料を払う。家の番号は嫌や・・・。うちの携帯教える」

そうきたか。

子供の発想だがそれでもいい。

少しは反省している様子だ。

それに華の番号でも知っておくことは大切だ。

この後「脳内出血してました」などの展開を迎えたら、さすがに連絡先を知らないわけにもいかない。

華の携帯から俺の携帯へ着信をさせた。

これでこの番号は少なくとも嘘じゃない。

解約されたら終わりだが・・・。

「もう帰ってええわ。遅い時間やし」

俺がそう声を掛けると華はノソノソとベンチから立ち上がり、出口の方へ歩いていった。

その姿はすごく寂しそうだった。

俺は公園のベンチに座って休憩していた。

興奮が冷めると同時に、華に見舞われた一撃が痛み出す。

夜の公園でボーっと考えていた。

俺の中学時代はいつも勉強もせず友達と遊んでた。

野球したりゲームしたりして。なんで華みたいな寂しいガキがいるのだろう?

これが現代の中学生なのか?

そんなことを考えながら後頭部を触っていた。


すると・・・公園の入り口に人影が見えた。

近づく人影。小さい・・・女??華だった。

「お前・・・どしたん?」

「・・・・・・」

華はなにも話さず俺の前に立っている・・・。

「報復にきた!?」一瞬脳裏にそんな思いがよぎる。

ナイフでも出された日には最悪だ!!

すると華はゆっくり右手を差し出す。

そこにはハンカチが握られていた。

「これで・・・血拭いて・・・」

そういって華はポカーンとする俺の膝にハンカチをそっと置いた。

正直驚いた。華は俺にハンカチを渡すと走ってまた出口に向かった。

ハンカチ・・・。

「あのガキも意外に女の子やなぁ~。」そんなことを思った。

それが華との出会いだった。

しかしこの出会いがとんでもない結果を招く。

華は俺が手に負える女ではなかった。

規格外のモンスターだった(少し大袈裟かな)



【第二部USJ窃盗事件】


次の日は起きたら後頭部がズキズキ痛んだ。

休みで良かった。

ベットでボーっとそんなことを考えていた。

昨日自分で応急処置したガーゼが剥がれている。

やっぱり後頭部の治療は自力では難しい。

しかし病院にいくほどでも無さそうだ。それに病院嫌いだし・・・。

午前中はボケーっとTVを観て過ごした。

そして考えていた。華のことを・・・。

どうするか??慰謝料を請求するか??

答えは既に出ていた「もうええか・・・」である。

電話に出るかな・・・?俺は華に電話を掛けることを考えた。

「もう慰謝料もいらない。この件は忘れてもよい」

そのことを伝えようとしたのだ。

夕方華の携帯に電話をしてみた。

おそらく出ないだろう。そんなことを思っていた。

それならそれで良い。それで終わりにしよう。

電話のコール音を聞く。

1回2回3回・・・。

やっぱり出ないかぁ~。そう考えていた矢先!!

「はい・・・」昨日のガキの声だ!

「え・・・と。昨日鉄パイプで頭割られた男やけど」

なんか情けない自己紹介だと思いつつ話かけた。

「うん・・・」華は小さい声で応える。

「もうお前から慰謝料も請求せんし、安心してくれ」

華は無言だ。

「それと学校なんてところは行かんでええと思う。でも行ったら思い出はできる。年とってからなかなかええもんやで」

相談もされてないのに暴走する俺。

なんでそんな事を話したのだろう・・・。

おっさんになった証拠だ。

すると華は意外に素直に 「ぁりがとぅ・・・考えてみる」と返事したのだ。

「それだけ言いたかっただけ。ほんじゃ」

そう言って電話を切った。

この時はこの件が全て終わり、華のこともいづれ忘れると思っていた。

事実その後は忘れていった。傷の手当てをする度に思い出す程度だった。

傷が癒え手当ての必要が無くなると同時に華のことは完全に忘れた。

しかし・・・1ヶ月後、なんと突然華から電話が掛かってきたのだ!

華の番号は残していた。

というか消すのが面倒で残っていたのだ。

日曜日に洗い物をしていたらら着信音が鳴る。

着信番号をみると「はな」と表示されていた。

「はな・・・??はて??」と一瞬思い出せずにいた。

それくらい華のことは忘れていたのだ。

「はな・・・はな・・・ああアイツか!!」思わず手が後頭部を摩る。

もう痛みも傷も完全に消えてた。

しかし・・・あの華がなんの用事だろう??

恐る恐る電話に出てみる・・・。

「もしもし??」

「・・・・華やけど・・・覚えてない?」

この声は間違いなくあの時のガキ。

「いや。覚えてるで」

「ぅん・・・。」

沈黙・・・・。

俺は聞いてみた「どしたん?なんで電話掛けてきたのや?」

「ぅん・・・」華は少し緊張している様子。

「傷はどんな調子??」

意外な言葉が飛んできた!!少し驚く

「ああ~。完璧に治ったわ。なんや心配してたんか?」

「ぅん・・・」

俺は正直少し可愛いなぁ~っと思った。

兄貴2人しか兄弟にいない俺は妹がいたらきっとこんな感じなのだろうと思っていた。

その矢先!突然華が聞いてきた。

「ぉ前・・・名前なんてぃぅのん?」

絶句した。中学生が29歳に対してお前・・・。

その前に加害者が被害者に対してお前・・・。

「俺は1っていう・・・。あのな、あんまりお前って言葉は、やめといたほうがいいぞ!俺一応年上やしな・・・」

なるべく諭す感じで言ってみた。

最近の中学生はこんなことも分からないほどアホなのか??

「ごめん・・・」

華は意外と素直に謝る。これが俺に強盗傷害をしたガキとは思えない。

「そんで。今日はなんで電話してきたんや?」

それが1番知りたいところだ。


華はもじもじしながら話し出す。

「・・・ぅん・・・えとなぁ。1ってUSJって行ったことある?」

1・・・。呼び捨てかぁ。それはもはや言うまい。

しかしUSJ!!??なんでUSJ!!??

俺は答える。

「USJは3回くらい行ったことあんで」

華は言う。

「あんなぁ。うちUSJ行ったことないねん。・・・ぇぇなぁ~1は」

これは!?これはもしかして!?

俺をUSJに誘っているのか?

1ヶ月前に鉄パイプで頭をカチ割り

さらに盗みをはたらこうと考えた相手を誘っているのか!?

俺は聞いてみた。

「なんや華。もしかしてお前USJに行きたいんか?」

「うんっ!!」

この時初めて華の明るい声を聞いた。

可愛いと思った(子供としてね)


俺は更に聞いてみた。

「もしかしてやで。もしかしてやけど・・・俺を誘ってんの??」

華は少し間をおいて答えた。

「ぉわびしたぃしぃ。。。だからUSJ・・・」

後頭部殴打のお詫びがUSJ・・・。

「まぁ中学生なんてそんなもんか?」

そう考えていた。

俺は言った。

「んじゃ一緒に行こか?USJ」

華はこれ以上にないといった嬉しそうな声で

「うんっ!!」と答えた。

約束は2週間後の日曜日にした。


その日俺は財布に金が無かったので近所のコンビニで現金を下ろした。

5万円。

華は俺に対するお詫びと言ったが、まさか中学生に出してもらうワケにはいかない。

USJの最寄り駅で昼12時に待ち合わせ。

本当にくるのか?少し不安だった。

改札を出ると華はいた。

正直顔は忘れかけていたが、そこにいたのは間違い無く1ヶ月半前に俺を襲撃した女だった。

しかし雰囲気は全然違っていた。

着てる服装はまさに厨房の女の子。

ドルガバのシャツにスパッツ。

ラインストーンが入った靴・・・。子供だった。

一緒に歩くのが少し恥ずかしかった。

でもその子供っぽい服装に安心したのも事実だ。

普通の子なんだ。

そしてこういうカッコしていれば普通に中学生として十分可愛い。

俺は声を掛けた。

「久しぶりやな!」

華は少し気まづいのか恥ずかしいのか目を合わせずに

「ぅん・・・」と答えた。

俺は「飯食った?」と聞いてみた。

華は「食べてへん・・・」と答えた。

「飯食べようか?」しかし華は

「え~~!!早くUSJ入りたい!!遊んでから食べよ!!なっ?なっ?」

と急かしてきた。

本当に妹ができたみたいで可愛かった。

「OK!んじゃ行こうかぁ~」

そういって入場ゲートに歩いて行った。

入場券は当然俺が買った。

本来なら華が俺に対するお詫びのはずだったが中学生だし良い。

華は「ぁりがとぉ~。めっちゃドキドキすんな~。ジュラシックパーク行こなっ♪」

などとはしゃいでいる。

なんかそれでいいような気がした。


久しぶりのUSJは客が少なかった。

昔来たときはもっと活気があったような気がしたが・・・。

「ET」「バックトゥザフューチャー」「バックドラフト」そして華待望の「ジュラシックパーク」「ジョーズ」 全て華はリアルタイムで観ていないんだろなぁ~。

と考えながら俺ははしゃぐ華を眺めていた。

このUSJで初めて「はな」の字を教えてもらった。

「華」という名前は気の強い彼女にピッタリの名前だと思った。

華はまるで子供のように喜んだ。

観ているこっちまでなんだか幸せになる。


なんか分からない「角みたいなのが生えたカチューシャ」を欲しそうにしていた。

買ってあげると喜んでつけていた。

ウッディーウッドペッカーの気ぐるみを発見すると走って行き嬉しそうに抱きついていた。

やっぱりまだ子供なんだな。

しかし・・・

そんな可愛い女では無かったのだ!華は・・・。

1ヶ月半前、俺を鉄パイプで殴打し、強盗を企てた本性は

いま静かに眠っているだけだった・・・。

アイスを買ってあげ、お土産を買ってあげ結局お詫びどころか俺が全部おごってあげたこの日。

それはそれで全然良かったのだ。


その度に華は喜び「ありがとぉ~。めっちゃ嬉しいわぁ~」と笑顔を輝かせていた。

最後にレストランでご飯を食べ別れの時が来た。


駅の改札。華に切符を買ってあげ見送る。

しかし俺はこの時ほんの小さな違和感を感じていた。

券売機での違和感・・・。

華はいつまでも笑顔で「ありがとなぁ~」と手を振っている。

俺も手を振る。楽しかったなぁ。

この日1日の正直な感想だ。


もう2度と華と会うこともないだろう・・・。

最初はとんでもないガキだと思っていたけど、素直で可愛いやつだった。

きっと家庭不和が原因で寂しかったのかな?

いつか幸せになれるといいな!

帰りの電車に揺られながらそんな事を思っていた。


しかしそんな俺の思いは華にことごとく打ち砕かれる・・・。



帰宅後
どう考えても財布の残金が少ない・・・。

華と遊んだ金は2万5千円程度。

どんなに多く見積もっても3万。

それが残金5千円・・・・。


どういうことだ。

しばらく考える。


答えは1つしかなかった。



華に抜かれたのだ。


なぜだ?そしていつだ?考えを張り巡らせる。

レストラン・・・。俺がトイレに立った時か!

俺は通常トートバックに財布を入れている。

そのバックは・・・席に置きっぱなしだった・・・。

愕然とした。

金の問題というより今日の華との楽しかった1日を思い出すと。

悲しくなる。

華の笑顔を思い出すと裏切られた切なさが沸いてくる。

しかもなぜこんなにすぐにバレる窃盗を・・・??

どう考えても華の思考は理解できなかった。


「もうどうでもいいや」という思いと

「なぜこんなことをしたのか?」という思いが交錯する。

電話して確認するか?

いや・・・もう繋がりは断ったほうがいい。

あの女は本物の犯罪者なんだ・・・。


双方の思いが存在した。

1度だけ・・・1度だけ・・・電話してみよう。

きっと出ないだろう・・・。

今さっき金を盗んだ男の電話に出るわけがない。

常識的に考えて着信拒否だろう。

それでいい。それがいい。

出なければ出ないで全て終わりにしよう。


そして万一出た場合・・・。追求してみよう。


電話を掛ける手が震える。

異常に喉が渇く。俺はビールを一缶空けてから電話した。


緊張する・・・。

コール音が鳴る。

意外な事に着信拒否はしていない模様。

しかしコール音が鳴るばかり。

華は電話に出ない。

終わったな・・・。

裏切られて・・・。

俺は電話を切った。

俺はボーっとベットに寝て天井を見ていた。

終わったと思ったがさすがに切なかった。

頭を割られ、挙句に財布の金を盗まれた・・・。

最悪だな。俺は・・・。

少し笑えてきた。

目を瞑ってもうこのまま寝てしまいたい・・・。

そう思った時。携帯の着信音が鳴った。

相手は・・・そう。なんと華だった。

驚きながらも恐る恐る電話にでる。

「もしもし・・・」ヤバい声がかすれてる。

緊張していた。そんな俺の思いとは裏腹に電話を掛けてきた華の声は意外なものだった。

「やほ~♪さっき電話くれたやろ~?ごめんなぁ。お風呂入ってたわぁ(笑」

「!!!!!!????」え・・・?

なにこのテンション??

俺は驚いた。

電話が来ただけでも相当驚いたが華は悪びれている様子が微塵もない。

俺は絶句した。

「今日めっちゃ楽しかったなぁ~。意外にバックドラフトが良かったなぁ」

「・・・・・・・・・・・・」

「お土産に買って貰ったチョコ食べたで~。めっちゃおいしいでぇ~(笑」


え・・・。

なんで?なんでそんなことが言えるの??

本当に理解ができなかった。


もしかして俺の勘違い??財布には5万も入ってなかった??

しかし・・・しかし・・・。

俺は財布に入っていたATMの利用明細を見た。

確かに5万引き出されている・・・。

そしてそんなに使っていない。


そんな困惑する俺を尻目にハイテンションの華は

「また連れていってなぁ~。今度は朝からいこうなぁ~(笑」

「・・・・・・・・・」

聞かなければ。確認しなければ。

でもどうやって切り出せばいいんだろ??


あまりに黙っている俺を不振に思ったのか華は聞いてきた。

「どしたん?元気ないやん?」

あるわけないやろっ!!

しかし聞かないワケにはいかない。

金の問題じゃなく、本当に盗みを犯してこの態度なら、この女は異常だ!根本が腐っている。

俺は華の真意が知りたかった。

「あのな・・・華・・・。気を悪くせんと聞いてな」

「どしたの?」

華はうろたえる様子が全く無い。

「帰ってきて財布の中身確認したんよ・・・そしたらな・・・・」

「・・・・・・」

「使ってもないはずの金が無くなってんねん。」

華が急に黙り込む・・・。

「華が盗んだんと・・・ちゃうよな??」

俺は勢いにまかせ核心をついた。


「違うと言ってくれ!」俺は甘い。

甘いかもしれないがそう心の中で願っていた。

今日の無邪気な華の笑顔を思い出すと華を信じたくなってしまったのだ。

「・・・・・・・・・」

黙り込む華

「違うかったら俺謝る。だから本当のこと教えて欲しいねん」


すると華がおずおずと話出す・・・。

「ぅち・・・」
「ぅち・・・・・・・」

「ぉ金・・・とった」

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

沈黙・・・。


2回目か・・・。

この女にやられるのは・・・。

俺は本当に甘い。大甘いだ。

公園で貸しえてくれたハンカチも、今日の無邪気な顔も

全部嘘か・・・。

最近のガキなんてこんなもんか。

人に詫びる気持ちどころか、許した人間に対してこんな仕打ちをするのか。

もういい。これ以上このガキに関わるのはごめんだ。

俺は切り出した。

「そうか・・・その金はやる・・・。もういいわ。ほんじゃ」

華は消えそうな声で言った。

「ごめん・・・ごめん・・・」


俺は言った

「いや・・・もうええねん。マジでお前と関わりたくなくなってん」

華は黙り込む

「ほんじゃ。電話切るわ」

その時!華が突然大きな声で

「待って!1待って!切らんとって」

「なんでや?」

華の思考回路がわからない。

被害者の俺が終結させようとしているのに加害者の華がそれを阻止する。

華は言った。

「ぉ金返したぃねん・・・。ほんまに・・・ごめん」

俺は返す刀で

「いらん。やる」

すると華は電話口ですすり泣きだした。

理解不能。

なぜそんなにあっさり返すのなら最初から盗まなければよいのだ。


「華ひとつ聞いてええか??」

「ぅぐ・・グスグス・・・ぅん」

「盗んだ金でなにが欲しかったん?」

「ぅぐ・・・DS・・・」

アングリ・・・。ゲーム機かよ。


華は言います。

「明日の夜・・・9時・・・グス・・あの公園で待っとく・・グス」

「・・・・・・・・」

「ぉかね・・返したぃねん」

「・・・まだ使い込んでないんか?」

「・・・ぅん・・グス・・」

「約束は・・・できん。行く約束は・・・せん」

「待って・・・グス・・る・・から」

電話を切りました。

あの涙は嘘泣きなのか?マジ泣きなのか?

俺には分からなかった。


会社では仕事が手に付かなかった。

行くべきか?行かざるべきか?

金の問題で無い。

正直言うと情けない事に昨日の涙は嘘泣きに思えなかった・・・。

更にUSJでの笑顔も・・・。

しかし・・・しかしだ。

俺の今まで生きてきた良識ではその相手から金を盗むなんて考えられない。

しかもバレバレの方法で。

夕方には決意が固まっていた。

もう1回会おう。

どんな考えを持ち、どんな思いを持って生きている人間なのか?

子供といっても14歳。情もあれば多少の人生観もあるはず。

それを確かめてみたい・・・。

俺はその日無理やり残業し時間を潰し

夜9時、華の待つ公園に行った。


公園に到着すると華はこの間のベンチにポツンと座っていた。
下を向いて寂しそうな姿だった。
この辺は特別治安が良いわけではない。
女の子1人はヤバかったなぁ~。などと考えていた。
事実俺も襲撃された・・・。

この目の前の華に!

俺は近づいて声を掛けた。
「・・・お待たせ」

顔を上げた華。
それは意外にも涙でぐちゃぐちゃに泣き腫らした顔だった。

俺は華の横に座った。結構長い沈黙・・・。
すると華が突然
「ごめん・・・なさぃ・・・」
と言ってクシャクシャになった1万円札と数枚の千円札を差し出してきた。
その手は震えていた。

俺はその札束を受け取った。そして聞いた
「DSが欲しかったんやろ?両親に頼むことはできひんかったんか?」
華は無言で首を横に振るだけ。
「あんな華。お前・・・こんな事を繰り返してたら・・・誰からも信用なくなるで
それは分かるか??」
コクンと頷く華。

俺はさらに突っ込んで聞いた。
「DSが欲しいってだけじゃないやろ?華が金盗んだ理由」
俺にはどうしても分からなかった。
あんなに楽しかった後に、その時間を共有した相手から
金を盗む心理が。そしてその後の電話で平気で笑っていたことが。

「ぅち・・・ぅち・・・なぁ」
華が話出す。
「ぅち・・・なんでか分からへんねん・・・。なんでか盗んでしもてん・・・」
「1回目に俺を殴った時もか?」
華は答えた
「ちゃぅ・・・あの時はぉ金が欲しかったねん・・・。
でも今回は・・・自分で分からへんねん・・・。」

そして華は「ごめん・・・ごめん」と呟きながらまた泣き出した。



これはもしかして「心の病」というやつか?
しかし無意識に人の金を盗む「心の病」なんてあるのか?
俺の周りにはいなかったので解らなかった。

でも・・・でももしそうなら・・・。原因がどこかにあるはず。
俺は聞いてみた。
「華は最近学校行ってんのか?」
無言で首を横に振る。
「んじゃ・・・友達はおるんか?」
これも無言で首を横に振る。

寂しいのか?構って欲しいのか?金を盗むことによって?
俺は質問を続けた。
「お父さんは・・・どんな人なん?華の」
すると消え入りそうな声で答える。
「ぉとん・・は・・ぉれへん・・・」
「そうか。お母さんは?お母さんが働いてんか?」
首を横に振る華。
そして・・・
「ぉかんは・・・アル中や・・・。基地外なっとる・・・」

マジでか!!??嘘じゃないだろうな!!??
どうやって生活してんだ?この家は?

「そか・・・」俺は息を吸い込んだ。
この時俺はまたしても大甘だった・・・。
華の境遇を聞いて同情してしまったのだ。
「華は兄弟おれへんのか??」
兄弟がマトモならまだ救いがある。
そう思った俺だったが・・・・。

ここで想像を絶する答えが返ってきた。

「弟がぉるけど・・・チャンソリ(シンナーを吸うこと)でラリッって頭いかれとる・・・」

!!!!!
弟ということは当然華より年下。小学生かもしれん・・・。
それがラリって頭がいかれてる・・・。

これが本当に事実なら俺の想像を遥かに超えた家庭だ。

しかしよく考えてみると。
そんなもんかもな・・・。
俺には想像を超えた世界であってもそういう世界は存在している。
決して珍しいことじゃない・・・。

そんなことを考えていた。

俺は華に掛ける言葉が見つからなかった。一言だけ・・・。
「大人になって自立したら、それなりの自由を手に入れる事ができる。
あと4年だけがんばれ!」
そう伝えた。

華はまた泣き出した。
しかし俺にはどうしてやる事もできひん・・・。
「帰ろか・・・?」
華にそう言った瞬間、華から信じられない言葉が出た。





「ぁんなぁ・・・1・・・」
「ん?どした?」
「ぁんなぁ・・・・」
なぜかモジモジしている華。
「どしたんや?言うてみて」

「ぅん・・・」そう言いながらハンカチで涙を拭く華。
ハンカチはいつもキチンと持ち歩いてるのね。

「1はなぁ・・・彼女とかぉるん・・??」

そう言って顔を上げた華・・・。
その顔はグシャグシャに泣き腫らした顔だが
とても可愛い表情をしていた。
ドキン・・・気持ち悪いが本当にそんな感じがした。

少し動揺した。いやかなり・・・。
俺は
「いや・・・いまおれへんよ」
華の表情が一瞬明るくなったような気がした。
「ほんまに・・!?」
「う・・・うん」

次の言葉を待つ俺・・・。当然そういう展開になるだろうな。
どうしよう・・・。

「ぁんなぁ・・・華なぁ・・・」
来る!!

「1のな・・・彼女になりたいねん・・・」
懇願するような目。
一言で言うと可愛い。
子供と大人の女が入り混じった魅力だ。

「・・・・・・・・・」

俺は返答ができない。


「俺は・・29歳やで・・・」
意味不明だがこれが根本だろう。
俺が厨房なら二つ返事でOKだ。

下を向く華・・・。
「それは・・・ぁかんってこと・・・??」
「というか・・・世間的にみてもヤバいと思うし・・・」

「せけんとか・・・関係なぃやん・・・」
そうか!華は厨房か。確かに世間体なんて気にする年齢じゃない。
俺は聞いた
「華は15も離れた俺と付き合ってなにがしたいの?話題も合わんで?」
華はポツリと言う
「ぅちなぁ・・・1の彼女になったら。ちゃんとできると思うねん。
学校もぃって・・・もう悪いことせんようにできると思ぅねん」

これは・・・。心を揺さぶってきた。

「ほんまに・・・学校とか行けるの・・?」
ヤバイ!!流される。
この時の俺は華に恋愛感情は無かった。
当たり前である。鉄パイプで殴られた上
つい先日は遊びに行った先で財布から金を盗まれたのだ。
信用度も限りなく0に近い。

そしてなにより・・・。この家庭環境にして盗難癖。
ロリコンに対する世間の目。

確実な爆弾だ。華は。

しかし・・・流された感情はなかなか返ってこない。
その時コテン・・・と顔を俺の肩に倒してきた。
可愛い。そう感じざる行為だ。
だたそれは親戚の子供の可愛さに近い。
もう14歳だけど・・・。

でも俺の肩に顔を傾ける華から感じたのは
「華は14歳ですでに疲れきってんやなぁ・・・」
そんな感情だった。

俺は決心した。
「付き合ってみる・・・?俺おっさんやけど」
華は肩に頭を乗せたまま俺の顔をのぞき込んできた。
かなりの至近距離。

「ほんまに・・・??」
瞬きをする表情が可愛い。
それに・・・既に女の匂いもする。
「うん。ほんまに」
俺はそう答えた。

はっきり言って同情だった。
偽善的行為でもある。
俺が彼氏になることで1人の女の子が更正する。
大甘な偽善だった。
しかし・・・それが分かっていても
この時は気持ちがそっちに傾いてしまったのだ。

華は「ぁりがとぉ・・・1・・・」と言って目を閉じた。
しかし華はこの後俺の人生を狂わす爆弾と化す。




【第三部いざ華邸へ!アル中母との対面】

14歳と付き合うことになった29歳。
1番考えたのは「果たしてどんな付き合い方」をするかだ。
こっちは一応社会人だ。
会話は噛み合うのか?デートはどこへ行くのか?

これに関しては思っていた程問題は起きなかった。
まず電話。これはほぼ毎日俺から掛ける。
華から掛けてくることもあったが
その時は俺が掛けなおした。
中学生で金が無いのは当然のこと
その金欠でまた窃盗を起こされるのを恐れた。

華との付き合いは終始窃盗との戦いである。
事実この後とんでもない窃盗を起こすが
それは後の話・・・。

電話の内容は華の家庭の愚痴が多かった。
その時は黙って気が済むまで話を聞く。
そして華はこの頃から学校へ行き始めた。
とはいっても2日か3日に1度だが喜ばしいことであった。
華にとって学校は決して楽しい場所では無かったようだ。
しかし僅かにながらできた友達の話を嬉しそうにする事もあった。

そして2日に一度は会っていた。
デートと呼べるほどのものでは無い。
仕事帰り例の公園でダラダラと話すだけだ。
途中コンビニで飲み物やお菓子を買って話をするだけ。
華はこの時間が1番好きだと言っていた。
帰りは必ず定食屋に行った。
恐らくであるが華はマトモな食事をしていない。
アル中母の話を聞くと
食事なんかどう考えても作っていない様子だった。

華はラーメンやファーストフードを好んだが
出来る限り定食屋について行った。
よく分からないが中学生は成長期なはず
栄養バランスの取れた食事をさせてあげたかったのだ。
華は食べ盛りなのか比較的食べたほうだった。

それでも「1これぉぃしぃで。ちょっと食べてみて」と言って
俺の皿に自分のオカズを乗せてきた。
そんなことがしたかったんだろう。きっと・・・。

家庭環境のせいか恐らく一般的な中学生より
大人だったと思われる華。しかし大人がついていけないような
ツマらない話をする時もある。
「○○先生がめっちゃぅざぃわぁ~。この前もめっちゃムカつぃてんで・・・・」
この手の話は社会人には辛い。
教師も聖職者ではなく1人の人間と知ってしまったからだ。

しかし華はまだ子供。
教師に対して完璧を求めているのだろう。
初めて華とキスをした時は子供っぽくて思わず笑えたのを
覚えている。

いつもの公園でベンチに座って話していた時。
俺は時計を見た。もう9時だ。
「そろそろ帰ろうかぁ。遅い時間になったし」
華は大抵
「まだぇぇやん。どうせぉかんなんもぃわんしぃ」
と言う。帰っても寂しいのだろう。
すると華が突然聞いてきた。
「1はキスしたこと・・・ぁるやんなぁ??29歳やし・・」
「うん。あるよ」
華は下を向きながらモジモジし出す。
「そりゃ・・そぅやんなぁ・・・29歳やもんなぁ・・・」
こいつ・・・可愛い。
恐らくキスがしたいのであろう。
だからそんなフリをしているのだ。

俺は意地悪をする。決してその話に乗らない。
すると実に子供っぽい仕掛けをしてくる。
「ぅちなぁ・・。1にプレゼントがぁんねんなぁ・・・欲しぃ??」
俺の目を真っ直ぐに見る華。
華は目がすごく綺麗な女の子だった。
「欲しい欲しい」
俺がそう答えると華はニコッっと笑って。
「ほんなら目ぇつぶってみて」と言ってくる。
可愛いヤツだ。

案の定唇に柔らかい感触がする。
これが華との初めてのキスだった。
目を開けた俺に華は
「びっくりたやろ~??」と聞いてくる。
別にびっくりしながったがそこは話を合わせてあげる。
「めっちゃびっくりしたわ!!」
すると華は嬉しそうに笑う。
まだ14歳の子供なのだ。

そして下を向きながら「ぅちなぁ・・。いまのんが初めてのキスやねんで・・・」
と言った。
顔が赤くなっていた。多分・・・この時俺は初めて
女として華が好きと自覚したと思う。

多分順調に付き合っていたと思う。
華が目指す中学生の恋愛がどのものかは分からなかったけど。

そして・・・とうとうあの事件が起きる。
いつもの公園で華を話していた時だった。
突然華がこんなことを言い出した。
「ぁんなぁ・・・今度ぅちに遊びにこぉへん??」
俺は正直びっくりした。
アル中の母親。ラリった弟。
俺ならそんな家族を恋人に見せたくない。

そして・・・俺は会いたくなかった。

華は恥ずかしそうに言った。
「ぁんなぁ・・・ぉかんに紹介したぃねん。1のこと」
紹介!!!!!!!
俺は正直引いた。
もちろん華のことは好きやだど・・・。
親に紹介される段階では間違いなく無い!
でも14歳の華にしたら大人の俺に目線を合わせようとしたのか?

親を紹介するのが大人の付き合い。そう考えていたのか?

それにしてもあんなに嫌っていたアル中の母親を紹介したいなんて・・・。
それにその家にはシンナーボケした弟もいるんですよね・・??
「う~ん・・・。紹介かぁ」
それしか出てこなかった。

華は
「ぅん。1にきてほしぃねん・・・。あかん??」
俺の目を見てすがる目をする華。
華のこの目には弱い・・・。

「弟は全然家かぇってきてないから。ぉねがぃやねん」
そこまで言われたら仕方ない。
「分かった。次の休み華の家いこか!」
華はニコっと笑う。子供の可愛さがある笑顔だ。

次の土曜に華と駅で待ち合わせをした。
いつもより元気な華。
アル中の母親を見せるのがそんなに嬉しいのか?

華の家は木造の平屋だった。
金銭的余裕の無い家庭だと思ってはいたので
そんなに驚くことは無かった。
レトロ感たっぷりのその平屋は路地裏にあり
どこか寂しい感じがした。

「ここやねん」華はそういって玄関を開けた。
「ただいま~」なんて挨拶はしない。
俺に「遠慮せんとぁがって」と言うのみだ。
想像通り家の中は荒れていた。

玄関の靴箱に置かれた植物は見事に枯れ
廊下には新聞が詰まれてあった。
そして家の中は少しカビ臭い。
玄関から真っ直ぐに伸びる短い廊下。
その奥が居間のようだ。華が入ってゆく。
俺も後に続く。

そこには汚い女が座ってTVを観ていた。
昼なのにパジャマ。伸びきったパーマのボサボサの髪。
死んだ魚のような目。ガリガリの体。
半開きの口から見える歯は黄色く、数本欠けているように思える。
土色の顔が不気味だった。


華はひいき目なく美人の部類に入ると思う。
今は子供なので可愛いと表現したほうが的確かもしれないが
大人になればかなり人目を引く顔立ちだろうと思わせる。
その母親が・・・この女・・・遺伝子を疑った。

次の瞬間華は信じられない言葉を発した。
「おい!コラババァー。お客さん来とるやろがいやぁ~!!挨拶せんかいっ!」

「・・・・・・・・・!!!!!!!!!」
華・・・おま・・・。

母親がゆっくりこっちを向く・・・。顔が怖い。
すかさずこっちから挨拶をした。
「華さんの友人の1です。はじめまして。」
母親が口を開いた。
そして信じられない一言を発した。

「お前・・・誰や・・・??」

「・・・・・・(いま自己紹介したやん)」
「えと・・・1と申します。突然お邪魔してすみま・・・」
俺が改めて挨拶しなおそうとした瞬間!
「クソババァ~奥で寝とかんかいっ!」
華の怒声がぶった切った。

ダメだ。この家庭は終わっている。
華の家に来て5分で全てが解った。
母親が奥の部屋へ引っ込む。
華は「座って」と言って俺に麦茶を入れてくれた。
俺は早く帰りたかった・・・。ここは地獄だ。
いくらなんでも居心地が悪すぎる。

華は今日「母親に紹介したい」と言って俺をここへ連れてきた。
しかし母親を見るなり怒鳴りちらし奥へと引っ込ませた。

今日来た意味は一体なんなんだろう??
TVを眺めながらボーっとそんなことを考えていた。

すると・・・突然奥の部屋から声がした。母親だ!

「華~酒持ってきて。酒・・・」

さ・・・酒。アル中ってのは本当なのか!?
華はそんな声を無視してTVを観ている。

すると1トーン上がった母親の声がまた聞こえる。

「華~。酒持って来い言うてるやろ~!」
襖の奥から聞こえる中年アル中女性の声。
かなり怖い・・・。

それでも華はひたすら無視してTVを観ている。
気まずさに耐えれなくなった俺は華に言ってみる。

「お母さんが呼んでるで・・・」
華は気にする様子もなく
「ほっとぃたらぇぇねん」と言ってTVを観ている。
俺はドキドキしながらただ座っている。
この緊張感には堪えられない!

その瞬間!!

バーーーン!!!!!!!いきなり襖が勢い良く開いた!!!

そして母親が狂ったように喚いた。

「酒持って来いいうとるやろが~~!!こんガキャ~~!!」

俺はあまりに突然のことに腰が抜けそうになった。

すると華が
「うるさいんじゃ~!!このアル中ババァー!!お客さんきてるやろ~~~」
怒鳴り返す。

もう状況が読めない。

それに狂った母親も応戦する。
「子供のくせに親に口ごたえすんな~~!!はよ酒持ってこんかい!!」
母親はそばにあったビールの空き缶を華に投げつけた!
こんな・・・こんな無茶苦茶な家庭が本当にあるんだ!!

「好きなだけ飲ましたらぁーー!!アル中で早死にせいや!!クソババァ!!」
そういったかと思うと華は冷蔵庫に移動して、手一杯に缶ビールを抱えてきた。
そしてその缶をなんと母親に力一杯投げつけた!!

これはマズイ!!

他人の家のことだがさすがに止めに入る。
「ちょ・・・華やめろ。落ち着け」
と言いながら母親の盾なる。
興奮状態の華はそれでも尚缶を投げつけてくる。

痛い・・・手に負えない。

華は泣きながら「死ね!死ね!死ね!アル中クソババァー!!」と喚く。
華は手に持ったビール缶全てを投げつけると
泣きながら俺の腕を掴んで
「1行こぅ!!もぅぃややこんな家」と言いながら
グイグイ俺を引っ張って行く。

何とか修羅場から生還した俺。
もう一度華の家を見直してみる。
これは俺が想像していた以上の家庭だ・・・。
改めてそう思った。

華はなぜ俺をここへ呼んだのか?
それは今でも解らない。

しかし・・・。考えられることは

自分の生い立ちや現状を、俺に包み隠さず見せたかったのか?
それが華の俺に対する愛情表現だったのか?

あるいは・・・。

今日俺が訪ねることを、華は事前に母親に話していたのではないか?
「娘の彼氏がやってくる」その事により、母親に母親としての
振る舞いを華は期待したのではないだろうか?
しかしそれは見事に裏切られた・・・。

俺は隣にいる華のそっと顔を観た。
泣き腫らした目。
そして悔しそうに唇を噛む。
「こんな家・・・こんな家・・・ぃやや・・・」
そう呟く華。
俺はこの時「華を守ってやりたい!」
その思いがこみ上げてきた。



【第四部 二度目の窃盗・・・裏切り】



俺は会社に1年下の後輩がいた。吉村だ。
こいつが今回の主役である。
俺と吉村は非常に気が合い
仕事帰りも度々飲みに行ったりする仲だった。
(ちなみに華に最初に襲撃された時も吉村と飲んでいた)

吉村は非常に信頼できる人物である。
実は華と付き合っていることは
この吉村にしか言っていない。
やはり世間体もあり
人にはなかなか中学生と付き合っているとは言えなかった。

吉村も苦労人で俺は華の窃盗癖について相談したことがある。
「それは難しいですね。正直精神病の類かもしれませんから・・・」
遠慮気味に吉村はそう忠告してくれた。

ある日吉村が言ってきた。
「1さんの中学生の彼女に会わして下さいよ!」
うむぅ・・・。
特に断る必要は無い。
3人で食事をするのもまた楽しいかもしれない。
しかし問題は華だ。
あの年頃の女の子が大人と食事をする事は果たして楽しいのだろうか?
その夜電話で聞いてみた。

「ぃぃよ~♪1の後輩さんにぁぃたぃ~」
意外に反応が良かった。よし!3人で飯を食ってみるか!

その週の金曜日。
俺と吉村は会社帰りに華と合流し食事に向かった。
吉村は小声で「やっぱり子供ですね。でも可愛いですね」
とニヤニヤしながら言ってきた。
やっぱりそうだろうね・・・。

吉村は年下の女の子相手に上手く話せる男だった。
華が退屈しないように気遣いながら接してくれた。
華もそんな場を楽しんでいたように思う。

その店は個室のある洋風居酒屋だった。
俺達3人が個室に入り1時間程度飲み食いをした時。
俺の携帯が鳴る。
会社からだった。

「ちょっと会社から電話。外で話してくるわ」
吉村も
「僕もトイレに行ってきます」
2人で席を立つ。

個室には華が1人残った・・・。


電話を終え個室に戻ると華と吉村が談笑していた。
その後1時間程度で会はお開きとなった。

そして会計・・・。

レジへ向かう俺と吉村。
華は1人店の外へ・・・。

いつも吉村と飲む時は俺が少し多めに支払う。
先輩だから仕方が無い。
その日の会計は1万2000円程度だった。
華の分は当然俺持ち。

俺は吉村に言った。
「吉村今日は4000円でええよ~」
「有難うございます~」
そう言いながら財布を覗き込む吉村・・・。
急に顔色が変わる・・・。
何度も財布を覗き込む吉村。

鞄の中を見たりしている。
吉村が言った。

「すんません1さん。なんか今日金下ろすの忘れてたみたいで・・・」


「あっそうなん?んじゃ今日は俺が出しとくね」
そういって会計を済ませた。
「すんません・・・・」
吉村はそう言うと頭を下げた。

帰り道・・・。華はご機嫌だった。
「おいしかったなぁ~。また連れてぃってなぁ~♪」
「行こう行こう!また3人で行こう~」
酒が入っていてご機嫌だった俺。

吉村に華を紹介したことにも満足していた。
これで華と俺との関係を認めてくれた人間が1人できた。

しかし吉村の表情は暗かった・・・。
なにやら考え事をしている様子だった。

駅で吉村と別れる。
「んじゃ俺は華を送っていくから~。気付けて帰れよ!」
俺と華は吉村を見送ったあと
華の自宅がある路線に乗り込んだ。
車内でもご機嫌だった華。
今日が相当楽しかったのだろう。

華を自宅の最寄駅で降ろして俺も自分の帰る路線へ・・・。

電車で居眠りをしていた俺は携帯のバイブで目を覚ます。
うん??誰??
吉村からのメールだった。
内容は「まだ華ちゃんと一緒ですか?」

俺は吉村にメールを返した。
「もう別れたよ!今は自宅帰る電車やで」
するとすぐに吉村からメールが返ってきた。
「すみませんが自宅に帰ったら電話頂けますか?」

なんだろ・・・??

自宅に戻り早速吉村に電話した。
「どしたんや~?」
吉村は言いにくそうに口を開く
「実は・・・さっき会計の時にですね・・・俺金を忘れたって言ったじゃないですか・・・」
「うんうん」

「俺確実に・・・2万は財布に入っていたハズなんですよ・・・」

俺は血の気が引いた。酔いも一瞬でさめた。

まさか・・・?まさか・・・??

しかし・・・しかし・・・。
どのタイミングで??

あっ・・・・。

「俺の携帯が鳴って、お前がトイレにいった時・・・。吉村・・・財布どこに置いてた・・・」
俺の声は震えていたと思う。

吉村は言いにくそうに、しかしハッキリと口調で言った。
「上着のポケットです。上着は・・・・個室に置いてありました・・・」

目の前が真っ暗になる。

吉村は続けた。
「華ちゃんが1人残っていた・・・個室に置いていました」

普通に考えれば吉村を信用するだろう。
当たり前である。数ヶ月前に2度も俺から金を奪おうとした女だ。
しかし・・・しかし・・・。

俺は全てが信じられなくなった。
なんで・・・?なんで・・・?

「吉村・・・・」俺は声を絞りだした。
「明日まで・・・時間をくれ」

吉村は「はい・・・」と言って電話を切った。

またか・・・。また華を問い詰めるのか。
しかし今はあの時と状況が違う。

華に対しての見方も変わった。
華の俺に対する想いも十分伝わっている(子供なりの愛情表現だが)
そして今の俺は


華を愛している。


その華に・・・その華に・・・聞くのか・・・。

「吉村の財布から金を盗んだのか?」

激しい絶望感が俺の体を貫いた。
しかし・・・これは俺と華だけの問題じゃない。
第三者まで巻き込んでしまったのだ。
俺の大切な後輩まで・・・。

聞かなければならない。
1社会人として・・・。そして華の彼氏として・・・。

俺は震える手で携帯を握り・・・そして華に電話を掛けた。


怖い・・・正直いま華には電話に出て欲しくない。

しかし不思議なものでこんな時に限って、すぐに出るものなのだ。

「ぁーぃ。華ちゃんやで~♪」

前回俺はUSJでの時もそうだったが、華は金を盗んだ時ほどテンションが高い。

カムフラージューのつもりなのか?

それとも金を奪い盗った喜びからなのか?

後者だとしたら・・・本物の窃盗犯罪者だ。

俺はなかなか言葉が出てこない。

それはそうだろう。

どこの世界に「後輩の金盗ったでしょ?」と自分の彼女に聞く彼氏がいるのか??


「華・・・少し話があるねん・・・」

カラカラの喉・・・言葉がかすれる。

しかしコレだけは曖昧にできない。

「ん??どしたん??」

華は俺の声を聞いてただならぬ雰囲気を察したようだった。

「今日吉村と食べにいった時な・・・」

ヤバイ声が震えている。

「ぅんぅん」

「華は先に店出たけど・・・俺と吉村は会計してたやんか?」

「・・・ぅん」

華の反応が微妙に変わった・・・。

聞きたくない。怖い。でも・・・。

「吉村の財布から2万無くなってたそうや・・・」

言ってしまった!

「・・・・・」

「間違ってたら謝る・・・・」



「犯人は・・・華か?」



頼む違うと言ってくれ!むしろ「なんでそんな事ぃぅのんっ!!」と怒ってくれ!!

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

お互いの沈黙が続く。

それだけで華の答えとしては十分なものだった・・・。

沈黙が1分を過ぎたころ華から口を開いた。

「・・・ちゃぅ。ぅちとちゃぅ・・・。盗ってなぃ」

消え入りそうな声だ。

華はとうとう嘘までつくような女になったのか??

俺は言った。

「華のその言葉信じてええんやな?吉村の財布からお金盗ってないんやな?」

華は無言。

「よし!俺は華を信じるわ。自分の彼女やから・・・でもな」

「俺は明日吉村を殴る!大切な後輩やけど・・・華を疑った吉村を殴る!」

「ええよな?華??」

良心があるならば正直に答えてくれ。そういう願いを込めた言葉だった。

すると華のすすり泣く声が聞こえてきた。

「・・・ごめん。ぅちが盗った・・・。ごめん・・・」

終わったな。全てが・・・。

どこにも希望がない言葉を突きつけられた。

「俺は・・・華は俺と付き合ってから・・・盗みはやめたと思ってた」

シクシク泣く華の声が聞こえる。

しかし俺は華を許すことができなかった。

「華も言うたよな?俺と付き合ったら盗みやめるって・・・」

「俺と付き合ってからも・・・人の金盗んでたんか??」

華はすすり泣く声で絶望的な言葉を浴びせる。

「・・・ぅん」

俺は続けて聞き出してみる

「何回くらい?何回くらい盗んだ??」

「じゅ・・10かぃ・・くらぃ・・・」

10回・・・

そんなに・・・

よく今まで捕まらなかったものだ。

華は俺と付き合ってもなにも変わっていなかった。

表面上は普通の女の子に戻っていたが・・・中身はなにも変化していなかった。

「初めて俺と会った時みたいに・・・人を襲って・・・強盗みたいなことはしてないよな??」

少しでも・・・少しでも希望が欲しい。

そういう願いから生まれてきた言葉だった。

しかし・・・華は答えない

待っても待っても答えない。

まさか・・・。

俺はついに華に対して初めて怒鳴った!

「答えろや!!華っ!!」

涙声で華は答えた。

「・・・それも・・・やった・・・」

やっぱり強盗までやってたか・・・。

俺は呆れた。もうなにもかも終わりだ。

「分かった。吉村には俺から2万返しとく」

泣き続ける華。

俺は間髪入れずに続けた。

「もう華とはおしまいや」

華は「ぃややーーー!!そんなんぃややーーー!!」と言いながら激しく泣き出した。

「1ぃややーー!!そんなんぃわんとってぇぇ!!」

「ぅちもぅ人のぉ金盗れへんからーー!!」

「学校もちゃんとぃくからーー!!」

「ぃややねん。1と別れるのぃややねん!!」

「ぅちちゃんと謝るからーーー!!」

「許して!ぉねがぃやから許してーーー!!」

「ぅち・・ぅち・・頑張ってぇぇ子になるからぁーー・・・」

胸が痛んだ。悪いのは華だけではないと知っている。

家庭も悪い。あの母親も悪い。でもでも・・・。


「悪いけど・・・もう無理!!」

俺はそう言って電話を切った・・・。

切る間際の華の「ぃややぁーー!!」という泣き声は耳から離れなかった・・・。

電話を切ったあと俺はベットでめを瞑った。

もう何も考えたくない。

華に裏切られた・・・。

その思いが頭の中をグルグルと駆け巡る。

華からはその間、何度も着信があった。

マナーモードに切り替えて無視した。

メールも何通も来た。

「ごめんなさぃ・・」

「もぅせんから・・」

「ぅちと別れるなんてぃぅんやめて・・」

メールを見て同情はした。しかし・・・やっぱり俺には、無理だと思った。

若干14歳で強盗傷害を起こす女・・・。

俺には無理だ。彼女の人生を背負うことなんてできない。

俺はビールを一気飲みして眠った。

次の日俺は吉村を休憩室に呼び出した。

昼休みまでこの場所には人がくることは無い。

俺は吉村に深々と頭を下げた。

「申し訳ない。やっぱり犯人は華やった。この通りや。ごめん」

吉村はそんな俺を見て

「頭上げて下さい。1さんが悪いわけやないし・・・」

「いや。俺の責任や。アイツを信用してお前に会わせた俺の責任や・・・」

そして俺は財布から2万取り出し吉村に渡す。

「受け取ってくれ。ほんまにすまんかった・・・」

吉村はためらいながらも

「そんじゃ・・・受け取っておきます」

休憩室に重い空気が流れる・・・。

吉村はわざと明るい声を出した

「さぁ。1さん仕事に戻ってがんばりましょう!!」

俺は「うん・・・」と言って2人で休憩室を出た。

その時吉村が俺に言った。

「1さん。やっぱりあの子の窃盗癖は病気の類やと思います。このままやと1さんの人生が狂います。・・・・別れたほうがいいと思います」

吉村の言葉が胸に響いた・・・。





【第五部 吉村まさかの裏切り!華の暴走】



それから1週間は引っ切り無しに華からの着信があった。

メールも山ほどきた。

「もうしなぃから・・・」

「ごめんなさぃ・・・」

「許して・・・」

「別れないで・・・」

ほとんどがそんな内容だった。

俺は電話もメールも全て無視した。

疲れていた。怒っていた。

そして・・・。華が怖かった。

逃げたかったのだ・・・。

1週間するとパタリと華から電話もメールも来なくなった。

そうなればそうなったで心配ではあった。

なの小さい体で家にも帰らず1人夜の街を歩いている・・・。

そんな華を想像するとさすがに心配になった。

でも俺は華との連絡を絶った。

俺にあの子を更生させることは無理だと悟ったからだ。

そんなある日俺は会社内での変化を感じとった・・・。


皆が俺を避けてないか??


確実に周りの空気は変わっていた。

変によそよそしい感じ。

そして俺が仕事の話をすると明らかに無視する者まで出てきた。

おかしい・・・。なぜだ?

この頃から吉村ですら俺を避けるようになっていた。

飲みに誘うといつもなら

「3軒はハシゴかましましょう!!」とノリのいい吉村が

「今日は用事があって・・・」そう言って逃げるように

俺から離れる・・・。

毎回・・・毎回・・・。

さすがの俺も吉村に避けられていることを悟った。

もしかして・・・華との事がバレている??

29歳のリーマンが14歳の女子中学生と付き合っている
(正直この時は微妙な関係。別れているともいえない状況)

事が会社にバレた・・・??

俺は内心焦った・・・焦りまくった・・・。

そりゃそうだろう。

俺が華と付き合う前に1番ネックになったのが「世間体」

俺だって周りにそんな人間がいたら白い目で見るかもしれない・・・。

しかし・・・しかし・・・。

華との関係がバレる筈が無い。

俺は会社の人間に華との事は話していない・・・。

誰一人として・・・・。

いや・・・・。

吉村以外には・・・。

疑念が確信に変わるのに大した時間は掛からなかった。

11時ごろ休憩室に入ろうとした瞬間だった。

通常この時間の休憩室には人がいない。

俺は自販機でコーヒーを買おうと休憩室のドアノブに手を掛けた。

すると・・・中から女子社員3~4人の声が聞こえる。

「マジで~?あの1さんが中学生と~!?」

「それってロリコンやん。キモーw」

「援交かな~??」

「なんか晩御飯食べさせてるみたいやで~w」

俺はドアノブを握りしめながら凍った!

やっぱり華との付き合いが全てバレている!!

そして決定的な一言が!!


「しかもその中学生って人の金盗むらしいでぇ~」


目の前が真っ暗になった。

全てが終わった。

ロリコン・・・最悪それならまだいい。

人の性癖だ。

ほっておいてくれ。

それで済む。

しかし・・・。

1社会人の彼女が犯罪者・・・。

これは世間が・・・会社が俺を許す筈がない。


「しかもその中学生・・・・」

女子社員が続ける。

「吉村さんのお金も盗ったらしいよ~w」

確定・・・。

この件は吉村しか知るはずが無い。

吉村に裏切られたのか・・・。

あんなに信頼していたのに・・・。

何度も何度も飲みに行っては、2人で楽しんだ仲なのに・・・。

俺は正直いって華に裏切られた時よりもショックを受けていた。

吉村とは付き合いの長さが違う。

約6年の付き合いだ。

会社を離れれば先輩後輩の関係ではなく

「親友」そう思っていた・・・。

それから会社内は地獄となった。

大人社会にイジメはある。

無視。陰口。冷たい視線。

それも耐え難いものだった。

吉村は平然と仕事をしている。

しかし俺から吉村に近づく事は無かった。

吉村も徹底的に俺を避けた。

俺と吉村の関係は華によって終焉を迎えた。

吉村に対しての怒りは確実にあった。

殴ってやりたいとも思った。

しかし・・・。そんなことをしたところで所詮、俺はただのロリータ・・・。

会社内での立場が悪くなるだけだ。

それに吉村じゃなくても同じことをする人間はいるだろう。

それが世間の見る「中学生と29歳の恋愛」だと思う。

俺は段々鬱になっていき会社に行くのが嫌になってきた。

華が吉村の金を盗んで1ヶ月が過ぎていた。

俺と華の連絡は皆無になっていた。

もちろん華のことは毎日思い出す。

「また人様の金は盗んでいないか?」

「学校には行ってるかな?」

「飯はちゃんと食ってるかな?」

「まさか警察に捕まってやしないか?」

色々考える。

しかし・・・この時の俺は、自分の会社での立場を考え心の余裕は皆無だった。

そんなある日・・・。

俺は会社にいると吐き気を覚えるようになり、早退して部屋のベットでゴロゴロしていた。

「もう会社辞めなあかんなぁ・・・」

そんな事を考えていた。その時!

メールの着信音がなった。

誰だろう??

表示された名前を見ると・・・。

それは華からのメールだった。


華・・・。どうしたんだ一体。

この時、華との関係は終わっていた。

俺の認識では華と別れていた。

その華からのメール・・・。

なんの用事だろうか??

メールを開く。

俺の目に飛び込んで来た文字。


「今から死ぬ」

え・・・??「死ぬ??」

驚いた。

なんで死ぬの?意味が理解できない。

しかしこのメールを送りつけてきたからには、俺に何かを求めてきているのだろう。

俺が散々華を無視し続けたことに対する「脅し」??

それとも華なりのSOS??

それともヘンヘルにありがちな構ってちゃん行為か??

なんにしてもこんなメールを送られて平気ではいられない。

本当に死なれたら・・・。

困る・・・。

いや・・・困るというより。


華が死ぬなんて嫌だ!!

俺は華の携帯に電話を掛けた。

出ろ!早く出ろ!!

しかし華は電話に出ない。何度も何度も掛け直す。

まさか・・・まさか・・・。既に華は自殺したのか??

しかし10回程度掛け直した時、華が電話に出たのだ。


「・・・ふぁぃ・・・」

久しぶりに聞いた華の声。

しかしそれは寝起きのような・・・酔っ払ったような・・・。

そんな声だった。

「華??華??」

俺は必死で呼びかける。

華はボーっとした声で

「ふぁぃ・・・1・・なん??1・・・??」

と答える。

華のこの反応。

これはどんな状況を意味してるのか?

俺は聞く。声が大きくなる

「華いま何してんのや??答えろっ!!」

すると華がグスグスと泣き出した。

「ぅん・・・なんもして・・なぃ・・。ぅち・・・ぅち・・・」

うちなんだ???

「・・・ぅち・・1とぁぃたぃ・・・ねん」

「お前酔ってんか?自殺とかしてないか??それ答えてくれ」

「・・・ぅち。お酒飲んでなぃ・・・」

華はそう答えるものの、それならなぜここまで呂律がまわっていないのか?


俺は優しく聞いてみた。

「華はいまどこにおるんや??」

すると華はシクシク泣きながら何かを考えている様子。

「ぅち・・はぁ・・ぃま家にぉるでぇ」

この状況ではラチがあかない。俺は華に言った。

「華。今から家出れるか?いつもの公園に来れるか?」

すると華は急に泣きやんで

「1・・・ぅちとぁってくれるのん??1とぁぇるのん??」

そう返してきた。

「うんうん。会う。だから今から出てこれるか??」

「ぅち・・・1とぁぇるんや・・。ぁぇるんや・・・」

「せや。華と会うからあの公園に来てほしいねん。これるか?」

すると華は

「ぅち公園ぃける・・・。1とぁぅ」

よし!俺は電話を切るとすぐさま家を飛び出した。

例の公園までは華の家からの方が圧倒的に近い。

しかもあの公園は会社にも少し近い。

会社の人間には会わないだろうか??

そんなことを考えながら電車に揺られる。

もう日が暮れてきた。

駅に着くまでの時間がもどかしい。

駅の到着し華の待っている公園まで走っていく。

しかし・・・。

華はいなかった。

華が家にいたとすれば十分についている時間。

俺はベンチに座って華を待った。

携帯を掛けてみるが一向に出ない。

待つしかない・・・。

公園に到着して30分ほど経った時入り口に小さな人影が見えた。

フラフラしている・・・。華だ!!

俺は走って華の元へ駆け寄った。

「華!!」そういって駆け寄る俺。

華は痩せていた。1ヶ月前と比べ物にならないくらいに。

顔色も悪い。青白くすらある。

その時強烈な臭気が鼻を突いた。

華から発せらている刺激臭・・・。

間違いない。

シンナーだ!!

華は俺に話掛ける

「1・・・ぅち1にぁぃにきたで・・・。1にぁぃたかったんやで」

涙目で俺を見る華・・・しかし・・・。

「華お前ラリってんのか?」

「ぅち・・ラリってないよぉ・・・」

「嘘つくな!シンナー臭いねん!!ラリってないわけなぃやろ!!」

すると華は地面に座りこんで泣き出した

「ぅちは・・・1にぁぃたかっただけやねんーーー!!」

そういって地面に寝転がってしまった。

「華!!華!!」

呼びかけても反応がない。地面でグッタリしている。

抱きかかえて呼びかけてみる。

「華!!華!!」

それにしてもシンナー臭い。吐き気がする臭気だ。

揺さぶってみるが反応はない。

なんだろうこれは?

ラリって気を失っているのか?

寝ているのか?

これは深刻な状況なのか?

なにも分からない。

しかし息はしている・・・。

安心はするが危険な状態かもしれない。

まさか病院に連れていくこともできない。

シンナーがバレるに決まっているし、医者にバレた場合どういう華がどういう状態になるのかも想像できない。

とりあえあずベンチに寝かせることにた。

30分ほどして華は目を開けた。

眠っていたのか?とりあえずホッとした。

「華・・・分かるか?俺やで1やで」

呼びかけてみる。すると・・・

「ぅん・・・わかるで」

反応が返ってきた。

「お前なんでラリっとんや?めちゃくちゃシンナー臭いぞ」

「ぅちなぁ・・・弟の部屋にぁったなぁ・・・シンナー吸ってもてん・・」

そう言うと華は俺の膝に頭を乗せてきた。

「ぅちなぁ・・・1とぁぃたかって・・・。寂しくて・・・。シンナー吸ってもてん」

胸を締め付けられる言葉だ。

「ぅちはなぁ・・・。頑張って人のぉかね盗るのん・・・やめたねん」

「もぅ人のぉ金とってなぃでぇ・・・」

俺は涙が出てきた。

あの最悪の母親。最悪の家庭環境。華は14歳の子供だ。

でも子供は子供なりに必死に現状を打破しようと頑張っていたのだ。

俺は華に言った。

「華・・・ごめんな・・・」

そういって華を頭をそっと撫でた。

「ぅち・・・がんばったやろ・・・?」

「うん。頑張った!」

俺は涙を流しながらそう答えた。

華はだんだんと正常に戻ってきた。

まともに話せるようになってきた。

「飯はちゃんと食ってんか?」

「学校は行ってんのか?」

「母親の様子はどうや?」

俺は気になることを質問する。

華は華なりの言葉で一生懸命返してくる。

もう華はあの家に帰さないほうがいいかもしれない。

そんな思いが沸いてきた。

しかし・・・。

どんな方法があるのだろうか?

施設・・・しかし華には一応ではあるが親もいて家もある。

そんな子供でも引き取ってくれるのか?

俺はその辺の情報に疎い。全く分からない。

それに審査があるだろう。そうすれば華の今までの生活や犯罪が、明るみにされるに違いない・・・。

そしてなにより・・・。華がそんな施設に自ら入るとは思えない。

ネットで調べよう。なんか解決方法があるはずだ。

役所にも聞いてみるか・・・。

そうこうしているうちに夜の8時ごろになった。

今日は一旦華を家に帰そう。

「華・・・。今日はもう遅いから家に帰りやぁ」

すると華は俺のシャツを掴んで

「ぃやや!ぃやや!!ぅち家にかぇりたない!!」

そう言って駄々をこねる。

いくら説得しても華は聞く耳をもたない。

仕方がない・・・。この方法だけは今までためらっていたが。

「俺の家に来る・・・か?」

すると華は笑顔になって

「ぅち・・・1の家にぃってぇぇのん?」

「ああ。そのかわり明日はちゃんと家に戻るんやで?」

「ぅん。わかった」

そして電車に乗って華を自宅に連れていく。

途中コンビニで適当な食事が買った。

華に何か食べさせなければ・・・。

俺の部屋は1ルーム。8畳あるが狭い。

華は俺の家に入ると

「綺麗にしてるなぁー」と関心していた。

俺は割りと綺麗好きである。

そして

「1の匂いがするなぁ~この部屋」

そう言って笑っていた。

俺は華にコンビニで買った弁当を食べさせた。

あまり食欲は無かったが、それでも旨そうに食べていた。

「華・・・一応お母さんに連絡しとき」

俺は一応社会人。29歳だ。それなりの常識もあるつもりだ。

しかし華は断固拒否

「心配なんかしてないからぇぇ。電話なんかしたらまたケンカになる・・・」

それもそうかもしれない。

あの母親だったら娘の心配もしないで、酒を飲んでいてもおかしくない。

それ以上無理強いはしなかった。

俺は華に自分のTシャツとパンツを貸して風呂に入らせた。

シンナー臭くてたまらい。

華が風呂に入っている時に考えた。

布団1組しかないし・・・俺はどこで寝ようかな??


風呂上りの華は

「やっぱり1の服はぉぉきぃな~」と言って、ブカブカのTシャツに身を包んでいた。

やっぱり子供だな。

そう思うと無性に華が可愛かった。

俺も風呂に入った。

また金ぬすかれるかな?

そう考えないことも無かったが俺は華を信じることにした。

ってかここで金を盗まれたら、気づかないフリをして、その金をあげよう。

どうせ大した金額でもない。

そう思っていた。

風呂上り華とTVを観てジュースを飲んだ。

華は久しぶりにリラックスした様子で、楽しそうに笑っていた。

そろそろ眠くなってきた。

「華は俺のベットで寝ていいから。俺座椅子倒して寝るわ」

華は俺のベットにもぐり込むと嬉しそうな顔で

「ぅちベットなんかで寝たことぁんまりないねん」

「1も一緒に寝よ」

そういって俺の腕を引っ張ってきた。


「ええわ。シングルやから狭いし」

そういって俺は自分の寝床の準備を開始した。

華は嬉しそうに

「大丈夫やて!ぅちちいさぃから♪」

華は強引に俺をベットに引き寄せた。

口元まで掛け布団を被って俺の顔を見ている。

嬉しそうな華の表情・・・。

俺は華と寝ることにした。

華はそれからも色々と話しかけてきた。

「ぅちほんまにもぅ人のぉ金とってなぃで」

「またちゃんと学校ぃくからね」

「ぅちがぇぇ子になったら・・・1はまた好きになってくれる??」

俺はそんな華は愛しくてたまらなくなった。

吉村に裏切られ、会社に居場所が無い俺。

そんな俺を華は必要としてくれている・・・。

子供だが子供なりの愛情を全力で俺にぶつけてきている・・・。

華は俺のTシャツの胸元を掴みながら目を瞑った。

俺は前から考えていたことを華に言おうと決心した。

「華・・・ちょっと話があんねん」



華は不思議そうな顔で俺の目を見る。

「なに??話って??」
俺は以前から思っていたことを意を決して華に伝える。

「華。俺と一緒に病院に行こう」

キョトンとする華。

「病院・・・??ぅち体は元気やで??」

「うん・・・」

俺は唾を飲み込んで言った。

「病院は病院でも・・・心の病院や」

華が目を大きく見開く

「心の・・・病院・・・??」

「せや・・・」

華が急に不安そうな表情になる

「それって・・・せぃしん・・・病院??」

「いや・・・。精神病院というか・・・病院の精神科や・・・」

なにが違うのだろう・・・。

それは分からないが「精神病院」という言葉は、華の不安を更に煽ると判断したのだ。

華は目に一杯の涙を溜めながた俺の目を見つめてこう聞いた。

「・・・ぅち・・・ぅち・・・。精神病なん??」

「精神病やない・・・心の病気や。俺はそう思ってる。まだ分からへんけど・・」

華は自分の心が病と言われ怖かったのか、目から涙をポロポロこぼした。

そうだ華はまだ14歳なんだ。

そんなことを言われて怖くないはずがない。

「ぅち・・ぅち・・。精神病なんかとちゃぅ。病院なんかぃきたくない・・・」

そういって俺の胸にすがりついてくる。

俺は華の頭を撫でながら

「華・・・落ち着いて聞いてや」

「華も俺も風邪ひいたりするやろ?それは体の病気やな?」

華は「ぅぅぅ・・・」と泣きながら俺の胸から顔を上げない。

「でもな。人間は心が病気になることだってあるねん」

「それは恥ずかしいことでも、特殊なことでもない。よくある話やねん」

「そうやって心が病気になった時。体の病気と同じように病院にいくねん」

華はシクシクと泣き続ける。

俺は続ける

「それで元通り元気になるんよ。心も」

「だから華。俺と一緒に病院に行こ・・・」

それから華は5分ほど俺の胸で泣いていた。

顔を上げた華は俺にこう聞いてきた。

「こわぃこと・・されへん??」

俺も精神科は行った事が無かったが大体はどんな所か知っている。

「怖いことなんかされへん。先生と話するだけやで」

そう言って華の頭を撫でる。

「ぅちが・・・病院ぃって病気なぉしたら・・・」


「1はまたぅちの彼氏に戻ってくれる・・・??」


まっすぐに俺の目を見る華。

「ああ。戻る」

俺はそう答えた。

「ぅち・・・病院・・・ぃく」

華も自分の窃盗癖に苦しんでいたに違いない。

ダメなことと気づいていたに違いない。

しかし14歳の華には・・・周りに信頼できる大人が、皆無の華には、それを辞める術が分からなかったに違いない。

「俺ちゃんとした病院探しとくからな」

華は「ぅんぅん・・・」と言いながら目を瞑った。

そして「キスしてほしぃねん・・・」

そう言った。


俺は一晩中華の頭を撫で続けた。

いつのまにか華は眠っていた・・・。

その顔は14歳の子供の寝顔だった。


次の朝俺は会社に行くため華と電車に乗った。

昨日は病院行くことを納得した華だったが、口数は少ない・・・。

やはり不安なのだろう。

華を自宅の最寄駅へ送って出社。

俺の会社での立場はもう無いに等しかった。

仕事は1人でできるものではない。

色々な人間に助けられ支えられできるものだ。


しかし・・・。俺の周りには助けてくれる人間も支えてくれる人間もいなかった。

それならそれで割り切った

今は会社の仕事より華を病院につれて行くことが大事だった。

会社のPCで「精神科」でググってみる。


近所に精神科の病院は山ほどあった。この中からどれにするか・・・?


病院を極端に怖がっていた華を思うと大病院の精神科はキツいかな??と思った。

精神科にもクリニックというものがあった。

精神病院には違いないのだろうが、写真を見る限りでは清潔感がありアットホームで温かな感じがした。

医者も女性で小綺麗な人だ。

この方が華も精神的に楽に違いないと考えた。

会社の外から病院に予約を入れる。

2日後の午後に予約を取った。

会社があったが既にどうでも良かった。有給でもとろう。


俺はその日の夜華に電話をし、そのことを伝えた。

「華。保険証あるか?」

「わからへん・・・ぁるかもしれんけど・・・ぉかんがどっかにしまってるかも・・・」

もしかしたら華の家庭に保険証などないかもな・・・?

それなら仕方ない。満額払ってでも行くのみだ。

「なぁ・・1・・・」

「うん?」

「ぅち・・・病院ぃったら・・もぅ人のぉ金盗んだりせんようになるよね・・??」

「なる。そのために病院にいくんやで!」

「わかった・・・」

2日後俺は華と一緒に病院を訪れた。




【第六部 病院~そして俺の実家へ~】



俺は予約時に華の兄貴と嘘をついた。

精神科といった場所がどういう所か分からないが、俺も華と一緒に医者の話を聞こうと思っていたからだ。

もしかすると華と他人の俺にはプライバシーの観点から立ち合わせてもらえない可能性を考えたからだ。

2日後・・・。病院の前。

華にもそのことを伝えておく。

「華。先生に俺のことを聞かれたら兄貴って言うんやで」

「ぅんぅん。」

「病院では俺のこと1って呼んだらあかんで!お兄ちゃんと呼べな」

「ぇ~~ぉにぃちゃん(笑)恥ずかしぃわぁ~」

「それに15歳も離れてんのにぉにぃちゃんって。。。ぁつかましぃで(笑)」

そう言うと華は俺と腕を組んできた。

「ぃこか?ぉにぃちゃん♪」

精神科・・・。俺でも少し緊張している。

華の不安はもっと大きなものだろう。

だからこそ、こうしておどけて不安をかき消そうとしているのかもしれない。

病院のドアをくぐった。

案の定、華は保険証を手に入れることは出来なかった。

病院の待合室は非常に清潔感があり落ち着いた雰囲気だった。

俺は受付で華の兄だと伝えた。看護師から用紙を渡された。

華は用紙に必要事項を書き込み俺の横に来て座った。

二人で並んで座り診察を待つ。

華は無言だった。

15分くらい待たされたか・・・。

その時間はやけに長く感じた。

看護師が華を呼びにきた。

診察の番が回ってきた。俺も立ち上がろうとした。

すると看護師が

「まず華さんだけで先生と診察しましょうね」

「お兄さんは少しお待ち下さいね」

華の目にサッと不安の色が走る・・・。が仕方がない。

俺は華に

「いっておいで。待ってるから」そう言った。

華は不安気な表情を浮かべながらも看護師について診察室に入った。

なんとなくドナドナを思い出していた。

俺は1人で診察が終わるのを待っていた。

長い・・・それにしても長い。

人の診察を待つのってこんなに時間を感じるものなのか?

30分が過ぎたころだと思う。

華の入った診察室から先ほどの看護師が出てきた。

「お兄さん。どうぞお入り下さい」

そう言われ看護師のあとに続いて診察室に入る。

想像と全く違った診察室に驚いた!

俺は風邪で訪れる時の内科のイメージを持っていたが。違う。

そこには白いベットも無機質な医療器具も無かった。

おしゃれなお宅のリビングをいった感じだ。

そこに華が医者と向き合ってポツンと座っていた。

華は俺の顔をみると安心した表情で、「1ぃぃ~~」と言った。

「お兄ちゃんと呼べ」と言ったことを華は完全に忘れていたみたいだ。

「お兄さんどうぞ。華さんのお隣へ」

先生は上品に優しさを兼ね備えた感じの女性だった。

年は40代半ばくらいか。

「失礼します」

そういって俺は華の隣に腰掛ける。

先生は俺をジッと見つめる。もしかして・・・。

既に気づいているのか?

俺が兄貴では無いことを・・・。

医者はニコっと笑うと俺に質問してきた。

「お兄さんは独立なされているのですか?」

「はい。実家を出て華とは今別々で暮らしています」

「なるほど・・・」

医者は何か考えている様子だ。

俺と華を交互に見て医者は口を開いた。

「今華さんとお話させて頂きまして・・・かなり複雑な家庭環境とお聞きしました」

俺は答える

「はい。その通りです」

医者は続ける

「そして華さんは自分の意思に反して人の物を・・・特にお金を盗んでしまう癖がある」

「その通りです」

華はじっと下を向いて動かない。

俺は業を煮やして聞いてみた

「華は・・・心の病なのでしょうか?」

医者は華をじっとみつめながら静かに答える。

「まだはっきりとした事は言えませんが・・・。そうですね。心の病・・その可能性は非常に高いです」

華の体がビクンと反応した。

医者は続ける

「話を聞く限りでは・・・。華さんは愛情に恵まれていないと感じました。それがストレスになっています・・・そして」

「失礼ですが華さんは経済的に非常に苦労をなされていますね?」

華は下を向いて答えない。

俺が変わりに「はい」と答える。

医者は難しい顔で話す

「ストレスの捌け口が金銭欲を満たしたい・・・。その方向に出ていると思われます」

そうだったのか・・・。

俺は隣の華を見る。

ピクリとも動かない。

髪に隠れてその表情を読み取ることもできない。

俺は聞いた

「その窃盗癖は・・・治りますか・・・?」

医者は俺の目を真っ直ぐに見つめて答えた。

「この病は非常に治りにくいものです」

衝撃的な言葉だった。

目の前がクラっとした。

それまで無言だった華がすすり泣く・・・。


医者が立ち上がる。

そっと華の横に立ち華の肩をさする・・・。

華の髪に隠れた顔からは涙がポロポロと流れ落ちる・・・。

「でもね。お兄さん・・・華ちゃん。よく聞いて下さいね」

「先ほども言いましたが華ちゃんには愛情という栄養が不足しています」

「そしてこの病は治りにくいかもしれませんが・・・治らないわけではないのですよ」

華の肩をさすりながら医者は続ける。

「お兄さん。できる限り華ちゃんのそばにいてあげて下さいね」

「そして・・時間を掛けてゆっくり愛情を感じさせてあげれば・・・・」

「華ちゃんの病は治りますよ」

華は泣いている

「ぅぅぅ・・・ぅぐ・・・」

その声を聞きながら華のこれまでの境遇を考えた。

どこの世界に愛情に満たされながら、リーマンを1人で襲撃する14歳の女の子がいるのだろうか・・・?

それほど・・・それほど・・・華は愛情に飢えていたのだ。

医者は華の手を握って華にこう伝えた。

「もし・・・お金を盗みたい気持ちになったら、その時はグッと我慢してね!」

「そしてすぐに先生に会いに来てくださいね」

華は涙をポロポロ流しながら

「ぅち・・わかった・・・」とだけ答えた。

そして医者は俺の目を見て言った。

「お兄さん。いつも華ちゃんのそばで愛情を注いであげて下さい。それがお薬ですよ」

恐らく・・・いや間違いなく。

この医者は俺が兄貴で無いことを確信しているであろう。

俺は華と手を繋いで病院を出た。

すっかり元気が無くなった華・・・。

俺は華が前に言っていたことを思いだした。

「ぅちぁんまり海にぃったことがなぃねん」

俺は華に声を掛けた

「海見に行こうか?」

電車に乗って大阪南港に向かった。

この広大な場所はいつきても閑散とした雰囲気がある。

いや。きっと人はたくさんいるのだろうが、広すぎてそう感じてしまうのだろう。

俺はこの場所が好きだった。

華と並んで岸壁に腰かける。

華は泣き疲れたのだろうか、頭を俺の肩に乗せてボーっと海を眺めている。

俺は考えていた

どうやって華に愛情を注げばいいのか・・・を

そんなことを考えているとそっと華が喋り始めた。

「ぅち・・やっぱり精神病やったんやなぁ・・・」

「・・・・・・・・」

俺は言葉に詰まる。
「ぅちの病気は治らへんねんなぁ・・・大人になっても・・・お婆ちゃんになっても・・・」

「そんなことないで!先生も言うてたやろ?治りにくいけど時間掛けたら必ず治るって」

「ほんまに・・なぉるん・・・かな・・・??」

「治る。絶対治るで!華があの先生に会いたくなったら俺が連れていったるからな!」

「ぅち・・・ぅち・・・自分がこわぃねん・・・」

そう言って華は目に涙を溜める。

これは華の特徴の一つかもしれない。華は滅多なことでは大泣きしない。

まずは目に涙を溜めて堪えようとするのだ。

俺はそんな華を見る度にたまらない気持ちになっていた。

華の頭をそっとなでてあげる。

「思いっきり泣いてもええで?」

そういうと華はまるで子供みたいにワンワンと大泣きをしたのである。

その日から俺は終始どうすれば華が愛情に満たされるのかを考えた。

あの家ではダメだ。あの母親ではダメだ・・・。

華はまだ14歳。家族や家庭の温もりが必要な年の筈・・・。

俺はある考えに行き着いた。

華を俺の実家に連れて行こう。

1度家族の団欒というものを味あわせたらどうだろう?

俺は5人家族で育った。

まじめで仕事熱心な父親。

料理好きの母親。

よくケンカもしたけど比較的仲の良かった兄貴2人。

俺は末っ子だった。

愛情たっぷりかどうかまでは分からなかったが、比較的普通の家庭で育ったとは思う。

しかし・・・。実家に華を連れていくには、それなりの段取りがある。

そう・・・華のことを家族に伝えなければならない。

華がまだ中学生であること。

華の家庭環境。

窃盗癖があること。

心の病であること。

そして鉄パイプで頭をカチ割られた出会い・・・。

親がこれを聞いて腰を抜かさないか?非常に不安であった。

俺は先に華に聞いてみることにした。

14歳の子供が果たして29歳独身男の実家になど行きたいだろうか?

例の公園で華に聞いてみた。

すると・・・

「すごぃ!1の実家にぃけるのん??ぃきたぃ!!絶対ぃきたぃ!!」

意外なくらい喜んだ。

「1のぉっちゃんとぉばちゃんに気にぃられるよぅに。。ぉしゃれせなぁかんな!ぅんっ!」

まぁ程々のお洒落にしてくれた方が助かる。

はしゃぐ華を見て決意した。

うっしゃ!がんばって親に話してみますかっ!!

その夜、華を送って自宅に帰ると早速実家に電話をした。

父親が電話に出る。

「久しぶり~1やけど。元気にしてる??」

「おお~。1か。元気やぞ!どしたんや?電話なんか珍しい」

「うん・・・。実は次の休み女の子連れてそっち行きたいねん」

親父は少し驚いた様子だったが、それでも嬉しそうに

「分かった母さんに言うとく!ご馳走作ってもらっておく」

俺はこの父親の喜びを今からブチ壊すのか・・・。

そう思うと少し心が引けた。

「実は親父・・・。その子の事で少し話があるねん」

俺は華の事を包み隠さず父親に話した。

14歳であること。

窃盗癖があること。

母親や弟のこと。

病院に行ったこと。

そして・・・鉄パイプで殴られたこと。

全てを矢継ぎ早に話した。

あとは父親の度量に委ねる。

父親はさすがに最初のテンションは消えていた。

でも黙って俺の話を最後まで聞いてくれた。

そして親父は言った。

「分かった母さんには話しておく。とりあえず1度連れてきなさい」

YESともNOともとれない反応だった。

次の土曜日。

俺は華と実家に帰ることにした。

華とは駅で待ち合わせ。

お洒落すると張り切っていたが果たしてどんな格好をしてくるのか?

駅で待っていた華は・・・。

グレーのワンピースに黒のブーツ。

華のスカート姿は初めて見た。

それは小さなお嬢様だった。

俺は華に声を掛ける

「そんな服持ってたんや!?」

華は不安そうに俺の顔を見る?

「変かなぁ~ぅち・・??」

俺は首を振って答える

「めっちゃ可愛いよ。今までの華の中で1番可愛いわ」

その言葉で華のテンションは上がりまくった。

「ほんまぁ~♪めっちゃぅれしぃわぁ♪♪」

「やっぱり1のぉっちゃんとぉばちゃんにぁぅんやから

マジメなカッコせなぁかんと思ったねん~」

そう言って恥ずかしそうにハニカム華は本当に可愛かった。

俺の実家までは電車で2時間。

途中2度の乗り換えがある。

華は終始ご機嫌だった。

「1とこんなに電車乗ったことなぃなぁ~!なんか旅行みたぃで楽しぃなぁ♪」

しかし実家の駅が近づくにつれさすがの華も緊張してきたようだ。

「ぅわ・・・。めっちゃ緊張するぅ。1のぉっちゃんとぉばちゃん、ぅちのこと気に入ってくれるかなぁ~」

子供の華にとって今回の件は婚約者の紹介だと認識しているのだろうか??

そんな華が可愛かったのでまぁ良い。


とうとう実家に到着した。

家の玄関を開けようとしたら華に止められた。

「1・・・ちょっと待って。心の準備する・・・」

そう言って深呼吸する華。

俺は華の心の準備が出来るまで待った。

「ぇぇで。心の準備・・・できた」
さて・・・。両親が華を見てどんな反応をするのか??

それは俺にも分からない。

いざっ!!実家の玄関を開けた!!

「ただいま~帰ったで~」

俺は玄関でそう言った。

靴を脱ぐ俺。

華はカチカチになってまるで人形のように動かない。

相当緊張している様子だ・・・。


奥から母親の声がする「おかえり~」

そう言いながら母親が走ってきた。


華は俺の母親を見て必死に挨拶をしようとした。

もしかして家で練習をしていたかもしれない・・・・。

「ぅち・・ぅち・・華です。」

華はやっとこさそう言った。

これが華なりの最大限丁寧な挨拶なのだ。

ちなみに華の敬語「です」はこの時初めて聞いた。

俺の母親はそんな華を見てニコッっと微笑むと

「華ちゃんいらっしゃい。さぁどうぞ上がってね」

そういって華の荷物を持ってあげた。

リビングに入ると母親は紅茶を出してくれた。

そして母親が華に話掛ける。

「華ちゃん小さくて可愛いね~。」

華はなんと答えていいのか分からず、モジモジしている。

そんな華を見て母親は話続ける。

「おばちゃん男しか子供おれんかったから、華ちゃんみたいな女の子が欲しかったんよ」

華は

「ほ・・・ほんまですか・・??」

と言いながらも顔を真っ赤にしている。

そういえば父親がいない

「親父は?今日休みやろ?」

母親に聞いてみる

「なんか休日出勤らしいわ。6時には帰るみたいやで」

ふ~ん。そうなのか。

父親と母親。

対面を一気に済ませられなかった華を少し気の毒に思った。

華はまた緊張しなければならないのだ。


それにしても・・・。

こんなに緊張している華を見るのは初めてだ。

俺の頭を鉄パイプで割った華。

それがまるで借りてきた猫状態。

今日のタメに一生懸命お洒落して、ワンピースを着て張り切っていた華が今は恥ずかしそうに下を向いてモジモジしている。

なんかそんな華がとても可愛く思えた。

「あ~。そやそや。おばちゃんなぁ。

華ちゃんのタメにケーキ焼いておいたんよ。食べてくれる??」

緊張する華に母親が言った。

華は驚いた顔で母親の顔を見つめた。

「ぇ・・ケーキ・・・??ぅちのために・・??」

「そうそうちょっと待っててなぁ」

そう言って母親は台所に消える。

「ぅちのためにかぁ・・。」

華が嬉しそうにそう呟いたのを聞き逃さなかった。

母親がケーキを持ってきた。

俺には特別珍しいものではない。

しかし華は目をキラキラさせてそのケーキを見つめる。

「ケーキってほんまに家で作れるんゃ~」

母親が切り分けたケーキを食べる華

「ぉぃしぃ。ぉばちゃんのケーキはコンビニのヤツより全然ぉぃしぃ」

まぁ。華なりの褒め言葉なのだろう。

きっと華の母親は親は子供にケーキなど焼いたことは無いのだろう。

そんな華が少し可愛そうに思える。

14歳の女の子といえば母親と台所に立って、料理を覚えたり、お菓子を作ったりするものじゃないのか?(よく分からないが)

母親は華の反応に気をよくし

「華ちゃん。お皿貸してみて。もう1個いれたげるから」

華も少し緊張が解けたのか

「ぅん♪ぁりがとぅ!ぉばちゃん」などと言っている。

ケーキを食べ終わると俺は自室に華を連れていった。

さすがにリビングで母親とずっといたら華も疲れるであろう。

俺の部屋は高校まで使用していた当時のままであった。

両親が独身の俺のため「いつ戻ってもいいように」と時々掃除をしてくれている。

リビングを出る時母親が華に

「おばちゃんおいしい晩ご飯作るからね!食べていってね」と声を掛ける。

「ぅん♪ぉばちゃんぁりがとぅ」

華はちゃんとお礼が言える子なのだ。

敬語は使えないけれど・・・。

「1のぉばちゃん優しぃなぁ♪」

「ぅちのことちぃさくて可愛いってぃぅてくれたで♪ぅれしぃなぁ~♪」

華はご機嫌の様子だ。

俺のスーファミを発見して嬉しそうに「FーZERO」をやっている。

さて・・・。

母親は当然父親から聞いていただろう。

華の素性を

それでもあのもてなしを華にした。

それは母親が少なくとも華の素性に対し嫌悪感を抱くことがなかった証だ。

俺は自分の母親の器のでかさに感謝した。

あとは・・・。父親だな。


父親は役所勤めで少々堅物なところがある。

一言で言えば「マジメ」なのだ。

その父親が華にどういう態度で接するのか??

これは俺にも未知であった。

夜6時。部屋で華と桃鉄をしていると1階から物音がした。

「ただいま~」

父親の声だ!帰ってきた!

すっかりリラックスしていた華の表情も引き締まる。

再び緊張した様子だ。

俺と華はリビングへと向かった。

華が俺の後を付いてくる。

リビングに入ると父親はネクタイを緩めていた。

俺は父親に

「おかえり」と声を掛ける。

父親は俺に気づき

「おお1!ただいま~」と返事をする。

そして父親の目線は俺の後ろにいた華を捕らえる。

さて・・・。華はうまく自己紹介できるのか?

「ぅち・・ぅち・・華です・・」

母親の時と同じ挨拶だった。

しかも今回の声は消え入りそうな声。

やはり父親がいない華には男親はさらに緊張すのであろうか?

父親は華をジッっと見つめて口を開いた。

「こんばんわ。華ちゃん。よく来てくれたねぇ~」

親父・・・。

華もホッっと緊張が解けた顔をする。

父親は

「小さくて可愛いなぁ~。華ちゃんは」

と母親と同じことを言っている。

恥ずかしそうにする華・・・。

父親は

「1と華ちゃん15分後に隣の洋間においで」

と言った。

はて・・なんだろう??

15分後洋間に行くと着替えた父親がいた。

そして「華ちゃん。そこに座り」と華をソファーに座らせると嬉しそうにマカダミアンナッツの箱を出してきた。

父親は

「もうすぐ晩ご飯やからなぁ。母さんに見つかるとうるさいからここでチョコ食べ」

と言って華に勧めた。

華はチョコを一個摘むと口に入れた。

「ぅち。こんなおいしいチョコレートはじめて食べたわぁ」

確かにマカダミアンナッツは旨い!

親父はそんな華を嬉しそうに見つめながら

「そうか。おいしいか?いっぱい食べてええんやで」

と華に勧める。

父親・・・そして母親・・・。

この2人が華に接す態度。

なぜ偏見を持たないのだろう?

普通は偏見の目で華を見るだろう・・・当然と思う。

しかし父親も母親もできる限る華もてなそうとしてくれている。

両親は女の子が欲しかったとこぼしていた事がある。

俺を産むとき正直女の子を期待していたそうだ。

だが残念?ながら俺が産まれ両親はとうとう女の子の親になる事ができなかった。

そんな両親にとって華は

「もし女の子がいればこんな事がしてみたかった」と思わせる存在なのだろうか?

それとも・・・自分の息子が連れてきた彼女を必死に理解しようとしているのだろうか?

答えは解らないが自分の親の器の大きさはヒシヒシと感じることができた。

4人で夕食を囲んだ。

サラスパにから揚げ、コロッケにグラタン、味噌汁にご飯。

母親も気合を入れてたのだうが洋食ばっかりである。

母親なりに中学生の好みを考慮したのか?

「ぅわ~♪めっちゃぉいしそぅ」

「華ちゃんいっぱい食べてね」

母はそう言って華の小皿にから揚げとコロッケを乗せてあげる。

俺と父親は久しぶりの晩酌だ。

「華。先食べや!」

俺がそういと華はコロッケを一口かじって

「しまった!!」と言う顔をした。

コロッケを小皿に戻し一旦箸を置くと、恥ずかしそうに

「・・・ぃただき・・・ます・・・」

と言った。

華の家庭ではきっと「いただきます」なんて言葉は使わないのであろう・・・。

それを見た母親は

「はい!どうぞっ!」と笑顔を見せた。

華は全てのおかずを食べる度に

「ぉぃしぃ。ぉぃしぃ」と言った。

そんな華を見て俺の両親も目を細めていた。


夕食が終わって実家を出る。

玄関先まで見送ってくれた両親は

「華ちゃん。またいつでも遊びにきてな!」

そう声を掛けた。

華は精一杯の感謝の気持ちを込めて

「ぉっちゃん・・・ぉばちゃん・・・。ぁりがとぉ!!」

と言った。

両親はニコニコして俺と華を見送ってくれた。

帰りの電車・・・。

華は興奮が冷めやらない様子だ。

「1のぉばちゃんのケーキぉぃしかったなぁ~。ぉっちゃんも優しかったなぁ~」

と嬉しそうに話した。

そのうち余程疲れていたのか俺の肩に頭を乗せ眠る体勢に入る。

華は呟く

「ぁんなに優しいぉ父さんとぉ母さん・・・華も欲しかったわ・・・」

「華も1もの家にぅまれたかったわ・・・」

そう言って華は眠った。



翌日の夜父親から電話が掛かってきた。

「昨日はありがとう。華も喜んでやわ」

「そうか。ちゃんと華ちゃん送ってあげたか?」

「うん。送った」

「そうか・・・」

沈黙が流れる・・・。

「親父・・・華はどうやった?」

俺は聞いてみた。聞かねばならない事だった。

「・・・・・・・・・うん」

父親は慎重に言葉を選んでいる様子だった。


「可愛くて、素直で、いい子やと・・・思う」

父親はそう答えた。

しかし・・・。歯切れが悪いのは丸解りである。


「思うけど・・・なに?」

俺は聞いてみた。

父親は言う

「華ちゃんはええ子や・・・。しかしお前に華ちゃんの人生を背負えるか?」

そうか・・・。親父は華を1人の人間をして認識しようとしている。

息子の彼女として迎え入れる覚悟をしようとしている。

しかし・・・しかし。父親が気にしているのは他でもない。その息子の覚悟なのだ。

「お前にその覚悟・・・あるんか?」

俺は・・・俺は・・・。

恐らく覚悟をしていたと思う。

この時には・・・。


「覚悟はしてる・・・」

俺はそう答えた。

華の事を・・・心から愛していた。

父親は

「そうか分かった。今度また華ちゃんと遊びに来なさい」

そう言って電話を切った。

俺は心の中で「親父ありがとう・・・」

そう呟いた。



【最終章 俺と華】

俺と華はその後も順調に付き合いを続けた。

俺の実家にもその後何度か遊びに行った。

華の要望だった。

「ぅち1の実家にぁそびにぃきたぃ!ぉっちゃんとぉばちゃんに会いたぃ!」

実家の両親はいつも華を温かく迎え入れてくれた。

回を重ねる毎に自分の娘が来たように喜んでくれた。

華との日常は特別な変化はない。

会える時は公園で話して、その帰り道に定食屋でご飯を食べた。

電話は毎日した。

華は毎日報告する

「今日も人のぉ金とってなぃよ」

まぁ当然の行為なんだけどね。

華にしてみれば毎日毎日が積み重ねなのだろう。

毎日毎日俺に報告をすることで積み重ねたい「何か」があるのだろう。


それでも2~3回は華から

「ぁの病院ぃきたぃねん・・・」と言ってくることがあった。

恐らくストレスが極限に達した時、あの女医に話をしたくなるのだろう。

俺はその度に華を病院に連れていった。

医者はいつも親身に話を聞いてくれた。

華もそれにより安心感を得ていたに違いない。

華に鉄パイプで殴られてから1年が経った・・・。

華は中学3年になっていた。

俺は会社を辞める決意をしていた。

もう俺の居場所は会社になく給料を貰うため惰性で出勤していた。

そんな生活はもう終わりにしよう。

会社を辞めよう!!

ある休日の昼下がり、俺と華は淀川の河川敷を歩いていた。

ポカポカして非常に気持ちのいい天気だ。

華と会うのは夜が多い。

俺は華に昼間の草の匂いや風を感じさせてあげたかった。

2人で手を繋いでブラブラと歩く・・・。

遠くで草野球をする声が聞こえてくる。

俺と華は川べりに腰を下ろした。

華は俺の肩に頭をもたげてきた。

華はこの体勢が好きだ。

1番安心するそうだ。

華は川を見ながらポツリと言った。

「なぁ~。華はちゃんとがんばってるぅ??」

華は時々こういう質問をする。

自分の頑張りを他人に確認することで安心しているのだ。

「頑張ってんで」

俺は答える。

2人でボーッと川を眺める。

華が俺の手をギュっと握り締めてきた。

「1・・・。ぉねがぃがぁんねん・・・」

「なにお願いって??」

華はゆくっりとこう切り出した。

「ぅちなぁ。もぅ絶対人のぉ金とれへんよぉ・・・」

「だからなぁ・・・1」

「ぅちが・・・ぁと1年。中学卒業まで頑張ったら・・・」

華はさらに手を強く握り締めてきた。

「ぅちと一緒に住んでほしぃねん・・」

今までの華との出来事を思い出す・・・。

USJで金を盗られたこと・・・。

華の母親のこと・・・。

吉村の事件・・・。

華がシンナーでラリッたこと・・・。そして・・・。



2人の出会いは俺が華に鉄パイプで殴られたこと・・・。


それら全てのことを踏まえて俺は言った。

「ええよ。俺と一緒に住もう!!」

華は目を閉じて静かに呟いた・・・。

「ぁりがとう・・・。ぅれしぃで・・・。1・・・。」




【エピローグ 俺と華のいま】




俺がこのスレを建てたのが昨日の夜中でした。

俺はその時ネットで仕事を探していました。

俺の隣では・・・。

華がスヤスヤと寝息を立てていました。

華はこの春、中学を無事卒業し俺の家にやってきました。

そして現在は介護福祉の学校に通っています。
(奨学金制度を利用。俺も少しは援助しました)

華は毎日忙しそうにバイトと学校に精を出しています。

華はあれ以降人様の金銭を盗むことは一切していません。

(お前に全て把握できるかよ!というツッコミが来ると思うので、あえて僕の知る限りは・・・としておきます)

華の寝顔を見ながら

息き抜きにVIPを覗いたことがこのスレを建てた動機です。


出会った時より少し大人になった華の寝顔・・・。

もし僕と華のこの奇妙な出会いを皆さんに伝えたら・・・。

果たしてどんな反応が返ってくるのだろう??

想像も出来ないくらいに煽りが少なく、とても驚いているのが現在の感想です。

俺と華はこの先どうなるのか??全く解りません。

華はもうすぐ16歳。

色々な出会いもあると思います。

そして様々な楽しみも見つけると思います。

そんな時果たして僕の側にいてくれるのか?

こればっかりはどうにも解りません。

でも今は毎日楽しく過ごしていければいいかな?そんな感じです。

そして早く就職してバリバリ働きたいと思っています。

こんな長いスレになるとは僕自身想像していませんでした。

応援して付き合ってくれた皆さんお疲れさまでした。

そしてありがとう。

これで俺と華のお話は終了です。











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何度読んでも泣ける。続きもまとめてもらえると助かります

No title

いい話やね!
>>1の両親が素敵すぎる
続きがあるなら、読んでみたいです
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